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ようやくですとさ

(戦争を……起こす? 簡単に言ってくれるのじゃ。そもそも戦争とは何が火種になるか分からんものであろう?)


 何を馬鹿なことを。そう笑い飛ばそうとするセレナだが、その表情は硬い。

 もう分かっているのだ。……それが可能だと言うことを。


(一流の商人ってのはな、需要を作る。言葉巧みに自分の取り扱う商品を宣伝し、ゼロから数多を作る。あいつの場合は、それが戦争ってこったな)


 手を伸ばせば届く距離にあった石を拾い上げ、弄びながらシューリッヒの思惑を解き明かしていく。


(生かしている理由? 簡単さ。情報を持ち帰って欲しいからだよ)

(持ち帰る?)

(エポーヌ国にな。薬の情報を手に入れ、どこかが戦争の準備をしていると俺らが国に報告すりゃあ、多少でも動くだろ?)

(だろ? と言われても妾は人間の事は疎いのじゃが。……まぁ、自らを攻めんとしておる国があるのなら、対応せぬは悪手じゃろう)


 戦争とはぶっちゃけて言えば責任の押し付け合い。

 あっちが先に動いたから応じたまで、悪いのは向こう、という主張を押し付け、喧嘩し、奪い合う。

 負けりゃ権利が根こそぎ無くなって、勝てば様々なものが手に入る。


(けど旦那? シューリッヒ殿は一体どこに売り込むつもりですかい? 四カ国同盟なんて結んでるエポーヌに喧嘩売りそうな国なんて、ちょっと思いつきやしませんが?)

(一つだけ、ある。軍事力なら、対等。しかも、先日の、借りがある、国が)

(ハルデ国なのじゃ? けど、妾が言ったときは否定されたぞ?)

(あの時は武器防具だけの話な。薬は間違い無くハルデ国行きさ)


 入ってきた装備達も合わせ、意識のすり合わせを行っていく。

 認識は全員が同じものを持っておかなければいざという時に困るしな。


(薬を隠した装備を装備した兵士をハルデ国に送ればいいだろ? もちろん貴族の誰かの息がかかってるだろうから碌な調べは受けないだろう)

(おまけに人間を精霊化しようと研究してた頭おかしい連中だ。薬使うのにも躊躇いそうにねぇな! HAHAHA)

(笑い事じゃ有りませんよ!? それで、どうするんですか?)


 僅かに苛立ったようなシズが発言した直後、頭の天辺を引っ張られるような感覚が。

 ようやく()()()のお膳立てが済んだみたいだ。

 目を覚ましたときに絶体絶命なんて勘弁してくれよ……。

 覚醒していく意識に身を委ね、心の中で俺は状況が平穏であることを祈るのだった。



 どうやら懸念していた事態にはなっていなかった。

 両手足を縛られ、どこか分からない森に捨てられていたが、それ以上の事は無かった。

 状態異常にもなっていないし、何より捨てられた場所が森って時点で大分楽だ。


「っと、セレナは?」


 首を動かし、周りを確認すればすぐ近くに同じように縛られ、転がされているセレナの姿。

 下手に山賊当たりに見つかる前に拘束をどうにかしないと……。

 そう考えていると、何やら背後で蠢く気配。

 振り返りたいのはやまやまだが、生憎咄嗟にソレが出来ないほど拘束されてるんだわな。

 しかし、その蠢く存在は何やら俺の拘束をいじり始めたかと思えば、数秒後には俺の両手足が自由になる。


「ありがとよ、助かったぜ」


 振り向いて礼を言ったはいいが、俺の予想していた存在とはまるで違っていて……。

 

「このようなことでお返しになるかは分かりませんが……」


 俺の拘束を解いたのは――ドリアードだった。



「そうか、無事にユグドラシルの眷属に戻れたか。それは何よりじゃの」

「本当に、なんとお礼を言ってよいか……」

「構わぬ。そのための後援者なのじゃ。変なところで遠慮は無用ぞ」


 拘束を解き、ドリアードが意識を覚醒させたセレナは、目が覚めると同時にドリアードの存在に喜んだ。

 そういや前から気になってたんだが……。


「その『後援者』ってのはどういう意味だ?」

「これはの、精霊が誰と協力関係にあるかを示すものなのじゃ。後援者は精霊に対し、自らの魔力や加護の一部を与える。それを受けた精霊は、ある程度の精霊としての力を、後援者の為に使うわけじゃな」

「共存関係……とはちと違うな。支援と恩で繋がっている関係か……」


 人間でも似たような関係はあるだろうが、直接的な力の支援と恩って関係はちょっと思いつかねぇな。

 何より行使する力が文字通り桁違いだろうし。


「そうじゃドリアードよ。力はどこまで戻されておる?」

「とりあえずこの周辺の森の管理までは。……残りの森は、ナイアードやアルセードが分担してくれています」

「そうか。ならば妾達をここに運んできた連中を覚えておるかの?」


 思いついた、とセレナがドリアードに確認し、尋ねた事に対し、


「はい。よく覚えておりますよ。馬車が二台と人間六人でございます」


 にっこり微笑むドリアード。


「ならば、()()()()()()()? そこまで遠くに行ってはおらんじゃろ?」

「試して見ますね。地と草と、後は葉の精霊にも協力して貰いましょう」

「妾の加護も使うがよい。何としても逃がしてはならんのじゃ」


 よく分からないんだが、どう考えても俺の出る幕無いよな?


(人間と精霊じゃスペックが違いすぎますって。旦那が弱い訳じゃないですぜ)

(女の子に守られてる程度には、相棒は強いからな! HAHAHA)

(言い方。……けど、まぁ、弱くは……無い)


 …………言われてみると、俺って実は情けなくないか?

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