癖の強い装備達ですとさ
ゾロゾロと、小さな虫の大軍を思わせるほどに洞窟内にひしめくゴブリン達を見た時は思わずたじろいだ。
いや、多すぎだろ。狭い箇所に密集してるせいか熱気と匂いがすげぇし。
「旦那、とりあえず早く殲滅しましょうぜ。あっしはこの匂いで鼻が曲がりそうでさぁ」
「鼻なら曲がっていいから槍身は曲がるなよ?」
「つまんねぇな相棒! HAHAHA」
「とりあえず風の防護魔法はかけておきますのでご無理なさらないでくださいね? ご主人様」
言葉通り、風でも体の周りに纏わせてくれたか。
途端に鼻についていたゴブリン独特の匂いが遮断された。
トゥオンを構え、シエラを僅かに握りしめ、俺はゴブリンの塊へ向かって大きく一歩――跳躍した。
俺と同じく構えて居たゴブリンは俺の突撃に合わせ迎撃しようとする。
――が、遅い!
シズの魔法で移動速度も、敏捷性さえも上昇補正を受けた俺の行動はゴブリン達の予想の範疇の外。
大きく横に薙いだトゥオンに触れたゴブリンは触れた個所から氷漬けになり。
離れた所に居たゴブリン数体を、薙いだ勢いで放った氷塊が貫いて物言わぬ躯へと変える。
多少は減ったが何分数が多すぎるな。
薙いだ後の動きの隙を無くすため、一度後方へ跳躍するが、そこを目掛けて火球がいくつか飛んでくる。
「うぉっ!? あっぶねぇっ!!」
「待って! 相棒待って!! 私魔法耐性無いから本当止めて!!」
「盾が選り好みしてんじゃねぇ! つかいつもと口調変わり過ぎだろお前!」
「本当に嫌なの!! ブゲルフゥッ!」
しっかりシエラで火球を防いだはいいが、何やらシエラから変な声が漏れてきた。
しかも小さくすすり泣く声まで聞こえてくるし、この盾どう使うのが正解なんだよ……。
「物理専用盾、っすかねぇ?」
「聞いた事ねぇよ! ある程度魔法も防げなくちゃ盾の意味ねぇだろ!」
「兄さま、すぐ、次来る。気を、抜かない」
メルヴィに言われ、軽いトゥオンとの言い合いを一旦切り上げて。
襲い掛かってくるゴブリン達の攻撃をいなす。
まだ泣いているシエラを使うのには少し躊躇いがあったが、その一瞬の判断で死ぬなんて事は勘弁願いたい。
攻撃を防ごうとするたびに、
「ぴぃっ!」
だとか、
「痛いのやぁ……」
と聞こえてくるのは流石に良心に響くので、回避の方に専念すれば、
俺おっさんだし? 動き回り続けられるほど若くないし? ついでに言えばもう反応すらも全盛期よりだいぶ落ちてるし?
避け続けるのは流石に無理だったわ。うん。
一発、斧の綺麗な一撃を土手っ腹に貰ってしまう。
「ひゃん!?」
悪い、メルヴィ。お前装備しといて助かったわ。
流石に欠けたりはしてないよな?
「ってぇなゴラぁっ! 怒りの業火をお返しだボケ! あの世で延々懺悔しとけ雑魚がっ!」
怒りの業火、と呼べるかは分からないが攻撃を受けた鎧の部分から赤橙色の火柱が出て来て。
攻撃してきたゴブリンは元より、延長線上にいたゴブリン達も消し炭へと変わる。
あの、メルヴィ? キレるのは分かるしお前の事をある程度は知ってたと思っていたが、そこまで口調悪くなるのは知らないぞ?
そもそもその炎で簀巻をどうにかしようと俺も考えていたわけだし。
呪いの鎧。メルヴィ。
物理攻撃被弾時に先ほどの様に炎魔法で迎撃する効果付き。けど脱げない。
被弾したダメージによって発動する魔法が強くなる傾向にあり、先ほどのはよっぽど痛かったのだろう。
メルヴィとシズの魔法のおかげで俺ほとんどダメージ無いけど。
「パパ息上がってるのー。疲れを癒しとくね~」
頭上から天使の声が聞こえて来て、回避に専念して酷く消耗したスタミナを回復してくれる。
氷漬けになった仲間と、消し炭に変わった仲間。そんな両極端の末路を辿った仲間を見たゴブリン達は一瞬、俺に襲い掛かるのを躊躇った。
その躊躇いが命取りとも知らずに。
悪いね。こっちに躊躇う理由なんざ欠片もねぇのよ。
ツキに回復して貰って動き回れるし、トゥオンを構えて、これより我、修羅に入る!
「脳内で盛り上がってるとこ悪いですけど、ゴブリン、武器置いて降伏の意を表明してますぜ?」
「うん? 降伏? ゴブリンが?」
トゥオンに言われてゴブリン達を見れば、武器をみな地面に投げて、手を広げて「待ってくれ」というジェスチャーをしていた。
「トゥオン、お前ゴブリンの言葉分かるって言ってたよな?」
「何となく、でいいですかい?」
「構わねぇ。それも踏まえて、あいつらと会話は可能か?」
「やった事無いんで分かりませんぜ? あっちにこちらの言葉が伝わるかも疑問でさぁ」
「兄さま、何を、考えてる?」
「お、いつものメルヴィお帰り。家畜や野菜を盗んでいった目的でも聞けるかなーと」
「んなもん食料に困ったからに決まってるだろ? 相棒」
「シエラもお帰り。次から魔法には注意するわ」
「是非そうしてくれ。二度と御免だ。HAHAHA」
トゥオンを背に背負い、シエラも一緒に背に背負って。
こちらも戦う意思が無い事を表して、俺は何とかゴブリン達と会話を始めるのだった。