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案の定ですとさ

 どこから聞こえたか分からないその声に思わず身構える俺とセレナだが、それをあざ笑うかのように声の主は堂々と正面から歩いてきた。

 月明かりにのみ照らされたその姿に、思わず息を飲む。

 狼を思わせる耳――でありながらその後ろには狐の尻尾が翻っており……。

 さらに言えば、ちょっとお高いお店に行かなければ出会えないような大人のお姉さんのようなその顔立ちは、息を飲むには十分すぎるだろう?


(旦那ってたまに本能で行動しますよね? まぁ悪いとは言いませんが……)

(露骨に鼻息荒くして鼻の下伸ばしてりゃ、言われても仕方ねぇよな? HAHAHA)

(…………不潔)

(ご主人様!? 確かにタイプは違うかもしれませんが私もあの方には引けを取らない自信がございますよ!?)


「驚いたな……。てっきりこの間のように不意打ちでもするかと思ったんだが――」

「そう思っとったんなら、真正面からも不意打ちと違う? 堪忍なぁ。あては捻くれもんやさかい、思い通りになりたないんや」

「何故――何故お主がここにおるのじゃ!?」


 妖艶とでも評すべきそいつに俺が軽口を叩けば、のらりくらり、飄々と返してきたそいつと違って、何やら取り乱した様子のセレナ。


「何故も何も、わっちが契約した相手の利益になるよう動くんは当然やろ? そういう契約なんやし」

「ありえんじゃろ!! あろうことか二天、ゾロアストの眷属が人間一個人に肩入れしとるじゃと!?」


 ある程度は予想してたんだが、そうか、セレナと同じく二天精霊の眷属様なのね……。


「あかんなぁ。そのおしゃべりな口、ちと邪魔やわ」


 そう言ってお口にチャックのジェスチャーをする――が。


「妾にその手の類いは聞かぬ事を知っておろう。それとも、そこまでがパフォーマンスかの?」


 一切効果が無い様子で喋り続けるセレナ。

 あのさ、完全に置いてけぼり食らってんだけど、だれか解説頼めねぇ?

 一応、魔法か何かの応酬があったんだよな?


「パフォーマンスだなんて酷いわぁ。うちはこうも真剣なんに……。ひょっとしてあてのことは遊びだったん?」


 泣くフリをするゾロアストの眷属とやらと、警戒を解かないセレナ。


「ケイスよ、少しでも気を緩ますなよ? その隙にこの者は容易く入り込んでくるぞ。老獪(ろうかい)にの」

「心外やなぁ。気を緩められとらんでも、人間如き造作もあらへんよ。最も、そこの方はなんやけったいな装備に守られとるみたいでありんすが」


 セレナが俺に警戒を促すが、そんなもの無意味と否定してくる――が、どうやら俺には何かは出来ないらしい。つくづく呪いさえなければ優秀な装備だな。


「ああ、ほんで、自己紹介をしてなかったどすなぁ。うちは『狼狐妖(ろうこあやかし)』。あ、これ二つ名な。呼ぶときは『藤紅(ふじべに)』って呼んでや。髪の色が藤、目の色が紅。どや、覚えやすいやろ」


 いきなり自己紹介をし始めたかと思えば、二つ名に呼び方までもを提供された……。

 二つ名は元の魔物に一文字足したもののはず。ならこいつの元は――、


(恐らく、妖狐。圧倒、的な魔力……そして、隠蔽、攪乱、妨害、などの魔法を……操る)

(それに狼の膂力(りょりょく)とでも言いたいのかい? 大層な自信じゃねぇか)


 脳内でメルヴィが説明してくれたとおり妖狐……なのだろう。

 

「『どちらにせよ警戒に越したことは無い……か』あ、うち思考読めるさかい、隠しても無駄でありんすよ?」


 脳内で考えていたことを一字一句違わずに言われれば驚くというもので。


「あとついでやねんけど、装備達の思考もきっちり拾てるさかいな。声に出してやっても変わらんで?」


 あまつさえ脳内会話すらも聞かれているとなると流石に動揺してしまう。


「あてが思考読めんのはそこの可愛くない白い餓鬼くらいなもんやで。ほんま、めんどうやわ」

「お互い様じゃろ。貴様に誑かされた者は、妾でも浄化できんのじゃからな」


 お互いに鬱陶しそうに、目線だけで火花を散らす二人。


「まぁでも、面白いもん見れたからええんやけどな。あんた、今でもまだ親離れ出来てないでありんすか?」


 先に目線を逸らし、口元を隠して笑う仕草と共に放たれた煽りは、一瞬セレナは理解していなかったが。


「よもや牙にすらあのように反応するとはの。まさに初子じゃ。可愛らしかったのう」


 茶化すように続けた内容は、セレナの為に俺が財布ひっくり返して耳飾りを買った時のことであり。

 あの時から見られていたのかとゾッとする。


「あ、ちゃうで? あの時にターゲットに決めたんよ」


 そんな俺の思考を読んで、勝手に会話し始める藤紅。


「そもそもあの店主がうちやねん。んで、あんな吹っ掛けた値段払うほどの実力と物の価値が分かる奴を待っとったんや。そしたら、まさか『聖白龍』が釣れるとはな」

「何で待ってたんだよ……」

「決まっとるやろ? 資金集めと選別や」

「選別?」


 これだけ言っても分からないか、と紹介通り藤色の髪をかき乱してため息を一つ。

 その後に説明を始める藤紅。


「そ。そもそもある程度察しがよく、金を持っとって、知恵がある奴やなからんと、今回の戦争を起こすってとこまで辿り着けんやろ?」

「金は無くてもよくねぇか?」

「薬と装備買う金、どうやって捻出した思とるん? あれ、種銭あんさんの金やで?」


 ――――は?


「そもそもシューリッヒは細々と確実に稼ぐタイプの商人で、今回みたいにどでかいヤマ狙うタイプじゃありんせん。ぜーんぶうちが焚き付けたんや」


 ご機嫌に、上機嫌に。

 まるで子供がうまくいったイタズラのタネを明かすかのように。


「せやからさっさと――ご退場願えるか?」


 唐突に表情を歪めた藤紅は、先ほどまでの熱の籠もった口調とは反転し。

 一気に凍るような口調で俺たちにそう問いかけて。

 瞬間、夜が――()()()()()

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