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頑張るはめになりましたとさ

 ゆったりと体を休め、馬にも十分な休息を取らせ、再び移動。

 ……そう言えばどこに売りに行くか聞いてなかったな。一応聞いてみるか。


「なぁ、シューリッヒ」

「はい。何でしょう?」


 相も変わらず女にしか見えない横顔で、俺に反応してきたシューリッヒへと、俺は回りくどい事をせず、単刀直入に聞いた。


「この武器や防具やら。どこに売りに行く気だ?」

「? ハルデ国では無いのか?」

「無茶言うなよ……。んなことしたら有らぬ罪着せられて有罪。持っている資産は没収っつって全部無料で国に持ってかれるぞ」


 本当にセレナは……。まぁ、いい意味で人間に染まってないというか……。変なところ純粋なんだよな。


「あぁ。当事国に売ってしまえば確かにそうなりそうなのじゃ。……待て。では当事国以外でどこが欲しがるというのじゃ?」


 な? 純粋だろ? 当事国じゃ無きゃもう可能性なんて絞られてるのに。


「一つは、裕福な貴族層ですよ。傭兵を雇い、戦力を売りつけるんです。もちろん、その傭兵が自分の用意した戦力であることを示すために、統一された装備で――しかも装備のどこかにその貴族の家を表す紋章付きを装備させます」

「なるほど……兵力の確保は最優先じゃからな。金で買えるなら、と国が飛びつくというわけじゃな」

「しかもさっき言ったみたいに資産没収しようとしても相手は貴族。何か悪い噂が出ると周りの貴族は自国以外に売り始めちまう」


 金を稼いで儲けている貴族なんて、そんなもん。

 金を使って状況を操り、作り出した状況で使った以上に金を稼ぐのさ。

 嫌になるねぇ、全く。


「ケイスさんの言うとおりで、基本的に貴族は売れば買って貰える立場な訳です。では売るためには――」

「商品。この場合だと装備を整えた兵士が必要って訳で、人も装備もってなると大変なわけだ」

「なるほどの。ある程度値が張っても、それ以上に国に吹っ掛ければいいわけじゃから、商人にとっては貴族はいい顧客というわけじゃな」


 合点がいった、と手を叩くセレナだが、すぐに首を傾げる。


「しかし、先ほどシューリッヒは一つ。と言ったのじゃ。他の選択肢もあるという事じゃろ? どこなのじゃ?」


 純粋故な真っ直ぐな質問。けれどもこれは、シューリッヒに笑顔のみで躱される。


「もうすぐすると分かりますよ。……今は言えませんね」


 その言葉を受けてセレナが俺の方へと視線を向けてくるが、無茶言うな。

 ある程度の括りなら分かるが、今回のシューリッヒの飯の種とも言えるそんな情報、俺がたどり着ける訳無いだろ。……ただでさえ戦争間近なんて情報を握っていると思ってなかったんだぞ?


(旦那、戦争の噂のある国の周辺に位置する国のどれかってだけでも教えればいいんじゃないですかい?)

(依頼主がわざわざ()()()()()()っつってんだぞ? 何かあるに決まってるだろ。僅かな情報すら口に出せねぇよ)

(けど、言わないと、セレナ様、機嫌、損ねる?)

(ある程度の弁明が必要と思いますよ? 現段階でも明らかにふくれっ面ですし……)


「あー、セレン? 魔法での会話の傍受だったりが考えられるから、現地に着くまで待っててくれって事だぞ? 別に教えないわけじゃ無いからな?」

「むぅ。……どうしてもか?」

「申し訳ありません。商人の格言で、『警戒しなくていいのは金と商品を持っていないときのみである』という言葉がございまして……。結果常に警戒しているんですよ」

「それだけ情報が命って事だ。さてと……どうせまだ日は高い。こんな時間から襲ってくるような連中は居ないだろうし、俺は寝させて貰うぜ?」


 未だに納得しきってはいない様子だが、頭を撫でてやればどうやら諦めた様で。

 その姿を見て俺は一眠りさせて貰うことにした。

 起き続けてるとまた酔いそうだったからな。


「何かございましたら声を掛けますので……すぐに起きて下さいね?」

「大丈夫だろ。それに、俺よりセレンの方が強い。何かあったら動いてくれるさ」

「ケイスよ。……お主働かぬきじゃろ?」


 依頼主から至極当然なことを言われたが、その時はセレナを……と身代わりに立ててみる。

 セレナからはジト目で見られるが事実は事実。

 正直、セレナより活躍が出来る場面なんて本当に限定的だと思うけどな。


「では、あまりにもケイスさんが働かない様でしたら、報酬は全てセレンさんにお渡ししますね?」

「お、それがよいの。働かざる者なんとやら、じゃ」

「ちょっと待て。誰も働かないなんて一言も言って無いからな!?」


 突然のシューリッヒの言葉に思わず慌てた俺だが、


(まぁ、相棒。今のはしょうがねぇよ。HAHAHA)

(口は、災いの、元)

(でも旦那? 普通に働けばいいだけですぜ? 声を荒げることですかい?)

(ご主人様……流石に堕落が過ぎるかと思うのですが……)


 脳内に聞こえた声と、俺に向けられた二人の声に向けて、俺は力一杯叫んだ。


「誰も働かねぇなんて言ってねぇ!!」


 と。

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