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出発しましたとさ

 現れたシューリッヒ・ハインマンの見た目は青年と呼べるもので。

 後ろで束ねた髪、細い目から伸びる長いまつげ、整った端正な顔立ちは少し間違えば女性と認識してもおかしくなかった。

 そして俺が一番驚いたのは、なんと言っても見た目からの年齢だ。

 骨董品の店主は杖を付いて歩かねばならぬほどの高齢である。

 そんなやつの息子、しかも情報が早い独自のルートを握っているとなれば、俺とあまり変わらない位の年齢だと勝手に思っていたのだが……。


「? 状況は分かりませんが父が紹介したとおり、シューリッヒ・ハインマンと申します」

「なぁ。息子って嘘だろ? 孫か何かだろ?」


 シューリッヒが見た目通りにきっちりとしたお辞儀を合わせた挨拶をしてきたが、そんな事より。とばかりに俺は思わず疑問を口にした。


「ほぇほぇほぇ。よく言われますのぅ」

「れっきとした親子ですよ。……年が離れすぎているかも知れませんが」

「なぁ、店主。あんた何歳でこさえたんだよ!?」

「ほっほっほ」


 ダメだ。まるで納得出来ねぇ。このじじい色々と元気過ぎるだろ……。


「ケイスよ。話が進まん。一先ず自己紹介。話があるなら移動しながらの方が良いのでは無いか? スピードが大事なのじゃろう?」

「あっ……。そうですそうです。依頼を受けて頂けるのであれば自己紹介はとりあえず馬車に乗ってからで。こちらです!」


 ジト目で言ったセレナの言葉を受けて、思い出したように走り出すシューリッヒ。

 言われたとおりについて行ってみれば、そこには立派な馬車が。


「これが僕の馬車です。どうぞ」


 と言われても俺は大事な話をしていないために、乗らずにシューリッヒへと尋ねる。


「報酬の話なんだが、売り上げた利ざやの二割とあんたの父親と約束した。……間違い無いな?」

「間違いありませんよ。商人ですので約束はきっちり守ります」

「道中の諸経費もそちら持ち。いいな?」

「その条件で探すつもりでしたので構いません」


 ここで少しでも答えるのに間があったり、詰まったりしたら依頼を蹴るつもりだったが、そんなことも無く。


「じゃあ、世話になる。俺はケイス。エシット・ケイスだ」


 これ以上疑うことも無いので俺は馬車へと乗車する。


「妾はセレn」

(本名は教えないで下さいね!?)

(下手すりゃセレナ様の事でまた一悶着有りそうだからな! HAHAHA)


 思わずそのままモンスターとしての名前を言いそうになったセレナを、シズとシエラが念話で止めて。


「セレ……?」

「こほん。セレンと申す。よろしく頼むのじゃ」

「一応俺のパートナーだ。……俺より強いぞ」


 怪訝な顔して振り返りセレナを見たシューリッヒを誤魔化すように、不要に思えるフォローを念のためにしておいて。


「あぁ、そうでしたか。てっきりケイスさんの連れ子なのかと」


 唐突にそんなことを言われて思い切り吹き出した。


「げふっ! げほっ! ごほっ!」 ――何でそうなるんだよ!?」

「? 見たところ武器や防具を装備していませんし、ケイスさんにピタリとくっついてきていましたので……」


 なるほど。……カムフラージュも兼ねて装備品着せといた方がいいんかね……。


「装備なぞ、窮屈で仕方が無い。妾は強いからの。装備など不要なのじゃ!」

「終始この調子でな。素直に装備を着てくれねぇのよ。……実際強いし、今まで危険になった事なんて無いから何も言えないって訳さ」


 見た目相応なトンデモ理論というか、子供の駄々とも取れる事をセレナが言ってくれたお陰で、シューリッヒも納得してくれたらしく、馬車を走らせ始めた。


「にしてもその若さで馬車か。商才に溢れてんだな」


 商人には大きく分けて三段階の夢がある。と以前酒場でベロンベロンに酔っ払った商人に力説されたことがあった。

 まずは商品の売買のみで食っていけるようになること。

 冒険者としてモンスターを狩ったり、自ら素材を集めたり、アイテムを集めること無く、物の売り買いだけで利益を上げるというのはそれだけでも難しいらしい。

 次に自分用の馬車を持つこと。

 生活出来るほど稼げても、それを安定させることとは別。安定的に利益を上げ、馬車を購入することでそれまでより遠くへと足を運ぶことが出来るようになる。自分が使わないときはレンタルとして他人に貸せばそれでも利益を得ることが出来る。

 馬車自体の維持や馬車を引く馬の管理。直接利益に結びつきにくい費用が一気に増えるので馬車を持つというのはそれだけで商人として一人前と見られるステータスになる。

 最後に自分の店を出すこと。

 土地、商品、顧客。そして、信頼。全てを勝ち取り、それまで培っていなければ出してもすぐに潰れてしまう故に、一カ所にと止まり続け、商売をするのは一筋縄ではいかない。

 俺ら冒険者が家を持つことが夢な様に、商人の夢は自らの城とも呼べる店を持つことである。

 それを踏まえ、既に馬車を持っているという事実を見れば、このシューリッヒなる人物の才能が分かると言うものである。


「こればっかりは運が良かったとしか――」

「商人に取ってどうしようもないもの、それは自らの運である。って言葉を他の商人から聞いた事があるけど?」

「商人に詳しい様ですね。その方は他にどのようなことを?」


 太陽が昇りきった頃、明るいからとあまり周りを気にせずシューリッヒと他愛無い会話を続ける俺は、密かに馬車酔いとの戦いを開始したのだった。

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