少しだけ働きましたとさ
寝ていた俺の頬に刺さるのは、誰かの気配で。
人が気持ちよく寝ていたというのに隠そうともしない気配を感じれば嫌が応にも目が覚めてしまうというもの。
……何か似たような状況無かったか? 最近。
(ユグドラシルの核に関する騒動の時だろ? 流石にこれ覚えてないなんてのは記憶力疑うぜ? 相棒)
(もう、おっさん、じゃなくて、おじいちゃん)
(パパはじぃじだったの~?)
(ツキ、例えそうだったとしても、これまで通り「パパ」って呼んであげてね?)
(旦那、記憶力なんかの衰えには魚食べるといいらしいですぜ)
ちょっとネタで言ってみただけでこれだ。
全くノリが悪い……。
(冗談、で、済まない、事、言う方が、悪い)
(流石にそこまで耄碌してねぇよ!! んで? 何の気配だ?)
上体を起こして馬車の窓から外を覗くと――――なんだ、盗賊か。
馬車を取り囲み、移動できないようにして何やら交渉をしているようだ。
……二流の下から三流の上程度の盗賊達っぽいな。
まだ呼ばれてないし無視でいいか。
「ケイスさん? 今動いたのを確認しましたからね? 助けて下さ~い」
しかしシューリッヒにしっかりと見られていたようで、当たり前のように声を掛けられてしまった。
「セレンが居るだろ?」
「ケイスさんの隣で寝ているでしょうに……」
あ、ホントだ。猫みたいに丸くなって寝てやがる。
……しゃーない、脅かして帰ってもらうか。
「はいはい。ちょっと御免よ」
「あん? 誰だ貴様? 俺らはこの兄ちゃんと話し合いしてるんだ。邪魔するってんなら容赦しねぇぞ!!」
他の盗賊よりも一歩だけシューリッヒに近づいていた、恐らくリーダーだと思われるそいつは、馬車の中から現れた俺にあからさまに警戒しつつ、可愛げのある脅し文句を言ってくる。
「それがなぁ。俺もそいつに金貰ってて商売な訳よ。死ぬ前にどっかに言ってくれると助かるんだけど?」
いいながらシエラを構え、トゥオンを握る。
「やる気か? お前一人で俺らを相手にする気かよ!?」
まぁ、二流程度の盗賊が八人程度集まったところでなぁ。
ちなみに盗賊相手に腕前を見るなら手際の良さで判断するのが一番だ。
超一流ならそもそも俺はもう死んでるし、一流なら拘束されているだろう。
二流なら馬車を止めて移動手段を封じる位だし、三流なら逃げられている。
盗賊系ならまずは速度を重視して行動した方がいいぞ~。と心の中でアドバイスを送り、にじり寄ってきていた背後の盗賊へシールドバッシュ。
「うげっ!?」
なんて声をあげて吹っ飛ぶ盗賊。
お~……飛んだ飛んだ。流石『衝撃盾』だわな。
衝撃盾 シエラ。
物理的な衝撃全てを、受けた瞬間に放出する呪いの盾である。
物理面に対してこれでもかと強い反面、いつぞやの時のように魔法耐性は皆無。
振り下ろされた剣を防げば放出した衝撃で剣を折り、棍を防げばひん曲げる。
呪いの装備に恥じない性能である。
「な、何しやがった!?」
威嚇かはたまたただ驚いただけか、声を荒げたリーダーだがその程度で俺は行動を止めることは無い。
未だに驚いて動けないで居る近くの盗賊へ向けてトゥオンを一突き。
服にでもかする程度の攻撃の筈だったが、咄嗟に防ごうと盾をだしてしまった盗賊。
いや、盗賊なら避けろよ。身軽さが売りなんじゃねぇのかその装備。
結果、盾に当たったトゥオンは、その盾ごと盗賊の腕を凍らせ始める。
「う、うわあぁぁぁぁぁっ!!?」
勢いよく後ずさり、俺と凍り付けの腕とを交互に見ながら叫び続ける仲間の姿に、他の盗賊達は飛びかかってくるどころか俺から一歩足を引いた。
……場数もそんなに踏んでいない、と。
そう判断した俺はゆっくりリーダーへと近づいていって。
「選んでいいぞ。消えるか、消されるか」
そう発しただけで、尻尾を巻いて逃げ出した。
これ俺起きる必要あったか?
そう思いながら馬車へ戻ろうとすると……。
「ケイスさん!? 何ですかその珍しい装備は!!! ちょっと見せていただけませんか!!」
目をらんらんと輝かせたシューリッヒに捕まってしまい、相手にすること少々。
…………。
「だーかーらー、俺の意思じゃ脱げねぇし外せねぇんだって言ってんだろ!!!」
「そこを、そこをなんとか!!! 高く売って見せますからぁっ!!!」
「商人のくせにナチュラルに大事な部分聞き逃してんじゃねぇぞゴルァッ!!! 脱げねぇのにどうやって売るんだよ!!!」
「それはもちろんケイスさんを付属品に……」
「普通逆だろうが!! つぅかさらっと俺ごと売るとか言いやがって! 絶対に売らんからな!!!」
…………ここまで疲れる会話したの久しぶりだわ。
叫んだせいか頭痛くなってきたよ畜生……。