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フリジアの選択

 ドヴェルグタウンが崩壊してから一週間が経った。

 その間にリーシャ達も回復し、フリジアも動けるようになった。

 この一週間でリーシャ達から聞いた謎の男の襲撃もない。

 その謎の男が何者だったのか、誰も分からずじまいだ。

 そして、今日このドヴェルグタウンからドワーフ達は移住先に移動する。

 場所は商売の国――ラーマ。

 近くにエルフの国があるが、やはり様々な確執もあり少し離れたラーマに行くこととなった。


 「よし、準備はできたか?」


 デックさんが残ったドワーフ達を率いていくこととなる。

 今や人口は半分以下となってしまったドワーフ達。

 悲しみに暮れ、自ら命を絶つ者も多くいた。

 それでもデックさんは諦めずに残った同胞達を導いていく。


 「じゃあ、故郷にさよならだ」


 ドワーフ達全員がドヴェルグタウンの入口で祈りを捧げる。

 ここドヴェルグタウンはドワーフの英雄が作り出した国らしく、大昔からここでドワーフ達の営みが繰り返されていたという。

 自分の世代でそれが終わろうとは、とデックさんは一人つぶやいていた。


 「それでは、斗和殿。このたびラーマへの招待を感謝する」

 「いえ、ラーマもドワーフ達を快く迎え入れると思いますよ」

 「ガーベラにいる私達獣人族も歓迎するからね」

 「ありがとうございます、ダリル殿」


 デックさんは深くお辞儀し、出発の合図を出す。

 それに合わせドワーフ達はヘカトンに乗り込んでいく。

 その中でフリジア一人だけが止まっていた。


 「フリジア?」

 「…………」


 フリジアは自分に支給されたヘカトンを眺め、動こうとはしなかった。

 その様子にヘカトンに乗り込んだデックさんが訊ねる。


 「フリジア、何を悩んでいるんだい?」

 「私は……私は着いて行った方がいいんだろうか?」

 「それは自分自身で決めることだ、他人が決めていいことじゃない」

 「どうしたら」


 デックさんは困ったようにこちらを見ていた。

 ヘカトン越しに見られている。

 どうもデックさんは俺達に助けを求めているらしい。

 俺とクラスメイト達はフリジアに近づく。


 「フリジアよう、お前強いんだから俺達と一緒に旅しようぜ」

 「そうだ、実際一対一で戦ったら勝てねぇかもしれねぇしな、それに可愛い子募集中」


 と日向と充が言う。


 「フリジアが俺達と一緒に戦ってくれるなら、より戦闘が安定すると思う」


 と宗太が。


 「女子が増えるのは嬉しいし、入ってほしいな」

 「それな~」

 「だよねぇ、フリジアちゃんと話したいし」


 と三人娘が。


 「前にも聞いたけど、俺達と一緒に旅に行かないか」


 と斗和が言った。

 フリジアはそんな俺達を見て、固まる。

 フリジアの頭の中はフル稼働していた。それは、一緒に旅に行くべきか行かないべきかを決めているのだ。

 そして、声が漏れる。


 「私はまた暴走するかもしれない」

 「大丈夫、俺も暴走したことあるから、キリンのせいで」

 『もう言わない約束だろ』


 心の内から何か聞こえた気がするが無視する。


 「でもよ、俺は役立たずかもしれねぇぜ」

 「大丈夫だ、日向と充は役に立たないどころか足を引っ張てくるからな」

 「宗太言うようになったじゃねぇか」

 「あんだとぅ!?」


 じゃあ、とフリジアは言葉を続ける。


 「俺は着いて行ってもいいのか?」

 「行ってきなさい、フリジア。お前の道は自分で決めないといけない」


 デックさんは優しい声でフリジア伝える。

 その声には同胞以上の優しさが含まれていた。


 「じゃあ、俺もその旅に連れてってくれ」


 やっと出せた答えに、斗和達は歓迎する。

 その様子を一歩引いたところからデックさんは見ていた。

 ヘカトンのコックピットの中、静かに涙を流している。

 彼は初めてフリジアに会った時に気づいていたのだ。

 彼女が孫であるということを。

 だが、それは伝えたりはしない。できやしない。

 それを知ったフリジアがその情報に判断を鈍らせる可能性があるからだ。

 儂を置いて死んでしまった息子の一人娘を脳裏に焼き付ける。忘れたりしないように。


 「では、儂らはラーマに向かう。ではな、フリジア」

 「デック、さん。ありがとう、ございました」


 誰も知らないその関係をデックさんは大切にする。

 ヘカトンに乗ったドワーフ達は振り返らず、ラーマへと向かって行った。

 その姿はすぐ森に入っていき、見えなくなる。

 フリジアは見えなくなった後もその後ろ姿を思い浮かべ、森を見ていた。


 「じゃ、行くか」

 「うん」


 斗和に言われ、動き出す。

 新しい一歩を踏み出した。











 この日、世界の勢力図は変わった。

 ドワーフの国が何者かによって潰され、そこら辺一体をエルフ達が管理することとなる。

 これは予想外だ。

 まるでシナリオと違う。

 彼なのか彼女なのか分からない存在が嘆く。

 なぜこうなったと、最初はうまくいっていたのだ。異世界召喚に、勇者の育成、そして他種族による抗争。

 それがいつの間にかおかしなことになっている。

 せっかく神の道具を命からがら盗み用いたのに、これでは損だ。

 不貞腐れたようにゆっくりと辺りを歩き始める。


 「一体何が起こっているんだ?」


 この予言書のとおりなら、このようなことは起こらない。

 だが、もしもこの予言書の存在を知っている者がいたら、どうだ。

 この予言書のとおりにならないように邪魔もできるだろう。


 「勇者がマルバーン王国を離れたのも不思議だ、そして、メフィル。あいつは俺の予言書の中には出てこない名だ。一体誰なんだ?」


 俺の世界に現れた不快な存在は、まだ何かをやるらしい。

 このままだとまったく逆の終わり方をしてしまう。

 どうすればいいのか。

 計画を早めた方がいいのだろうか。いや、しかし勇者が人間側にはいない。

 なら――――。


 「そうだ、作り出したらいいんじゃないかな」


 いいアイデアだ。

 いないのなら作り出したらいいんだ。

 そして、計画を前倒ししてしまおう。

 これ以上邪魔をされないように。予言が狂ってしまわないように。

 その存在は空中に出現したコンソールを操る。

 自分の力を適合者に与え、人工勇者として爆誕、今回は失敗しないように選ぶのは慎重に行おう。


 「あ、こいつはいいかもしれない」


 適合確率がとても高いのが一人、マルバーン王国にいる。

 第二王女だ。

 彼女は私と近いものを持っているのだろう。なかなかの適合率だ。

 よし、では今代の王に娘を渡すよう言うか。

 そして、その存在は動き出す。それはこの世界全体を揺るがしていくこととなる。


 「ははっ、楽しくなるなぁ」


 にたぁ、と笑って、その存在は王に会いに行った。

 その頭からはメフィルのことなどこれっぽっちも残ってなどいない。

 それがこれからの出来事を分けた分かれ目だった。











 「さあ、始まるんでしゅね」

 「そうかもね、でも絶対に勝つよ。奴のすきにはさせない」

 「準備は万端でしゅ」


 またどこかで動き出そうとしていた。



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