結局こうなりますとさ
「ダメかどうかは話を聞いてから……いや、聞いた後じゃ遅い可能性がある」
お願いの内容を尋ねようと思ったが、そもそも聞いてしまえば後戻りできなくなる系のお願いだった場合――具体的にはキックスター絡みの依頼などであった時が怖い。
「まずは確認させろ。その話、聞い後でやっぱり聞き入れない、ってのは有りか?」
「…………チッ」
「今舌打ちしたよなっ!? 露骨に「ハメ損ねた」みたいな表情したよなっ!?」
「まぁ、その……なんだ。確かにこれからするお願いってのはキックスター絡みだ」
背負っていたグルグル巻きの荷物……傀儡を店主へと突き出しながら、つまらなさそうに呟くヴァイス。
それを受け取った店主は、慣れた手つきで関節部のパーツのメンテナンスを始める。
それを横目で見ながら、
「ほらな。じゃあ聞き入れない。もう少しゆっくりさせてくれよ」
とため息をつくと、がっくりと項垂れるヴァイスの隣で、何やらこそこそと俺に背を向けてしているスカー。
――まさかっ!?
「お嬢、キックスターへの連絡は済ませました。無事に巻き込めた、と」
「よくやったスカー! 褒めてつかわす!!」
どうやら後ろ向きでスカーが行っていた行動は、キックスターへ、俺を依頼へと引きずり込めた事の報告だったらしく、腹が立つほどにクールな表情でヴァイスへと報告される。
それまでの項垂れが嘘だったように、急に元気になったヴァイスは、ニコニコ笑顔で追い打ちを。
「それでそれで? どうするどうしちゃう~? どんな選択肢取ろうと後日しっかりキックスターから正式な依頼として通達されちゃうけ・れ・ど~?」
「…………腹が立ちまくるけど、どうせ逃げられねぇんだろ。――分かったよ、どんな願いだよ、言ってみろ」
腹を括った、とまたため息をついてそう言うと、ニコニコ笑顔はニヤニヤ顔に。
…………ちょっと待て。
「スカー? 言質取ったな? 願いを聞いてくれるらしいぞ?」
「えぇ、確かに聞きました。嬉しい限りですね。キックスターからは、『ダメ元で聞いてみてください』と言われていましたが、ここまで快く引き受けてくださるとは!」
やっぱりさっきのは連絡なんて入れてねぇんだな!?
動きと態度とやりかねないという思いから簡単に信じ切ってしまった……。
つーかまた俺巻き込まれるのかよ……。
(きっと旦那はそういう星の下に産まれてきたんでしょう。諦めましょうぜ)
(そうだぜ相棒。人間諦めが肝心だってよく言うじゃねぇか! HAHAHA)
(家で、ダラダラ、するより、何倍も、いい)
(パパ~、お仕事頑張ってね~)
ありがとうよ脳内の装備達。
どれも慰みにも励ましにもなってないけどな!!
「それで? お前何依頼されたんだよ……」
そう尋ねたときと、ヴァイスの傀儡のメンテナンスが終わるのが、同時だった。
*
「ごちそーさんっす」
「お嬢、行儀悪いですよ?」
「お粗末様でした」
「…………待て」
「ヴァイスさんはお酒飲めます?」
「年齢的に無理だしスカーの目が怖いから紅茶がいいー」
「かしこまりました」
「待てって」
「あー……いい香り。この香りから丁寧な仕事ぶりが分かりますなぁ」
「あらあら、嬉しいですね」
「聞けよ! 人の話!!」
他の誰かに聞かれたらマズい話だというのは理解している。
だから場所を変えることには賛成だった。
……だが、何故に俺の家なのだ!?
しかも当たり前の様に勝手に上がってくつろいで。
当たり前の様にメイリンの手料理を平らげて。
食後には紅茶すら満喫する始末。
それで俺の呼びかけには完全無視だからな……。
『白頭巾』ってこえーわ。
「まぁ、からかうのはこれくらいにしておいて」
「おい」
「冗談冗談。んでさ、私が受けた依頼なんだけど……」
ようやく依頼の内容を話し始めるヴァイスだったが、聞く限りは至極単純な依頼だった。
とある一人を、最低でも身動き出来ないようにする。
出来れば喋ることすら困難な程度が望ましい。
という依頼。
そんな依頼なぞ、『白頭巾』ならば容易そうだが、問題はそのターゲットである。
どうやら先の依頼でシューリッヒを捕まえた後、口を割らせたのだろう。
彼から薬を受け取り、戦争を煽動しようかと画策していた貴族が標的らしい。
が、よりによって貴族か……。
「助けというか、協力を望んでいる理由が分かったよ……」
「まぁぶっちゃけ全員殺していいんなら楽勝なんだけどよ。身動き出来ないって、どこまで痛めつければいいのかまるで分かんなくて……」
頭を掻きながら、胡座の体勢のまま身体を揺らすヴァイス。
というか今さらっと物騒なこと言ったな?
「んでも俺に何を求めてるんだよ……。見ての通りおっさんで、呪いの装備身に纏ってて取れやしねぇし、貴族に知り合いなんていやしねぇぞ?」
疑問をそのまま口にしたその時、
「ただいま帰ったのじゃ~。ん? 客かの?」
ナイスなのかバッドなのか、ピッタリのタイミングでセレナが帰ってきて、
「実は、その貴族主催の舞踏会を二組手に入れまして、そちらのお嬢さんとうちのお嬢とを貴族風に仕立て上げて潜入させようかと」
どう考えても無茶としか思えない作戦を、スカーが口にした。