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何とかなりそうですとさ

「簡単に言ってくれるぜ全く……」

「もちろん、今のままでは出来ないか、出来てもかなり手荒な方法になってしまうでしょう?」


 無茶な要求の後、俺はキックスターから食事に誘われ、こいつの屋敷で振る舞われている料理に舌鼓を打っている真っ最中。

 何かの魚のムニエルだとか、どこぞのモンスターのスープだとか、料理ごとに説明してくれているが、どうにも興味が無いと記憶にも残らない。

 確かに美味いし、味に文句などつけようも無い。

 ――が、美味すぎて将来的にこの味をまた食べている未来が想像できない。

 言うなれば金持ちの道楽、そんな食事。


「まぁ、ただ回収しろって言うんなら、手っ取り早いのは武力行使だろうな。どこぞの四大精霊が暴れてくれたお陰でハルデ国は内外ボロボロだろうよ」

「ですが、目撃者の殲滅など到底出来ないでしょうし、その目撃者からケイスさんが割れる可能性があります。そうなると、結局戦争に発展してしまうでしょう」

「だから証拠を残さずに薬を何とかしろって? 出来ると思うのか?」


 口直しに出てきた果実を凍らせたものを楽しみながら、結局は無茶振り以外の何ものでも無い要求に対し、質問する。

 ……どうしろと? と。


「軍を動かしては元の木阿弥。ですので動かせるのは私が信用に足ると判断した冒険者のみ。……と言っても、ケイスさんともう一組しかいないんですけどね」

「信用に足るってのは……」

「はい。彼女達にも渡してありますよ。……その冒険者証」


 つまり……エポーヌ国の虎の子とでも言うか、そんな存在を使うと。

 ――何で俺そんなのにカウントされてんだ?


(あっしら四大精霊が認める強さの装備を五つも装備して、さらには二天精霊の眷属をも(はべ)らせてる旦那は、下手すると一国くらいの戦力だと思いやすがねぇ)

(お前らなら分かるだろ。どんだけ装備が強くても、仲間が強くても、俺自身は一般人の域を出ない程度の強さだぞ?)

(だからこそいいんだろうな。ちゃんと自分の事を過信せず、力を理解してる。国からしてみりゃ動かしやすいいい駒って訳だ。HAHAHA)

(弱い、は、(すが)る。大樹に、国に、仲間に。……にい様、縋ってない)

(そうですよ、それにユグドラシル様も仰っていたではありませんか。私達の力を振りかざさずに相応に扱っている、と。そこがご主人様の強みなんですよ!)

(パパはね~、ツキの為に煙草吸わなくなったし、優しいよ~?)


 何だろう、初めて装備達に褒められた気がする。

 思わず目頭が熱くなったわ……。


「で、まとまって行動するのはリスクが伴うだろ? どうすんだ?」


 そんなことを誤魔化す為に、二組で何をさせるつもりなのかを尋ねてみると。


「ケイス様には、薬の保管場所。あるいは、薬を所持している兵士の把握。兵士に関してはどこの部隊に所属しているかまでを調べて頂きたいと――」

「それ、事実無茶だって分かって言ってやがるな? 売る物と売り込む場所分かってたところで、そこに至るルートなんざ両手じゃ数えきれんぞ?」

「えぇ、ですので――手段をお貸ししようかと」


 相変わらずの無茶振りに声をあげると、それを制止するように手を上げて『よく聞け』と伝えてくる。


「『烏の目(スケアクロウ)』という魔法はご存じですか?」

「聞いた事無いが……」

「では『鷹の目(ホークアイ)』や『鷲の目(イーグルアイ)』は?」

「それは知ってる。視界強化の魔法だろ? 遠くまで見たり、細部まで見たりって奴だ。弓手(アーチャー)だったりが好んで使ってるやつだ」


 聞いた事も無い魔法を口にしたかと思えば、今度は一般的な魔法を口にしてみたり……。

 あぁ、つまりは――。


「それの強化版と思って頂いていいですよ。複数の箇所を、距離関係無く細部まで見通せる魔法。それが『烏の目(スケアクロウ)』になります」


 上位互換、って事だな。


「それを使ってルートを見張れってのか? 出来なくは無さそうだが、出来る保証は無いぜ?」

「ケイス様が使えばそうでしょうが、その対象がセレナ様なら?」


 出来るかもしれない、と、出来る、とではまるで意味が違う。

 特に、今回のような必ず出来なければならない場面においては。

 それを踏まえて俺が口にした懸念は、キックスターによって瞬時に解決された。

 セレナに履かれたシズの放つ魔法が、規模を街全体へと広がったように。

 セレナに被られたツキの治癒魔法が、蘇生魔法へと引き上げられたように。

 複数箇所を距離を無視して細部まで確認できる魔法を扱えばどうなるか……。


「なるほどな。確認させろ」

「何でしょうか」

「俺は薬の在処(ありか)、持っている兵士、その兵士の配置先。これらを確認するだけでいいんだな?」

「その通りです。――もちろん報告は必須ですよ? どれか一つと言わず、情報が増えた時点で連絡を取って下さい」

「連絡以上は動かねぇぞ?」

「もちろんです。……もう片方は()()()()()が得意ですから」


 満面の笑みで俺に返答するキックスターだが、怖いことを言いやがる。

 つまり、俺とは別の虎の子の冒険者ってのは――。

 暗殺部隊……って事だろ?


「んじゃ、まずは魔法をくれ。そしたら行動すっから」


 立ち上がり、『烏の目(スケアクロウ)』なる魔法を寄越せと言えば、


「まだ食事の途中ですよ? ほら、メインの肉料理です」


 目の前に出された料理を見て、俺は静かに座るのだった。

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