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壊れた故郷

 フリジアを背負ったまま、デックさんのところに向かう。

 デックさんは瓦礫の撤去作業の指示を飛ばしている。


 「デックさん、フリジアは無事でした」

 「良かった、もしも死んでいたら牢屋に入れたことを悔やんでしまう」

 「…………」


 デックさんを見るなり、フリジアは顔を隠す。

 背中に顔が引っ付けられていた。


 「どうしたんだ?」

 「……何でもない」


 先ほどの強気な態度とは違い、おとなしくなっている。

 まるで借りてきた猫だ。

 このままではフリジアの治療もできないので、デックさんと別れ、リーシャ達が眠っているところへと向かった。


 「失礼します」


 そこは緊急に作られた治療用のテントだった。

 そのテントの中には先ほどの戦いで負傷していたドワーフ達が寝ている。その中でリーシャ達も見つけた。


 「あ、トワさんですね」

 「はい」


 テントの中では医療従事者のドワーフ達が大忙しで、ばたばたと動き回っていた。

 ドワーフは回復魔法を使える者が少ない。

 そのため、どちらかというと薬草などを使った治療がメインだ。

 忙しそうだったので案内をやんわりと断り、仲間のところへと向かう。

 まだ目を覚まさないリーシャとメル、ダリルの顔色が悪い。


 「コマチ、どうだ?」

 「魔力が極端に少ない」


 コマチがリーシャ達の額に手を当てて体の異常を確認してもらったが、どうも体自体に異常は見られず、保有する魔力量がとても少ないらしい。

 不自然に魔力量が少ないため、戦っていた相手に吸い取られた可能性があるとか。

 そう話していたら、後ろから声がかかる。


 「もうついたんだろ、降ろせよ」

 「おおっと、そうだった。ちょっと待ってくれ」


 今も治療をしているドワーフの一人にベットがある場所を聞き、コマチとミアに取りに行かせる。

 そして、持ってきてもらったベットにフリジアを横たわらせた。


 「痛っ」

 「ごめん、ちょっと乱暴すぎたか」


 足が痛むのだろう。

 今回は回復魔法が使える亜里沙もメルもいないので、不得意だが俺が使うこととする。

 まず、足の怪我のところを触診することにした。


 「おい、何をやる気だ」

 「ミア抑えといて」

 「分かりました。こら、暴れないでください」


 足はくるぶしの辺りが腫れている。

 赤色を通り越して紫色に変色していた。

 優しくその部分を触り、骨がどうなっているのかを確かめる。


 「ううううううっ」

 「我慢してください」


 触ってみた結果、足は両足とも折れていた。

 それも折れた骨がずれている。

 メルや亜里沙ならずれていたとしても簡単に直すのだが、俺はそうはいかない。

 少し手荒になってしまうが、このままだと変な形にくっついて最悪歩けなくなる可能性があるためやらせてもらう。


 「ミア、コマチ、抑えておいてくれ」

 「はい」

 「分かりました」


 俺の記憶を覗いたことのあるコマチは今から何をするのか、分かっていた。

 コマチはフリジアの脇から手を入れ、がっしりとホールドしている。


 「おい、一体何をするつもりなんだよ」


 強気だったフリジアの目じりが下がっている。


 「すまん、行くぞ」

 「な、あああああああああああ」


 両足を思いっきり引っ張る。

 まずは骨のずれを治すため、原始的な方法だが引っ張ってから元の位置へと持っていく。

 ある程度伸ばして足を触ってみる。

 うん、だいぶずれは治っている様子だ。

 次は回復魔法をかけて足の骨を接着する作業に移った。


 「よし」


 回復魔法はあまり得意じゃないので、キリンにサポートをお願いする。


 『了解、僕の出番だね』

 「魔力の調整をしてくれ」

 『じゃあ、トワは魔力を出し続けていてくれ』


 キリンに魔力調整をしてもらい、適切な回復魔法の量をかけ続ける。

 それから十分後。

 足の腫れもだいぶ引いてきており、キリンも後は自然回復を待ってもいいと言っていため、回復魔法をやめる。


 「よし、これで大丈夫」

 「大丈夫じゃねぇんだよ」


 強がってはいるもののその目には涙が溜まっている。

 そして、直したのに感謝を言葉にしない態度を見たミアは、フリジアを咎めた。


 「フリジア、トワ様に感謝しなさい。治してもらったんですよ」

 「そんなこと言ったって、治してほしいなんて」

 「フリジアっ!!」

 「うっ、分かったよ。あ、ありがとう」


