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進み始めましたとさ

「そういや、メイリンに帰らなくなった事伝えねぇと……」

「そう言えばそうじゃったな。……どうやって?」


 不思議そうに俺の顔をのぞき込んでくるセレナ。

 そりゃあもちろん……。


「セレn……ン、実は意思伝達の魔法を使えたりしないか?」

「なんじゃ藪から棒に。使えるのならば先日お前を捜し回って森をうろうろすることも無かったじゃろ?」

「そういやそうか……。どうすっかなー」


 セレナって結構何でもありな気がして出来そうな気がしちゃうんだよな……。


(旦那、旦那)

(ん? トゥオン、どうかしたか?)

(あっしをセレナ様に押しつけてくだせぇ。旦那じゃ出来なくとも、セレナ様の魔力なら念話を拡大して意思伝達に使えるかもしれませんぜ?)

(そうか。――――それって俺の魔力がカスって事じゃね?)

(旦那、早く早く)


 突然トゥオンに呼びかけられたかと思えば、何故だかバカにされてるような気がする事を言われ、それに対して口を出せば、誤魔化すように急かされる。

 確かに二つ名持ちのモンスターには叶わないだろうが、俺だってそこそこ魔力有るはずなんだぞ……。


(全部の属性適正無しって診断された筈だろ? 魔力有ったって魔法撃てなきゃ意味無いぜ相棒。HAHAHA)

(そ、その代わり私達が魔法使えてますから! ご主人様の代わりなので実質ご主人様の魔法です!)

(本人の、意思と、独立して、発動される、魔法。……評価は、辞めとく)


 トゥオンをセレナに渡してる間に脳内は盛り上がっている様子。

 俺の適正について言いやがったシエラは、今度魔法撃たれたときに即座に盾にしてやるから覚えておけ。


「ん。ケイスよ、伝え終えたぞ。……何をそんな子供がいたずらを思いついたような表情をしておるのじゃお主は」

「いや、ちょっとな。……とりあえず伝達ありがとな。――さて」


 シエラへのプチ復讐をいたずらと言われてしまったが、特に気にしない。

 立ち上がって軽く背伸びをし、馬を操っているシューリッヒへと声を掛ける。


「順調か?」

「えぇ。お陰様で。……そろそろ馬を休める為に付近の川で休憩を挟もうと思っています」


 周辺の地図が頭に入っているらしいシューリッヒは、手綱を操り川の近くへと馬を誘導。

 がむしゃらに進ませるのでは無く、適度に休息を取りながら進んだ方が、馬の事を考えると早く到着することなんてザラだし、何より馬も長く使うことが出来る。

 運だけと言っておきながら、押さえる部分はしっかり押さえているし、やっぱりこいつはただ者じゃ無いな。


「了解。安全運転で頼むぞ」

「えぇ、もちろん」


 やりとりを終え寝転がると、セレナから不思議そうに声を掛けられた。


「のぅ、ケイスよ」

「なんだ?」

「時間的な余裕は無かったのでは無いか? こんなゆっくり進んでおって大丈夫なのかや?」


 体感的に商品を載せてこんだけ進んでいれば結構早いと感じるのだが、セレナにしてみれば遅かったのだろう。

 そんな言葉が投げかけられた。


「お前基準で言うなよ。積載してる商品にもよるが大分早いほうだぞ?」

「そうなのかや?」

「考えて見ろ。装備品なんて人間が抱えて運ぶわけにも行くまいし、馬車で無くちゃならない。んで、シューリッヒ以外の商人が馬車走らせてる姿があったか?」

「無いのじゃ」

「つまりは先手を打ててるって事で良いんだよ。早さは速度じゃない。物事に対して先に動けるか、だ」


 セレナにそう話しているとシューリッヒから笑い声が聞こえてきた。


「何か間違ったことを言ったか? 俺」

「いいえ? 怖いくらいに正しいですよ。商人である僕が最近になって気付いたことを、商人でも無いケイスさんが理解している。というのが少し面白くて」


 その笑い声に、笑みに、嫌みは無い。

 相手である俺を不快にはせずに、笑った。相手の機嫌を損ねずに相手のことで笑うと言うのもまた、難しい事で。

 一緒にいるだけで否応なしにやり手の商人というのが伝わってくる。


「俺の方が歳重ねてるんだぞ? それに、それこそ色んな依頼をやってきたからな。こればっかりは知識と経験のお陰だよ」

「ケイスさんと同じ年齢の商人でも、ケイスさんほど分かっている人がどれだけいるでしょうかね」


 そう言ったシューリッヒは馬を止め、休憩です。と俺らに声を掛けた。

 馬車が完全に止まるまで待ち、扉を開けて一先ず大地を踏みしめる。

 やっぱり動かない足場ってのはいいもんだ。不安にならない。


「おぉ。綺麗な川じゃな!」


 馬車から出てきたセレナは、目の前の小川を確認し、パタパタと駆けていく。

 温度でも確かめているのか、指を川に浸して何やら数秒。

 そっと引き抜いたかと思えば、そのまま水を掬って口に持っていき、ゆっくりと飲み始めた。


「ぷはぁ。生き返るのう。冷たくて心地良いのじゃ」


 眩しい笑顔を見せたセレナに習い、俺も同じく水を飲んだ。

 日は傾いているとはいえど、未だ辺りは明るく、この休憩中に山賊や盗賊に襲われると言うことも無いだろう。

 俺は適当に腰を下ろし、体を休めることにした。

 …………馬車ってのは乗ってるだけで疲れるもんだ。

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