達成しましたとさ
「ふぉぉ!? 何コレ!? ふんふん……なるほどなるほど? りょーっかいっ! 情報ありがとー!!」
脳内に直接響く俺の言葉に最初は驚き、徐々に楽しみ始めたヴァイスは、いちいち俺の伝える情報に相槌を打ちながら情報を受け取って。
最後には屈託のない笑みを俺に向けてから感謝の言葉を口にする。
こうしてみると見た目のままの少女って感じがして結構カワイイと思うが、こいつが『白頭巾』なんだよなぁ……。
赤毛の髪を整えながら、茶色の双眸で漁港を見据えたヴァイスは一言。
「行くぞ」
とスカーへ告げる。
「御意に」
先ほどまでと打って変わった空気を纏い、周囲の気温を引き下げるほどに濃縮した殺気を体内に秘めたヴァイスは、先ほどまで傀儡が被っていた白頭巾を被り始める。
……そういや、あの傀儡どこ行ったんだ? 気が付けば消えてたが……。
「貴方の『降魔』と同じですよ。傀儡をあの頭巾に憑依させ、その頭巾を得物に戦う。『白頭巾』代々に継承される戦い方です」
俺が傀儡を探していることに気が付いたのか、スカーがそう説明してくれた。
物を物に憑依させるなんて、今まで聞いた事も無かったが、何故か不思議と納得出来てしまう。
最近精霊を付与するだの、精霊の装備品になるだの、装備と合体するだの、珍しいことに立て続けに巻き込まれているせいだが、俺も毒されてきてんのかね……。
(十分人外に足突っ込んでると思いますがね、旦那は)
(足っつーか肩まで浸かってるぜ? 相棒。HAHAHA)
(降魔……一般人、には、無理)
(そもそも母上や妾が気を許しておる時点で一般人な訳がなかろう。自覚するのじゃ)
ザ・非現実達に何やらツッコまれるが、反応したら負け。反応したら負け。
「ではケイス。また会おう。次会うときも、敵でない事を祈るよ」
何やらいくつか魔法を詠唱していたヴァイスが、目線を隠すように頭巾を目深に被ったかと思うと、次の瞬間には音も、気配も、影さえをも残さずに、その場からかき消えた。
スカーすら同じくかき消えて、数秒後には漁港に停泊していた一隻が真っ二つになったのが確認できた。
瞬きの時間で漁港に移動し、シューリッヒを確認して船を沈めたのか……。
あいつ、あれで人間なんだよな? 同じ種族とすら思えないんだが……。
「お主が言うなお主が。四大の一柱ユグドラシルと面識ある人間が果たしてどれだけおるか考えるのじゃ」
「その件は俺関係無いだろ。巻き込まれただけだし」
「――まぁよい。さて、無事に依頼を終えたようじゃし、戻るのかの?」
「そりゃあ戻るさ。キックスターに報告もしなくちゃだし」
セレナが言うようにキックスターからの依頼は無事に終了。
後は帰るだけ……。
そうか、帰る必要があるのか。
シューリッヒの依頼はあいつが売った商品の売り上げから算出する契約だった。
つまりは今までで一銭すら俺の懐には入っておらず。
ついでに言えばキックスターからも渡されたのは『烏の目』と連絡用の水晶のみ。
さて、ここで問題です。今俺の財布には二人分のエポーヌ国までへの移動費はあるでしょうか?
「はい! 皆無っす!!」
おお、トゥオン君早かった。そして正解。
望むなら次はもっと優しく包んで答えて欲しかったかな……。
「どれだけ包もうとも現実は現実じゃろうが。……歩いて帰るか、妾に乗って移動するか、選ぶがよい」
冷ややかな目をセレナに向けられ、突きつけられた選択肢はゆっくり時間をかけて疲れるか、短い時間で疲れるか、という疲れることには変わりが無いものだった。
*
「それにしても珍しいですね」
「?」
漁港内にある船員達用の宿泊施設。
その二階の窓から港の様子を眺め見るヴァイスとスカー。
「偽名では無く本名を伝えたことですよ。……最も、逆に伝えていましたが」
視線の先には騒ぎがあり、その渦中にあるのは白頭巾を被った例の傀儡。
「まぁ、それなりの誠意を見せなくちゃと思ってねー。どーせ近い将来、あいつと共同でやらされる任務もありそーだし」
指をこまめに動かして、まるで楽器でも演奏するかのように傀儡を操るヴァイス。
「それはいつも通り――」
「そ、勘。けど、私の勘は的中率たっかいぞ~」
どうやらやることは終わったのか、手を一気に引き上げると――。
音も無く、ヴァイスとスカーのいる部屋へ、白頭巾が現れる。
「存じておりますよ、スカーレットお嬢様」
「じゃあヴァイス、いつも通り報告よろしく~」
戻って来た傀儡の手を引いて、ベッドに押し倒したスカーレットは、そのまま頭巾を取って床へと放り投げる。
「報告内容はどのように?」
「いつも通りさ。『依頼完了。目撃者多数。目標の生命、所持品、並びに情報全てを破壊。なお、目撃者の多くは、エポーヌ以外の国の暗部の特徴を口にするように操作済み』以上」
頭巾の下から出てきた、自分そっくりの傀儡を抱きしめ、キスをして。
歳相応の少女のように戯れ始めたスカーレットの言葉を、一字一句違えること無く報告したヴァイスは、葉巻を一本取り出して吹かし始める。
彼が楽しむ葉巻はエポーヌ国の特産品では無く。
『白頭巾』達が独自に入手した……ハルデ国の特産品だった。