 何かミアが子供をしかるお母さんに見えてしまった。

 俺はその不器用な感謝の言葉に応え、それからフリジアに聞きたかったことを聞く。


 「なあ、フリジア。お前は何で五長老のところにいたんだ」

 「そんなのお前に関係あるかよ」

 「まず、お前の両親は一体どこにいるんだ?」


 フリジアはそう言われ、俺を見た。

 その目には怒りが籠っている。


 「親はエルフに殺されたんだよ、エルフにな」


 そう言って、眠っているメルを睨んだ。

 エルフに両親を殺された、か。

 俺はこのドヴェルグタウンに来て少し不思議に思っていたことだ。

 もしかしたら、あのエルフの前王がそんなことをしたかもしれないが、それでも時期がおかしくないか。


 「それは誰に聞いたんだ?」

 「五長老だよ。俺達は親が殺された子供だと言われた」

 「全員が、か?」

 「ああ、そうだよ」

 「それはおかしくないか?フリジア、お前もおかしいとは思わなかったのか」


 それを伝えられたのが5歳くらいの時らしい。

 今から十何年も前の話で、その時はまだエルフの第一王子と王は殺されておらず、戦争にはなっていないはずだ。

 小競り合いはあったようだが、その時は死者が出るほど激しいものじゃなかったとイールは言っていた。

 ということはだ、もしかすると五長老の話は嘘っぱちの可能性がある。

 そのことを伝えようとした時、テントが開かれた。


 「おお、ここにおったのか」

 「デックさん」


 医療従事者のドワーフ達にデックさんは囲まれ挨拶をされている。

 デックさんは仕事に戻るように言いつけ、こちらへと歩いてきた。

 そして、フリジアを一瞥して話しかける。


 「今、五長老達の遺体が見つかった。全員死んでいる」

 「そうか」


 それを聞いてもフリジアはあまり反応を示さなかった。

 その他、五長老に付き従っていた者達も全て殺されていたようだ。

 瓦礫の下から潰されたヘカトンがたくさん見つかったらしい。


 「我らは若者を失いすぎたな」


 五長老に従っていた者は、大体が若者達。

 それが謎の敵によって全て全滅させられていたらしい。

 デックさんはため息をつく。


 「多くの同胞が死んでしまった、済まないな、ドワーフの事情に関わらせて」

 「いえ」

 「フリジア、お前はこれからどうする?」

 「は?」


 デックさんがいうこれからという言葉に怪訝な顔を浮かべていた。

 これからどうする、か。

 その問いは俺自身も考えなくてはいけないことだ。

 リーシャ、メル、ダリルは攻撃を受けダウンしている。クラスメイト達も同じく目を覚ます様子はなかった。

 フリジアも俺もその言葉について考えていた。


 「これからってどういうことだよ」

 「私達はこのドヴェルグタウンを離れることにした」

 「捨てるっていうのかよ、生まれ故郷を」

 「無理なのだ。圧倒的にドワーフの数が足らない、このままだと他の国に攻められた瞬間、全滅するのは目に見えているだろう。だから、フリジアはどうする。私達は君をもう牢屋にも入れたりはしない」

 「そんなこと言ったって」


 フリジアの仲間達も全て死んでいる。

 牢屋の中で運悪く天井落ちてきて潰れていた。

 フリジアは考える。が、どうしたらいいのかが分からない。

 今までは五長老の指示、命令がありそれに従って行動していたがそんなものをしてくれるのはもう誰もいないのだ。

 そして、自分には身寄りなんてのもいない。

 フリジアは考えるのを止めた。

 もう、いいか。どうせこのままのうのうと生きてもいいことないし。

 頭が重く、なんだか重く感じる。


 「フリジア!!」

 「あ」

 「もしフリジアが良かったらなんだが、俺達と一緒に来ないか?」

 「一緒に?俺が?」

 「ああ、俺達と一緒に旅をしないか」

 「旅……」


 そう言われても。

 俺は一体何をしたいのか分からないんだ。

 思考は停止し、ただ下を向いているだけだった。


 「まあ、今すぐ答えを出さなくてもいい。また俺達がいるときに答えを聞かせてくれ」


 そう言って、コマチ、ミア、デックさんと一緒にテントを出る。

 今、フリジアには休息が必要だろう。

 そう思っての配慮だ。

 テントから斗和達が出て行った後、フリジアはぼすっと体をベットに預けた。

 上には緑のテントが見える。


 「俺はどうしたらいいんだ?」


 自分の周りの人物が一斉に消えた衝撃は、彼女の思考を曇らせていた。



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