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重なりましたとさ

 精神世界。

 ほんの少し前の、精霊を使った魔装具の研究。

 それに意図せず首を突っ込んだ俺に、四大精霊の一柱、ユグドラシルが口にした、精霊が生きる世界の総称。

 そこでは、どうやらあらゆる生き物の思考や考えが流れてくるらしく、実際にユグドラシルは俺の思考を読んでいた。


「何でまた精神世界なんかに……」


 ユグドラシルに会うときに、セレナは俺を連れて行けないと、この世界へ導くことを拒否した。

 理由は色々あるのだろうが、藤紅は何故俺をこの世界に連れてきた――いや、押し込んだのか。


「生身の人間なら身動き出来ないから~?」


 あぁ、分かりやすい。

 無駄に抵抗されずに持ち運べるからか。

 けどそれなら前みたく、俺を幻術にでもかければいいと思うんだが……。


「あ、それはツキが全力で『保護(レジスト)』しておいたの~。だから精神世界に閉じ込めたと思うの~」


 あぁ、ツキのお陰か。

 …………思考が読まれてる!?

 ってそうか、ここはそういう世界だったな。


「んで? 何でツキ以外が居ないか分かるか?」

「ん~。……多分だけど、みんなそれぞれ違う精神世界に飛ばされちゃったの~」

「違う精神世界?」


 そもそも精神世界初体験な俺だが、勝手なイメージで精神世界は一つで、全部の生き物の思考と繋がってると勝手に思ってたんだが……。


「ん~とね……。精霊とかって別個に精神世界を構築してて~、自分の意思で他の精神世界にアクセス出来るの。だからここも、どこかの精霊の精神世界なんじゃないかな~って」


 初めての情報が多すぎて混乱するが、つまり――、


「精霊というなの精神的な牢獄みたいな感じか? 人間にしてみれば」

「ん~、まぁ何も出来ないし間違って無いと思うの~」


 簡易でありながら対人間には絶対的な拘束力を持つ便利な場所的な扱いか。

 ん? 待てよ……。


「……じゃあなんでツキだけ俺と同じ場所にいるんだ? 他の装備と同じようにばらけさせといた方がいいだろうに」


 セレナはおろか、装備達が居ない中で、何故ツキだけが俺と同じ場所に居るのか。

 気になった事をそのまま質問してみると、


「あのおばさんの魔法全部をツキに効かないようにしてたの~。だからツキだけこうして自由に動けてるの~」


 と、藤紅がツキのバフデバフに対策していたように、ツキもまた藤紅の魔法に対策を講じていたかららしい。


「てことはツキだけは自由に動いてセレナ達を探せるって事か?」

「探せないことは無いけど~、ちょ~っと時間が掛かるの~。精神世界って決まった大きさも形も無くて~、他の精神世界に繋ぐのは基本その精神の持ち主じゃ無いと出来ないの~」


 思いついた希望は、出来なくは無いが難しい、という言葉で否定される。

 可能な限りこの場所を脱出、合流をしたい今の状況で、どれだけ時間が掛かるか分からない事に頼るのは愚策と言える。

 もちろん、それしか方法が無いのなら仕方無いが――、


「ツキ、他に方法あるか?」


 無いのを百も承知。あれば儲けという考えでツキに聞けば……。


「無い事はないの~」


 との返事。


「マジか!!?」

「うん。けど~、この方法ってすっごく――」


 どんな方法かを言うときに、何やらごにょごにょと尻すぼみ。

 顔を真っ赤にしながら俯いてしまうツキ。

 ……この反応ってまさか――、


「何をするんだ?」

「…………合体」


 小さく答えて顔を覆ったツキの反応から察するに、とても口には出来ない様な事なのだと理解する。

 けどそれをしないと愚策を用いざるを得ないわけで。

 恥を承知で頼み込むしかないか……。


「頼む! 嫌かもしれないが、今の状況を打破出来る可能性があるんなら俺はそれに賭けたい!」


 手を合わせ頭を下げ、心の底からお願いをする。

 そうこうしてる間にもシューリッヒ達の準備が整わないとは限らない。

 僅かな時間でも惜しい。


「――――分かったの~」


 少しだけ考えたツキの口からは、了承を表す言葉が出てきて。


「でも、あまり長い時間出来ないの~」


 と、さっさと済ませろ、と言いつけられる。


「そんなに長い時間するつもりはないさ。最小限今の状況さえ打破出来ればいいんだからな」


 そう言ってツキの行動に注視すると――、


「…………。ツキ・カグヤ、汝の内に宿りて、我の力を授けよう」


 今まで声色より一段低くなった声でそう呟いて、真っ直ぐ俺へと向かってきた。

 ツキ・カグヤ? ツキの名前か?

 そう思った次の瞬間。

 俺とツキの身体が重なったかと思うと、俺の視界に居たはずのツキの姿がかき消え――。


「っ!? う!! がぁぁぁぁああああっっっっっっ!!?」


 一瞬だけ動悸が飛び、内から圧迫されているような感覚が身体を巡る。

 血が噴き出していると言われれば信じるし、何かに押しつぶされていると言われれば納得する。

 感じたこともない感覚に陥った俺の耳には、俺の内から、


(『降魔(こうま) 月天命(ゲッテンノミコト)』)


 とツキの声が響いたのだった。

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