魔法様々ですとさ
食事を堪能し、デザートまでをしっかり頂いて、食後の酒にすっかり上機嫌。
接待の何がいいのかと思っていたりしたが、確かにこれは気をよくするわ。
「さて、『烏の目』の件なのですが」
「お、やっとくれるのかい?」
「あまり乱発されては困る魔法ですので、私の許可無く使用しないで下さい。……使用した場合は私が気付けるような細工を施してますので」
そんな俺に、ようやく魔法を寄越すかと思えば、始まったのは注意事項の説明。
誰が好き好んで得体の知れない魔法を乱発するかよ。
ましてや聞いた事の無い魔法で、それは個人のオリジナルの魔法だ。
開発者以外が使うと呪われるなんて細工されてても不思議じゃねー代物何だから、少なくとも俺はソイツが許可したタイミング以外では使おうとは思えねぇな。
「分かってるよ。……てか、お前は俺がそう乱発しないことを見越した上でこの魔法を寄越すんだろ? 本当に食えねぇなお前」
「理解されてるのであれば助かります。では、呪文詠唱は――――」
*
「それで? これからどうするのじゃ?」
「まぁ、『烏の目』使って監視するしかねぇだろうな」
俺にあてがわれた屋敷の二階。
寝室に当たる部屋で窓を開き、その窓際に肘をついて遠くを見ている俺とセレナ。
あれから呪文詠唱を教わり、試しに発動して見せて、稼働することを確認した後屋敷に戻り団らん。
動いている日中よりは、休んで動きが止まっている夜の方が見つけやすい、と待っていたのだが。
試運転で近場しか見なかった為に分からなかったが、この『烏の目』という魔法、遠くを見ると相応の魔力と体力を持っていくようで……。
簡単に言ってしまうと滅茶苦茶疲れてしまう訳で。
ほんの数分当たりを付けた場所を見ていただけで、俺は疲労で膝をついてしまう有様だった。
これ、乱発とか無理。……正気の沙汰じゃねぇわ。
確かに便利な魔法だと聞いて思ったが、ここまで反動がでかいとは思わなかった。
結果、今のように黄昏れながら、何とか発動しなくていい理由を頭の中で探しているのだった。
「発動……せんのか?」
「もう少し待ってくれ。あの疲労に対抗する覚悟がまだ完全じゃ無い」
先ほどから繰り返すこの問答は、俺のささやかで最後の抵抗。
と言っても、いずれ使わなきゃならんのだが……。
「はぁ……しゃーねぇ。――セレナ、頼む」
深いため息をついて、意を決してセレナへと伝えると、
「分かったのじゃ。……我、千里で足りず、万里を求む者。一を否定し、双眸にて、三場所を手繰る者。望は視界、高き場所から見下ろす数。我に闇を彩る烏の目を与え給え――『烏の目』!!」
教わった呪文詠唱を一字一句違わずに発音し、その対象を俺に指定して……。
両の眼に熱が宿り、こめかみ付近に重く鈍い痛みがじんわりと浸透してくる。
――まずは俺らが襲われた野営地付近!
当然その近くには姿は見えず、ならば俺らを放置した森周辺か!? と見る場所を移しても人の影さえ確認できない。
たったこれだけで既に眼が霞んできたが、何度も味わう位なら、一度で限界まで続けてやらぁっ!!
次! 周辺にある村や町! っつってもここらの村なんかはエポーヌの領内だから、なるだけハルデに近く、先ほど見た二カ所から向かいやすい場所。
ぼんやりとした視界の中で、限界だ、と『烏の目』を解除するために首を振ろうとしたその瞬間。
「ん、……まさか!?」
暗闇に浮かぶのは焚き火の灯り。
その灯りに照らされて、二台の馬車を確認した俺は、そのまま疲労でぶっ倒れた。
「なっさけねーな、相棒。そんなんじゃ若いもんに負けちまうぞ? HAHAHA」
「十分頑張ったと思いますがねぇ。少なくとも、すぐに諦めた先ほどよりは長く続きましたし」
「結果、倒れて、ちゃ……世話無、い。けど、見つけ、たのは、褒めても、いい」
「まずは労う方が先でしょう? ご主人様、お疲れ様でした。見つかってよかったですね!」
「パパ凄~い。いい子いい子してあげるね~」
重すぎる瞼に抵抗できず、倒れたままに眠りの世界へ導かれる俺の耳には、装備達のそれぞれのらしいコメントと、
「本当に見つけるとはのぅ。……この『烏の目』と言う魔法、中々に便利なようじゃ」
俺のことよりも魔法の方を褒めるセレナの言葉が届き、それからすぐに俺の意識はまどろみの中へと沈んでいった。
……てかこれ、あいつらが売りの取引終えるまでにあいつらの場所までいけるんじゃね?
という思考を僅かに巡らしつつ。