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巡っていますとさ

 視界がブレる。

 どころか何重もの声が頭の中を飛び交うし、先ほどまで見栄はせずとも踏めていたはずの闇は歪んで転びそうにさえなる。

 片目を手で押さえながらも踏ん張り正面を見ると――。

 空が、森が、あるいは海が。

 幾重にも重なった景色が膨大に流れ込んできて、胃の中の物がこみ上げる。

 なんだこれ……。これが精霊の世界の普通なのかよ……。


(パパー? 視界は目を細めるようにして~、一番手前の景色を見つめると安定するの~)


 脳内からツキの声が響き、どうやらアドバイスをくれているらしい。


(お耳は一番近い音を聞こうって思うと大丈夫なの~)


 分かるような分からないような、そんなアドバイスに従うと、ものの数秒でさっきまでの――ツキと合体する前と同じ視覚と聴覚になった。


「……なんだこれ」

(精霊の世界なの~。えっと、あんまり長く合体しておけないから~、すぐにトゥオン達を探すの~)

「探すったって、どうやって?」

(さっき見えた重なった視界のどれかが~、トゥオン達の視界なの~。視界って物理的に近い存在か心理的に近い存在しか基本共有出来ないの~)


 合体しているせいで見えはしないが、ツキの口調から察するに胸を張って、どうだ! とでも言わんばかりな表情で説明しているのだろう。

 基本的に寝てばっかだったツキからこうして教わるってのは、なんだか妙な感じだな。


(きっとパパの事だから装備達の視界はすぐ見つかるの~。そして~、視界が見つかったらその視界の中に飛び込むの~)

「視界に……飛び込む?」

(そうなの~。そのままの意味で、ぴょ~~んと!)


 ふざけては……居ないよな?

 とりあえず言われたとおり重なってた視界を探してみるとしよう……。

 一番手前を見ると安定したんだから、徐々に遠くを見るように――。

 ほんの少し、遠くを見ようと意識しただけで、見える視界は一から十へ。

 目だけを動かして視界を確認。装備達の視界と思えるものは見つからず、さらに遠くへ。

 十から百へ。

 情報量の多さに頭が、脳が熱を持ったように熱くなる錯覚を覚える……と。

 見慣れた槍、そして――その槍を雁字搦(がんじがら)めに縛る鎖が見えて。

 トゥオンだ、と頭で認識するよりも早く、俺の身体は反射的にその視界の中に飛び込んでいた。


「トゥオン!」


 視界を抜けると、飛び込んだ視界と同じ景色。

 槍が鎖に縛られて、それと向かい合うように縛られているトゥオンの姿が。

 俺の叫びに顔を向けたトゥオンの表情は暗く凍り付いていて。


「……旦……那?」


 口から漏れたその言葉は、普段のトゥオンからは想像できないほどに弱々しいものだった。


「他の装備達は?」


 その問いかけに返って来たのは、首を左右に振る行為。

 酷く消耗仕切っているトゥオンは、縛られる事への抵抗に疲れているように見えた。

 だから、何の気無しに手を伸ばし、鎖に触れた。

 たったそれだけ。……なのに。


「…………へ?」


 音も立てずに鎖が砕け、トゥオンの足下へと降り落ちる。

 同じように鎖に触れようと、今度は鎖に手を伸ばしただけ。

 今度はそれだけで、槍を縛っていた鎖があっさりと解ける。


「な、何をしたんですかい!?」

「な、何って…………分からん」


 驚愕して俺に聞いてくるが、全く分からん。

 と、


(ツキが鎖にデバフかけまくったの~。……今はパパと一緒だから、パパの行動にデバフを乗っけただけだけど――)

「ちょ、ツキ!? 一緒ってまさか!?」

(うん! 今『降魔』状態なの~)


 さらに目が見開かれ、驚きを表したトゥオンだったが、一度ため息をついて急に落ち着くと……。


「ま、今更ですかい……。旦那、旦那。ちょっと使って悪いんですが、あの槍をあっしのとこまで持ってきて貰えやすかい?」

「構わねぇが……何でだ?」


 別に断る理由はないし、言われたとおりにすると――。

 トゥオンの傍に槍を置いた瞬間に、トゥオンの姿が消えて……。


「ささ、旦那。いつも通り持って下さいよ」


 槍の方からトゥオンの声が聞こえてきた。

 一瞬だったんだが、あれで戻れたのか……。


(パパ~? 急がないとこの状態切れちゃうの~)


 考え込もうとしていると、時間は少ない、とツキに急かされる。

 そうだったそうだった。

 またも視界を遠くへ向けて、今度は五百の視界の中から()()()を探す。

 今みたいに装備を見ているような視界は――。

 見つけた!

 またも俺は、考えるより早くにその視界の中へと飛び込んでいた。

 ――視界には、切り株の上に置かれた、一足の靴が映っていた。

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