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命令ですとさ

「なるほど。――大体理解しました」


 俺とセレナから説明を聞いたキックスターは思案するように顎に手を当て、部屋をゆっくりと歩き回り始めた。

 あれから、精霊とセレナの力を持ってしても、逃げられた。

 ――いや、探知すら出来なかった。

 不思議に首を捻るセレナに、ドリアードが掛けた言葉は……。


「ひょっとすると、セレナ様と同格の存在があちらにいらっしゃるのかも」


 というもので。

 よくよく思い返してみれば、馬車二台と()()()()と発言していたドリアードに、認識した六人の容姿を尋ねてみれば。

 案の定アイナ達五人とシューリッヒしか出てこず、どうやらあの暗殺者みたいなやつが人間では無いらしい。

 結局やれる事がエポーヌ国へ知っている情報を渡すだけとなってしまい、こうしてツテのあるキックスターへと報告しに来たというわけだ。

 ……俺にもう少し影響力っつーか、ユグドラシル並の強さがあれば、戦争を止めようと一人で動くんだけどな。

 生憎とそんな突出した存在じゃねぇから、こうして国に頼ってる訳だ。


「しかし困りましたね。運んでいたのが『薬』だなんて」

「? どういうことだ?」

「いえ、その商人――シューリッヒさんでしたか? その方が出発したのはこのエポーヌからなのでしょう? と言うことはつまり、その『薬』がエポーヌに存在したという事実が出来るわけです」

「あー……」

「それが何か問題なのじゃ?」


 出されたお茶をすすりながら、首を傾げるセレナに、キックスターはゆっくりと説明していく。


「『薬』の効果はお聞きですか?」

「うむ。ケイスより胸くそ悪くなるような話を聞いたのじゃ」

「では間違っていないでしょう。その効果悪用……つまりは国の操り人形を作り出すのは人道的に許されざる行為と言うことでそもそも使用が禁止されているんです。――どころか所持だけで捕まります」

「つまり……他国から取り締まりの甘さを指摘される?」

「その通り。しかもその甘かった理由は多数の操り人形を作り出し、攻め入るためでは無いか? など邪推される可能性も否定出来ません」


 やれやれと首を振り、面倒になった。と意思表明するキックスター。

 つまりは……。


「事情を説明すると、他国が協力するどころか敵対する可能性がある。だからエポーヌ国だけで戦争をしなくちゃならないってか?」

「最悪の場合は。……時にケイスさん。もしシューリッヒさんが『薬』を売るとすればどこだと思いますか?」

「んなもんハルデ国だろ」


 分かりきった質問に、即座に当たり前の回答をすると、今度はがっくりと肩を落としてキックスターはため息をついた。


「しかないですよね。いきなり現れた四大精霊により国が破壊され、再興を余儀なくされたとの事ですが、再興の中身はかの国が自慢する兵達による領土拡大なのでは無いか、との見解が同盟国会議で上がってきたばかりですし」

「物騒極まりねぇな。……んで? 何か動くのか?」

「動かない訳にはいかないでしょう。戦争ともなれば少なくともこちらに利はありません」


 頭が痛そうに抱えるキックスターは、再度ため息をついて俺の正面で足を止める。


「…………実は、ケイスさんにお願いしたいことがあるんですが」

「拒否権は?」

「実質有りませんね」


 急に笑顔になって言い出したかと思えば、お願いという名の命令じゃねぇか。


「だと思ったよ。――んで? 俺はどんな無茶をすればいい?」

「お察しがよくて助かります。……『薬』、処分してきて貰えませんか?」


 眼の奥が全く笑っていないキックスターから受けた命令は、到底出来るとは思えないものだった。



「おーい、みんな、起きろー。出発するぞー」

「ん、もうそんな時間?」

「あれ? 私達いつの間に寝てた?」


 ラグルフの呼びかけに、目を開いてゴソゴソと動き始めるアイナ達。

 どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようで、キョロキョロと辺りを見渡している。

 既に燃え尽きかけた焚き火を踏んでもみ消すラグルフの後ろから、シューリッヒが歩いてくる。


「皆さんおはようございます。もうすぐ目的地に着くので、より一層の警戒をお願いしますね。油断が最も大きくなるのは、目的を達成する瞬間だとよく言いますから」


 年齢に見合わない様な、商人として財を成した彼を護衛する依頼。

 その依頼が、どうやらもうすぐ終わるらしい。


「今のとこ順調だから、この後も大丈夫なんじゃない? ……ってそれが油断か。――ん?」


 独り言を呟いたアイナは、言葉の最後で、ふと、あることが引っかかって首を傾げた。


「どうかした?」


 その事に気が付いたアトリアに聞かれるが、


「ううん。……何か忘れてる気がしたけど、気のせいだったみたい」


 アイナは首を振ると、ラグルフの後に続いて馬車に乗り込んだ。

 どうやら、ケイスが居たことは、綺麗に忘れているらしかった。

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