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貫きましたとさ

「ちょっ!? あっしに何か変なのがくっついてやがりますぜ!!?」

「なんだこれ!? って、どう考えても藤紅の何かだろ?」


 どんなに振り払っても外れることなく……。

 それどころか徐々に持ち手の方に広がってくる闇は、触れば絶対によくないことが起きると、言われなくても察する。


「えぇい! 話も聞かずに突っ込むからじゃ!!」


 と、横から飛んできたセレナが闇に向かって手を払うと――あっさり霧散し、闇はどこかへと溶けてしまう。


「あぁ、ほんまに難儀やなぁ。あっちを絶てばこっちが通る。こっちを断てば向こうを喰らう。……一旦退散しまひょ」


 言葉から察するに、対ツキの効果を意識しすぎると、セレナの浄化の力で能力を消される……と言うことなのだろう。

 ぶっちゃけ俺の理解超えてるから断言出来ねぇが、遠くないニュアンスの筈だ。


「またあやつの所に戻る気か!?」

「以外にあるん? ま、不思議な装備ちゃんは一個借りたし、マイナスばっかじゃありんせん」

「させるか!!」


 自分の背後に闇を作り出し、逃げようとした藤紅へ、未だバフが掛かったまま真っ直ぐに突撃を敢行し。


「甘い甘い。さっきのこともう忘れてしもたん?」


 避けようともせず、両手を広げてトゥオンを真っ向から身体で受け止めた藤紅は……。


「――っ!!? な……なんでや……」


 通らない筈のダメージが通ったのか、困惑しながら目を白黒させる。

 一方俺も、全く予想もしてなかった光景が目の前にあるために、一歩も動けなくなってしまった。

 ……確かに俺の繰り出したトゥオンによる突きは、藤紅の中心――人間で言う心臓の位置を綺麗に貫いていたのだが。

 俺と藤紅の間に、もう一つ、貫いていた存在があった。

 先ほどまではそこに居なかった……つまりは、自ら俺の攻撃の直線上に飛び込んで来たその存在は。

 

「カハッ! ……かかか、どうじゃ? 久々の痛みは?」


 血を吐きながらも、強がりを言いながら藤紅を笑う――セレナであった。


「セレナ!? お前――」

「ケイス!!」


 慌てて抜こうとしたトゥオンを、情けないかな俺では動かぬ力で握り、固定しているセレナから指示が飛ぶ。


「何をぬるいことをしておる!! 今なら奴に傷を負わせられる!! もっと……もっと深くじゃ!!」


 痛みからか肩が震えているのが分かるし、血を踏む足すらギリギリで踏ん張っていることが分かる。

 けれど、そんな状態でもさらに押し込めと……。

 やるしか……ないわな。


「忌々しい! 何を勘違いしておる!! 儂は……この程度では――」

「なら、久々の聖白龍の本気……味わってみるかの?」


 さらに一歩、地を蹴り腕を伸ばしてより深くトゥオンを突き立て……藤紅ではなくセレナの身の軋む音が腕から伝わり、慌てて引き抜いた瞬間。

 絶え絶えに息を吸ったセレナから、眩しいほどの光が放出された。

 これが聖白龍のブレスか……初めて見た。

 音すらも発せさせない超高濃度の光の束は、胸に穴の空いた藤紅を瞬く間に飲み込むと、彼女の連れてきた闇ごと綺麗に辺りから消した。


「セレナ!! 大丈夫か!?」


 ブレスを履き終わり、膝から地に崩れ落ちたセレナへ駆け寄ると、それまで見たこともないほどの弱々しい笑顔でこちらを見てきた。

 ……どや顔にしちゃあ、ボロボロ過ぎだな。


(誰のせいじゃ誰の。考えも無しに無闇に二回も突っ込む馬鹿がどこにおる!!)

「ここにいますぜ! 絶対死んだと確信したんですがねぇ」

「あのー……。セレン様はどうしてご主人様と藤紅の間に入ったんです? 私と同じ趣味が?」

(違う違う違う違う。えぇと……の。まず妾と奴の能力というか、強さはほぼ均衡じゃ。故に奴は始めは妾対策の魔法だかを発動しておった)


 具現したツキから直接治癒魔法を浴びつつ、喋るのが辛いのか脳内会話で先ほどの状況を説明し始めるセレナ。


(ところがじゃ。そこのツキのデバフやら妨害魔法が思いのほか面倒だったのじゃろう。姿を変え、今度はツキの魔法への対策に重きを置いた)

「それが姿を変えた理由ですかい? ……なんというか、姿を変えるだけで様々な効果を持つって、本当に二つ名持ちは何でもありっすねぇ」

(自覚せい。主らも大概じゃ。そもそも、普通の装備で妾達にダメージなど通るはずがなかろう。二天精霊の眷属。言うなれば二天同士が戦争するときの駒ぞ? そんな奴がたかが人間の操る装備で怪我なぞするわけがなかろう)


 中々に傷が深いのか、治癒に時間が掛かっている気がする。

 ……いやまぁ、その傷作ったの俺なんだけども。


(話を戻すぞ。元々妾特化、それが意識はしているとはいえ、ツキの魔法を対策するために、妾方面の対策が薄くなった。故に、あのユグドラシルが認めた武器にわざと貫かれ、妾の力を表面に流して、そのまま藤紅を貫かせたというわけじゃ。……とてつもなく痛かったがの)

「かなり……無茶」

「けどそれぐらいやんねーと倒せなかったんだろうぜ。しっかり感謝しなくちゃな! HAHAHA」

「あれで……倒したのか?」


 ブレスで消し飛んだようには見えたが、本当にそれで倒せたのか。

 気になったから口から出た質問であり、その答えは――。


「けほっ。……流石に直撃は痛かったでありんすなぁ」


 真後ろから聞こえた。

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