驚きましたとさ
店主の話を掻い摘まんで話すとこうだ。
この骨董品売りの店主には、世界を股にかけながら商売をする息子がいるそうで、その息子が今が売り時! と意気込んで大量に商品を購入したはいいものの、護衛を雇う金すらも在庫確保に使ったらしく護衛も雇えずに困っているのだとか。
その護衛を俺たちに頼みたいとのことだった。
「もちろん礼はするし、諸経費もこちらが負担する。それで何とか受けて貰えぬかのぅ?」
聞けば聞くほど息子のドジなのだが、果たして俺らがわざわざ受ける必要があるのだろうか。
「受ける受けないの前に一つ聞かせるのじゃ。……丁度いいところに来た。というのはどういう意味なのじゃ?」
「? それ気にするところなのか?」
「では聞くがケイスよ。お前がこの者達の立場だとして、丁度いい場面とはどんな場面じゃ?」
突然セレナに聞かれるがそんなもん俺だって少しは考えているさ。
「今言ったとおりに護衛が雇えないって状況だろ?」
「それが何故丁度いいのじゃ?」
「俺らが買った装備の代金をツケにして貰ってるからだろ? 恩義感じてるなら受けろっていう」
「ふむ。では、護衛を雇う金が無いのに報酬も諸経費も約束するのは不自然では無いのかの?」
「商品売った金で補える算段なんだろ。……は?」
「商人とは金勘定にうるさくないといけないのではないかや? それが皮算用をあてにして妾達を雇おうとする、と?」
言われて気が付いたがめんどくせぇなこの話。
下手すりゃ骨折り損のくたびれ儲けじゃねぇか……。
「受けてくれないのですかな?」
もういかにもツケの事をたてに受けさせる気満々の口調で店主が言うが、そこに待ったをかけたのは他ならぬセレナ。
「受けぬとは言うておらぬ。ただハッキリさせるのじゃ。丁度いいという発言の意味と、何を、どこへ運ぶか。報酬の金額とその報酬をどうやって支払うかをの」
それが自分らに依頼するための最低条件。と突きつければ、目の前の店主はゆっくりと口を開いた。
「気を悪くなされたなら謝ろう。が、悪気はなかった。これだけは信じて欲しい」
「これから言う内容次第だな」
「ふむ、そうじゃのう。まずは丁度いいと言うた理由からか。――金が無く、時間も無い。そんな時にうちにツケのあるお前さん方が来た。これが丁度いいの内容じゃ」
「時間が無い?」
売り物は確かに時間や季節によって値段が変化する品物はいくつかあるが、俺が思いつく品物はどれもこれも大量に仕入れることなど出来ない代物ばかり。
魔物の毛皮だったり食べ物系。定まった期間にのみ価値が出るようなものばかりだが、それを売りたいと思うのは他の商人も一緒。つまり商人間で品物の取り合いが起きる。
「左様。しかしこの話は息子が独自のルートで仕入れたもの。聞いた後にその情報を他に売り込まれればこちらは丸損も覚悟せねばならん。確実に依頼を受けてくれるというのならば話そう」
「セレナ……どうする?」
「受けてよいじゃろ。妾達に包み隠さず話すというのならば仕事の後に吹聴されても問題ない代物なのじゃろうて」
「だそうだ。んで? どうして時間が無い?」
安堵からか、それとも疲れたのか。
一息吐いて話し始めた店主の言葉に、俺らは――少なくとも俺は度肝を抜かれた。
「何でもハルデ国との戦争が始まるという情報を息子が捕まえおったのよ。それから出来る限りの装備品を買い集め、周辺国へ売り込もうとしておる」
つい先日まで俺が巻き込まれた精霊を利用しようとしたハルデ国の思い描いた最終の狙い。
魔装備で固め、圧倒的な武力をもって、周辺国を侵略しようとした計画。
多少の違いはあれど、もはやそれは些細な問題である。
戦争の可能性を聞かれ、あまつさえ戦争を始めようとする国の片方さえ分かれば、自ずと答えは導かれてしまう。
「だから……時間か」
戦争を始めようとする国が必要数の装備を集める前に、集め始めて需要が増え、供給を超えた装備が高騰する瞬間を見極めて、売り抜けてしまおう……と。
スピード勝負もいいとこで、そして護衛をどうしても雇わねばならない理由もハッキリした。
かさばる装備というのは、盗賊なんかに酷く狙われやすい。
確実な金になり、そして移動も遅くなってしまうためだ。
「理解していただけたかの?」
「十分に。後は……報酬の話と、諸経費をどうやって賄うか聞ければ、それでいい」
嫌と言うほど理解したし、商人って存在を俺は見直した。
秘匿も秘匿な筈の情報を入手した、この店主の息子という存在を。
「報酬は売り抜けた利ざやの二割。諸経費は、今息子がこの町でとある商品を売っておっての。その売却金額で賄える筈じゃ」
「一応聞くがそのとある商品ってのは?」
「季節外れに実っておった果物数種。時たまおるのよ。時期でも無いのにその果物を食べたいとだだをこねる金持ちがな」
丁度店主が言い終えるか終えないかという所で、こちらに近づいてくる足音が一つ。
足音に続くように硬貨の擦れる音が響くのを聞けば、嫌でもある程度の金があることが分かる。
「おぉ、こちらも丁度よく帰って来たようじゃ。紹介しよう。息子の【シューリッヒ・ハインマン】じゃ」
店主の手を伸ばした方向から歩いてきた彼の息子、シューリッヒ・ハインマンを目にしたとき、俺は絶句した。