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考えましたとさ

「どういう……事じゃ?」

「さぁな。けど、どう考えても面倒くせぇ事には変わりないだろうな」


 何度か戦ったことのある、暗殺者特有とも言うべき目くらましの魔法。

 その最上位とも言える、さきほどの暗殺者が使った魔法が……闇。

 単なる目くらまし以外に、使う人物や詠唱によって効果は多岐にわたる。

 毒や衰弱を振りまく闇や、どこか別の場所へ飛ばす闇。

 そして、一番使っているやつが多かったのが――幻術を見せる闇。

 だからこそツキに頼んで幻術を解除する、醒める魔法を掛けて貰ったのだが……。


「幻術を解いた先の光景は、幻術だと思いたくなるような光景でした。……ってか?」

「言うとる場合か! 何とかして奴らを見つけねばならんのじゃろ!?」


 いやまぁそうなんだけどさ……少しくらいは現実逃避させてくれよ。

 正直俺も信じたくないんだから。


「まぁ状況整理すると、俺らは元いた場所とは別の場所に飛ばされちまったか、あいつらが元いた場所から忽然と消えたか――」


 そこまで言って一度区切った俺は、これであってくれという思いを込めて噛み締めるように最後の可能性を口にする。


「今も俺らが幻をみているか……だ」

「はぁ? 何を言っておるのじゃ。ツキの魔法により幻術から醒めたはずなのじゃろ!?」


 最後の可能性を否定するように叫んだセレナはしかし。

 腕を組んで何やら考え込んでしまう。


「幻術の解除をキーにした幻術? 複雑で難解な術になるはずなのじゃ……。あやつ、本当に人間か?」

「さぁな。とっちめて聞こうにも、俺らの視界には一切の痕跡すら無いぜ?」

「仮にここが幻術の世界だとして、妾達はこの幻術の外で何をされておると思う?」

「身柄拘束でもしてるか、既に殺した後か。……毒を盛って捨ててから野垂れ死にさせるってのもいい案だし、魔物の餌って線も証拠が残らず手軽だな」


 悪い方への考えほどこう簡単に思いつくのは何でだろうな。

 どれか一つでも叶わないことを願うばかりだわ。


「変に落ち着いておるの……。何ぞ策でもあるのじゃ?」


 焦ってもいない俺の態度に気が付いたか、そんなことを口にしてくるセレナへと――いつの間にか切れていた脳内会話を接続させるようトゥオンに伝える。


(ありゃ? 切った覚えは無いんですがね。……あー、そういう……)

(トゥオンが納得したみてぇだし、まずは現状の確認からな。恐らく、俺らは肉体と精神を切り離されてる)

(先ほどの闇に飲まれたときか?)


 仮説もいいとこだし、根拠も無い。

 それが一番今の状況を説明出来るってだけの持論。

 しかし、仮にそれが正解だとしたら、面白く思わない奴らがいるのは事実。

 であるならば、監視されているかもしれないこの世界でわざわざ声に出して会話などするのは愚の骨頂。

 ご丁寧に脳内会話を遮断してたみたいだが、トゥオンを――呪いってやつの強さを舐めるんじゃねぇ。

 どれだけ面倒くさくて厄介かは、俺が身をもって痛感してんだよ!


(恐らくな。んでもって、俺らの意識があるのは精神世界――しかも、この魔法を掛けた相手の思い通りの展開を盛ってこれるような、な)

(ではますます何としても早めに出なければならぬのでは無いかや!?)

(まぁ、そうなんだけど……ちょっとこの場で話しときたい俺の仮説があるから聞いてくれ)

(仮説? 先ほどまでのとは違うのじゃ?)

(もっと根本的な部分でちょっとな……)


 俺らをのぞき見してるやつからは諦めて空を仰いで座ったように見えるように。

 ため息を一つついて腰を降ろした俺を真似て、セレナも俺の側に座る。

 さてと……どこから話すか。


(セレナ、俺たちが護衛しているシューリッヒの運ぶ商品、何だったか覚えているか?)

(装備品じゃろ? 馬車に積み込まれていたでは無いか)


 そうだよな。忘れてねぇよな……。


(量は覚えているか?)

(馬車の荷台に綺麗に整えられてギッシリじゃ。……それが何かあるのじゃ?)

(戦争って、どれくらいの規模だと思う?)

(……戦争というぐらいじゃから、国同士の争いなのじゃろ? 文句なしの大規模……で……)


 どうやら、俺の言いたいことが分かってきたようだ。


(貴族に売るって説は、シューリッヒ自身が説明したことから無くなった。残りの一つはどこだと思う?)

(――巻き込まれる、村)

(そう、恐怖心を煽り、どこの国も助けてくれない。自分の村や町は、自分たちで守らなければ。とでも言えば若い奴らはこぞって武器を求めるだろうな)

(そこに颯爽と装備品を持ったシューリッヒが現れる?)


 分かったとはいえ、知らない事までは辿り着けない。

 俺が考えている最悪のシナリオは、もっと胸くそ悪い展開に向かうもんだぜ?


(シューリッヒはこの商売で莫大な利益を出すつもりなんだ。それは、俺らに掲示した条件からも窺える。たかが村一つ分の装備がそんな儲けになるとは思えない)

(では何を売っていると? 装備と共に売れて、かつあの装備の山に紛れ込ませる事の出来る物なのであろ?)


 核心に近付くにつれ、何とも言えない気持ちが俺の胸を駆け巡るが、最悪を想定しなければ、冒険者としてここまで生きていなかっただろう。

 最悪を回避するために、その最悪を想像し、行動しなければならない。


(セレナ……俺の予想が正しければ、シューリッヒの扱う商品ってのは――()だ)

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