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また面倒くさくなりましたとさ

 焚き火は未だに燃え続けているはずで、空には星が輝いていたはずで。

 それらの光を容赦なく飲み込んでいく闇は、止まること無く進んでいく。

 気が付けば視界の全てが黒塗りになり、直立しているのか、そもそもどちらを向いていたかさえ定かではない。

 けれども、その闇の中でも追える二つの気配を探り、何とか今の所落ち着いている。

 気配の一つは当然暗殺者。

 こんな視界全てを奪うようなことをしながら、どうやら闇を吐き出していた位置から一切動いていないようだ。

 もう一つの気配はセレナ。

 暗殺者とは全く違う、モンスター特有の気配だからこちらも間違わない。

 無意識にか、それとも意識してか、俺の方へと寄り、背後への警戒を俺に任せるようだ。

 下手に声など発せず、故に行える意思伝達の方法など無い。

 ――普通ならば、であるが。


(トゥオン、脳内会話にセレナを招待。状況を互いに共有するぞ)

(あいよ、旦那。にしてもこんな暗闇たぁ、いい思い出は無いっすねぇ)

(暗闇にいい思い出があるやつなんざ、碌な生き方してねぇだろ。HAHAHA)

(一部のモンスターを除いて恐怖の対象の一つですからね。暗闇は)

(暗いの、怖い)

(何じゃこのような状況でもお主らは賑やかじゃのう)


 俺らには一切関係無く、ついでにいつもと変わらねぇ口調の装備達のお陰で変に気張りすぎてもいないしな。

 闇を吐き出す間は動けないのか、微動だにしない暗殺者相手に、警戒は解かず……しかし身構えすぎるようなことはせず。

 我慢比べならばどこまでも付き合ってやるぜ?

 違うってんならそっちから動いて来いや。

 生憎今まで我慢の連続の人生なんだ。お前が諦めるまでの時間なんて、俺からしてみりゃ僅かな時間よ。


(ツキの為に煙草も我慢してますからねぇ)

(涙ぐましい努力ってわけだ。そろそろ吸いたくなる頃合いか? HAHAHA)

(煙草を、我慢、することと、比べられる、暗殺、者……何か、不憫)


 誰も煙草と言ったつもりはねぇんだが? つーかトゥオンが言いやがったからだろ……。


(緊張感の欠片も無いの……。――ッ!? 来るのじゃ!!)


 脳内に聞こえるやりとりに思わず脱力したらしいセレナが、肩の力を抜いた瞬間。

 その隙を見逃さずに動き出した暗殺者。

 闇は晴れず、視界ゼロの中、随分近くで聞こえる打ち合う音に、思わず盾を身構えて……。

 背中で殺気が爆発したのを感じ、慌てて振り向いて――。


(旦那!? 前! 前!)


 頭の中でトゥオンが叫び、しまったと思うがもう遅い。

 暗殺者が殺気を感じ取らせるようなヘマをするはずが無く、どう考えても見え見えの囮。

 振り向いた直後に背中に焼けるような痛みが走り、


「ってーなクソが!! 炎の海で遊んでろクソガキ!!!」


 ダメージを受けたことで口調が荒くなったメルヴィの暴言と共に闇へ向かって炎が伸びる。

 ――が、暗殺者に当たったかどうかは判断出来ない。


(ツキ! ご主人様に回復魔法を!)

(はーい。パパー、げんきげんきにな~ぁれ)


 ツキの回復魔法で背中の傷を癒やしてもらい、すぐに体勢を立て直すが、不味いことに暗殺者の気配を見失ってしまった。

 一度見失った気配は、中々に察知させてくれそうも無く、結局全方位を警戒せねばならない事態へと突入する。


(ちょっと、まずったか?)

(もうさ、相棒。めんどくせえからこの場から思い切り離れちまうってのはどうだ?)

(……やってどうなる)

(あいつの狙いが相棒なのか、セレナ様なのか、あるいはシューリッヒか、ハッキリするんじゃね?)


 ぶっちゃけその案を採用したい所なんだがなぁ。


(ダメだ。俺への依頼内容はシューリッヒの護衛だぞ。これで俺が離れてシューリッヒがやられました、とかなったら最悪だ)

(でもそれなら今この瞬間に狙いに行くはずじゃねぇのか? わざわざ闇の中に引きずり込んで、力比べなんて暗殺者としちゃあ変じゃねぇか?)

(俺らに妨害される危険性を放っておけなかったんだろ。やるなら確実にしたいだろうし)


 ならそもそも、俺らの前に姿を現した時点で変だ。

 見られたら負け、とまで言われるほどに、こいつらの業界は視線を気にするはず……。

 そして、今しがたまで耳に届いていたセレナと打ち合う音もいつの間にか消えていた。


(……ツキ、回復魔法)

(さっきかけたよ~?)

(幻術系から醒める魔法を頼む)


 辿り着いた俺の思考は、ツキから可愛い「え~い☆」という声が聞こえた直後に、現実のものとなった。

 俺が焚いた焚き火だけを残し、シューリッヒが寝ていた馬車も、セレナが見つけてきたアイナ達のものと思われる馬車も――そして、アイナ達までもがその場から、一切の痕跡を残さずに消え去っていたのだった。

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