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装備し直しましたとさ

 その靴を履くだけで、誰にも追いつかれなくなる疾駆を行える。

 そう唄われた魔法の靴があった。

 速さとは武器であり、強さであり、また――弱さでもあった。

 そんな、誰しもが望んだその靴は、望んだにも関わらず、装備できない存在が手に入れることになった。

 誰しもが装備できるはずの靴を……装備できない存在が。



 切り株に置かれた靴を前に、崩れるように涙を流す、ハーピィが一体。

 極彩色の毛に覆われた羽毛は、彼女の感情とは対になるように明るくて。

 それ故に、震える彼女の肩が、一層の悲壮さを醸し出していた。

 恐る恐る声を掛ける。

 直感的に、普段俺を守ってくれている存在だと認識して。


「――シズ、か?」


 その問いかけに、ハーピィはガバッと顔を上げ……。


「そんな……。ご、ご主人様ですか?」


 驚愕の表情で俺に呟いた。


「以外に誰が居るんだよ……。つーかその――その姿、初めて見るな」


 シズからの問いかけを肯定し、女性の容姿に対して聞いていいか若干躊躇(ためら)ったが、意を決して尋ねてみた。

 すると――、


「幻滅……致しましたか? これが私の本当の姿なのです……」


 と消え入りそうな声で返って来た。

 普段から具現化していた、紫色の長髪女性ではなく、ハーピィが真の姿ねぇ。


「ま、いいんじゃねぇの? どんな姿だろうが俺を助けて、守ってきてくれたことには変わりない訳だし」

「――――はい?」

「大体シズは気にしすぎなんすよ。そもそも普通の感性じゃ、呪いの装備ってだけで、あの手この手で外そうとするでしょうが。それをあっさり諦めて普通にあっしらこき使ってんですから、今更装備の中身が人間じゃなくとも変わりゃしませんよ」


 何やら饒舌にトゥオンが喋り始めたが、まぁその通りだわな。

 これで元の姿がバレたからと襲われたんなら考えるが、別にそんな素振りも無いし、今まで通りでいいと思う。


「ご主人様……。また、私を連れて行ってくださいますか?」

「断ると思ってんのか? つーかお前居ないと移動とか不便なんだよな」

「シズの風魔法に頼りっぱなしですからね、旦那」

「具現化するときに人間の姿で現れないかもしれませんよ?」

「時と場合と周囲の目さえ気を付けてくれりゃ、構わねぇよ」


 そこまで俺が口にしたときに、俺の前で泣いていた筈のシズの姿が残像を残してかき消えて。


「ご主人様ぁ~~~っ!!」

「――っ!? 痛い痛い痛い!! 食い込んでる!! 鉤爪食い込んでるから!!!」


 肩と背中に鉤爪を食い込ませながら、抱きついて来やがった。

 …………メルヴィを装備してなかったから、心地良い柔らかさを堪能したと、感想を漏らしておく。


「もっと切羽詰まった状況じゃと思って急いでおれば、何じゃ、余裕そうじゃ……の?」


 いきなり頭上から声が聞こえたかと思えば、龍の姿となった……声からしてセレナが舞い降りてきた。

 何故に最後が疑問形になったか不思議ではあったが。


「確認させよ。ケイスで間違い無いのじゃな?」

「間違い無いぜ」

「妾の速度で胃の中を地の堆肥としばらまいた、あのケイスなのじゃな?」

「そうだって言ってんだろ! というか忘れろ! いや、忘れてくださいその記憶」


 一応聞くが、本人確認で恥ずかしい記憶を思い出させる必要って無いよな?

 この二つ名持ちの龍なんて、当然の様に行ってきやがるんだが……。


「いや、その……なんじゃ? この世界で動いていることも驚きなのじゃが……見た目がの?」

「何か変わってるのか? 見た感じ俺は変化に気付かないんだが……」

「顔……と言うか額じゃな。中央に満月……かの? その左右に三日月の紋章のようなものが浮かび上がっておる」

(それツキの紋章~。毎回朔月の時に現れちゃうの~。今が丁度朔月だよ~?)


 俺の脳内でそう言っても聞こえない……と思ったが、しっかりとトゥオンが脳内会話を繋いでくれていたらしい。


「ふむ? お主もしや色々と出自が怪しくはないかの? 何故に装備の中になんぞおるのじゃ?」

(えへへ~。秘密~)


 セレナを前にしてもいつも通りというか、無邪気に答えるツキ。

 それに対してセレナは、別段怒りもせず、咥えていた装備を二つ、俺の目の前へと置いた。

 その二つは鎧と盾。

 紛れもなく俺が身につけていた装備そのもので。

 つまりソレには……。


「相棒! さっさと身に付けろよ!! そろそろ人肌が恋しくなってきたところだぜ! HAHAHA」

「にい様、早く」


 お馴染みの二人が既に入っているようだった。

 しっかりと装備し直して、とりあえずセレナとも合流できたし、後は特にやることは……。


「あの~。放置プレイは嬉しいのですが、そろそろ私も履いていただかないと、置いてけぼりを喰らいそうな気がしまして……」


 あ、シズ履くの忘れてたわ。

 いつの間にか切り株に乗った靴に入ったのか、聞こえる声に逆らわず、ようやく俺は呪いの装備を再度装備し直すことに成功する。

 ――これ、やっぱ装備しない方が賢明だったんじゃないだろうな?

 その俺の問いに、答えてくれる装備も、龍さえも、その場には居なかった。

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