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嫌な予感がしますとさ

 ふかふかのベッドにソファ。

 窓から入り込んでくるそよ風は、肌に当たり清涼感を与えてくれる。

 そして目の前には手作りの温かな料理……。

 ここが理想郷か――。


(旦那ー? いくらこの間までとは比べものにならない生活だからって、現実を夢心地に認識しないでくださーい)

(こんな相棒もたまにはいいだろ。どうせもうすぐろくでもないことに巻き込まれるぜ? HAHAHA)

(にい様、だらしない……)


 念話で色々と言われるが、その程度で怒るほど俺の心にゆとりが無いと思うのかね?

 答えは否! 今俺の心は過去最高にゆとりがあるぞ!!


「いや、まぁケイスよ。そういえばなんじゃが……」

「どうした? 何かやりたいことでもあるのか?」


 俺と一緒にくつろいでいたセレナが思い立ったように言う。


「これの代金を支払いにいかぬか? 妾も多少は報酬を受け取ったのじゃ。お主に頼らずとも、返済できる筈じゃ」

「あー。そう言えばそうだったな。一応期限は三十日って言ってたが、別に払えるなら払っとくに越したことは無いか」


 骨董屋で買った耳飾り――ハウラの素材の装備品を示し、言ったセレナの提案に賛成し、ソファへ深く沈めていた体をゆっくりと持ち上げる。

 結構名残惜しい……が、どうせそんなに時間はかからねぇだろ。

 すぐに帰ってきて、また暇を謳歌(おうか)するとしよう。


「メイリン、ちょっと出かけてくるぞ」

「行ってらっしゃいませ。……帰りは遅くなりますか?」

「そう遅くならない筈だ。――まぁ、何かあったら連絡するようにしとく」

「かしこまりました。では、お気を付けて」


 声を掛け、出かけることを告げれば深々とお辞儀をして、帰ってくる時間を気にされたが、何というかこう――いい。

 凄くいい。帰りを待ってくれる存在って何かこう、心にくるものがある!


(これが伴侶ってんなら分かりますがね? 相手は雇われのメイドさんですぜ?)

(言ってやるなトゥオン、例え雇われだろうが相棒には初めての存在だからな。仕方ねぇのさ。HAHAHA)

(ご、ご主人様!? 私はいつもご主人様と共に宿屋に戻るのを心待ちにしておりますよ!?)

(宿主に、死なれたら、困る)

(パパー? ツキはねぇ、パパのお側にいられるだけでいいよ~?)


 好き勝手に言いやがる装備と、ツキとかいう天使達だが、何度も言わせるな。

 今日の俺は心にゆとりがあるんだ。

 その程度では決して怒らんぞ。


「いつまで漫才を続けておる。……はよう行くぞ」


 セレナにため息をつかれ、先に行かれてしまった。

 慌ててセレナへと並び、手を掴む。


「? 何の真似じゃ?」

「いや、街中は人が多いからな。はぐれないようにと連れ去られないように……」

「ふむ。まぁどちらにせよ妾は自身でなんとか出来るがの?」

「だからだよ……。街中ではぐれたからと魔法でも使うのか? 連れ去られそうになって元の姿を晒すってか? 両方騒ぎになるだろうが」

「? 龍の姿を晒せば騒ぎになるのは分かるが、街中での魔法も駄目なのか?」


 割と常識欠けてるよな、セレナって。

 元は人間じゃ無いからしょうがないっちゃしょうがないが。


「基本的にはダメだ。この間の霧騒動の時のように非常事態で誰からも見られていないならともかく、周囲の目がある中で魔法を使うと一発でしょっ引かれる」

「何故じゃ?」

「魔法ってのは撃った本人にしか効果が分からないからさ。ただ明るく照らす光です。何て言って、その光を見た人間を意のままに操る魔法でした。なんて事が歴史上何度かあったし、俺みたいに魔法を使えない人間からすれば、魔法なんてのは物騒な代物なのさ」

「つまり魔法が使えるものは得物を常に抜き身で持っていることに変わりない、と?」


 例を交えた説明で、魔法という代物についてある程度お互いの認識が近くなった事を確認し、俺は話を続ける。


「ぶっちゃけるとそう。人間で出来た奴を見たこと無いが、詠唱無しの呪文だってあるんだろ? だから街中だと魔法を撃つ素振りや、魔力を集めていることを悟られただけで周りに取り押さえられる」

「むぅ。面倒なのじゃな。人の世界とは……」


 唇を尖らせ、少しだけ拗ねた様子のセレナの頭をわしゃわしゃと撫で、


「そうでもやんねーと他人と共存なんて出来ないほど弱い存在なんだ。大目に見てくれよ」


 と、セレナを暗に強い存在だと持ち上げる発言をしてご機嫌取り。


「仕方が無いか。人間とは弱い故に知恵を働かせる存在じゃからな。その知恵の(たまもの)と言うことにしておくのじゃ」


 あ、もしかしたら以外とチョロいかも。何か困ったときは持ち上げること言って誤魔化そう。

 今後のセレナの扱いをひっそりと決心した辺りで、ようやく俺たちはあの骨董屋へと辿り着いた。

 そして、辿り着くやいなや店主であるあの老人と目が合って――。


「丁度いいところに来たのう、お前さん方。ちょっと頼まれ事をしてくれぬか?」


 どう考えてもいい予感がしない話を、店主は勝手に話し始めたのだった。

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