助け船を出しましたとさ
さて、脳内会議を始めよう。
(一体何が始まるんですかい?)
(相棒の事だ。どうせろくでもないことだろ? HAHAHA)
(このタイミングですと、まぁドリアードの核の事ですかと……)
(なら、選択肢。一つ、セレナ様の、言ったこと、笑い飛ばす。二つ、セレナ様の、言ったこと、肯定する。三つ、無言を、決め込む)
待ってましたと言わんばかりに口を開いた装備達は、それぞれ思うことを言っていく。
シズとメルヴィは俺の言いたいことが分かっているらしく、特にメルヴィに関しては早速俺が聞こうとしていたことに先回りしてくれた。
(それぞれのメリットだけ頼む)
(一つ目、は……ユグドラシル様、来る可能性、減らせる)
命の確保を最優先する選択肢か。――まぁ、魅力的だわな。
(二つ目、は……アイナ、達への、恩売り、と、シューリッヒ、への、情報提供、から、報酬、多くなる……かも?)
こうして関わってしまった以上、同じ冒険者として手を貸してやりたい気持ちはあるが、ぶっちゃけ自己責任の部分が強くてなぁ。
アイテムの鑑定ぐらいならまぁ許容範囲っちゃ許容範囲だし、何よりシューリッヒが珍品を見つけたと、財布の紐が緩くなるかもしれない。
大いに有りだが、ユグドラシルが来る可能性が否定できないのが……。
(最後、は……どうにもならない)
おい! じゃあなんで選択肢に含めたんだよ!?
(にい様なら、何も、言わなかった、ら、……これに、しそうだった、から?)
(ぐっ……)
痛いところついてきやがる。……確かに言われてみれば、だんまり決め込んで落ち着くまで待つなんてやりそうだなぁ、俺。
(旦那、旦那。突くのはあっしの仕事ですぜ?)
(メルヴィは突かれないように守る役割――Oh! なら今のはピッタリじゃねぇか! HAHAHA)
脳内でうるさい二人は無視。
……いや、トゥオンは無視すると駄目だな。
(トゥオン、セレナに脳内会話繋げ)
(はいはい了解でさぁ。――ほいっとな!)
(む、何じゃ? 何か用か?)
反応はしないが命令はする。
んでもってその命令はセレナを脳内会議へご招待すること。
(単刀直入に聞く。ユグドラシルがこの核を取り返しにここに来る可能性は?)
(ゼロ――とは言い切れんが、限りなく低いじゃろうな)
(根拠は?)
(今現在、やつの根は完全にこっちの世界から引っ込んでおる。それこそまた精霊が暴走などでもせん限り、干渉してくることは無いじゃろう)
ならまぁ、二つ目の選択肢でいいか。
「何でこんなもんをお前らが持ってんだよ。……全部回収されたんじゃ無かったのか?」
「? ケイスさんもこれがドリアードの核であるとご存じなのですか?」
セレナでは取れなかったソレを、ヒョイと容易く取り上げて、月に掲げて見てみれば、案の定食いついて質問してくるシューリッヒ。
「ついこの間までこいつのせいで色々な目にあったからな。……それに、こいつが元凶だぞ? お前の持ってる情報って」
「ちょっ!? ケイスさん!!?」
思わず唇に人差し指を押し当て、それ以上言うな。というジェスチャーをしてくるシューリッヒだが、もう遅い。
確実に俺の発言はこの場に居る全員の耳に届いただろうし、流石にこの期を逃すような教え方を俺はしてきては居ない。
「ふーん。つまりそれが商人が大事にする情報に繋がるものなのね。ソレでもって精霊ドリアードの核っと。ねぇねぇ、コレいくらなら買ってくれる?」
目を細め、意地悪にそうシューリッヒに尋ねるアイナは、俺の思ったとおりの行動を取ってくれた。
これに対し面白くないのはシューリッヒ。
商人でありながら、冒険者の言い値を付けざるを得なくなってしまったのだから当然と言えば当然か。
露骨にテンションが下がっているのが見て取れる。
「…………全員分の食事と近くの町までの地図。後は何かお望みで?」
「それ以上貰っては罰が当たりそうですので~、それくらいが妥当かと~」
「不足無し。互いに旨味のある有意義な取引だった」
エルドールとグリフが二人頷きながら取引をまとめ、シューリッヒの手の中へとドリアードの核が渡されたことを確認し、俺は口を開く。
「あ、そうそう。そのドリアードって、空想上のものじゃ無く、実在する精霊の核だからな? うまく装備なんかに埋め込めれば土属性の値跳ね上がっただろうし、杖に埋め込んでどんな効果になるか、研究したい学者や魔法使いなんかも多かっただろうな~」
――ピキッと。アイナを含めた五人の体が、音を立てたような錯覚を覚えるほどに、綺麗に固まって。
テンションが低くなっていたはずのシューリッヒの顔が、一気ににやけ始める。
前者は、アイテムの価値に今更ながらに気が付いたためで。
後者は、このアイテムを果たしてどれだけの値段で、誰に売るかを考え始めたためである。
「ちょ、ケイス!? 何でそんなこと教えてくれないのよ!!」
「聞かねぇやつが悪いし、何なら鑑定スキル取ってないお前らが悪いだろ」
「ちょっとは優しくしなさいよこのおっさん!! 折角少しだけ見直したのに!!」
何とでも言いやがれ! こちとらおっさんは言われ慣れてんだよ!!
「賑やかな人たちですねぇ……おや?」
「……………………あれ持ってたの、俺なのに」
焚き火の近くに腰掛けて、落ち込むラグルフの隣でシューリッヒが楽しそうにこちらを眺めているのを尻目に、俺はしばらくアイナ達と口論を続けるのだった。