魅力的な話ですとさ
丞相がその気になれば、そして材料さえ揃っていれば話はトントン拍子に進んだ。
倒れて動けない刺客達にツキを被ったセレナが《秩序の離反》を全体にかけ、全員を動けるまでに回復させ、ゆっくりした足取りでエポーヌ国に戻ってみれば、入り口には刺客達の肉親であろう者達が不安に満ちた顔で待っていた。
しかし、その表情も自分らの息子や娘を見たからか安堵の表情に変わり、こちらへと走り出してきた。
抱き合うその者達を素通りし、奥に見えたキックスターへ向けて一言。
「随分と早かったじゃねーか」
「ええ。ユグドラシル様が暴れてくれていたお陰でハルデ国は混乱状態にありましたし、とても容易に物事が進みましてね」
「そこまで最初から計算ずくだろうが。ったく」
とぼけたように言うキックスターだが、今回の騒動においてユグドラシルを巻き込むことを考えていたのは他ならぬこの男で。
どのような展開になるかを読めなかったとは到底思えない。
「過大評価ですよ。全て偶然です」
「今回はそういう事にしとくか。――さて……」
「報酬の話ですね?」
刺客達に仮の住まいまでの地図を手渡したキックスターは俺に着いてこい。とジェスチャーをし、とある宿泊施設の建物へと入っていく。
俺が昼間利用した、あの高級宿泊施設だ。
(まさかこんなに短い期間に二回も利用することになるとはな)
(人間、何があるか解らないっすねー)
(あそこは快適じゃったし、しばらくくつろがせて貰うとしようぞ)
思考での会話にもの凄く自然にセレナが入っていたが、それに反応しないほどには、この時の俺は疲れていた。
まぁ、聞かれて困る会話でも無いしな。
*
キックスターに着いていき、案内されたのは宿泊用の部屋では無く会議などで使われそうな広間だった。
高級であろうソファには八咫烏の刺繍や装飾が施されており、一目でどこの国のものか分かるし、中央に置かれたテーブルにかけてあるクロスも八咫烏の模様の入ったレースであるし、燭台にすらある始末。
「中々の趣味だな」
「この場所は会談などでも使いますからね。主張が強いくらいで丁度いいのですよ」
なんて言ってるが、会談なら城でやればいい話。わざわざこんな場所でやる“会談”なんざ、それはもう密談だろうが……。
「さて、回りくどいのは好まれないでしょうから、本題からいきましょう。報酬の話ですが、セレナ様とケイス様それぞれに報酬を支払おうと考えています」
「何故かを問うてよいかの?」
予想してない事を言われ、思わず何故? と聞いたセレナに対して、
「ケイス殿とは別な形でセレナ様も動いて頂きましたからね。まとめて支払うのは適切では無いと思いまして」
「なるほどな。――それで? 俺への報酬はどうなるわけ?」
「まずは金銭面ですが、ケイス様がお持ちの冒険者カードの方へ預金という形で振り込んでいます。既に振り込んだ後ですが不満は無いと思われる額を振り込んでいますので後で確認して下さい」
思わず取り出した冒険者カードを見るが、当たり前にそれだけでは振り込まれた額は分からない。
まぁ、不満ある額だったら余所の国に行かれることを考えるならば、それなりの額を支払ってくれているだろう。
「そして、現在ケイス様は宿泊施設をご利用されているようですが、どうですか? 希望するならば我らが住居を保証しますが?」
「? 建ててくれるって事か?」
冒険者の夢の一つ、マイホーム。
それも普通の家屋では無い、いわゆる豪邸と呼ばれる建物。
ある程度以上のまとまった資金と実績、そして何より国から信頼されなければ建てる事が出来ないソレを国が用意する、と?
「建てるのでは無く、いくつか住居者の居ない建物がございまして。そちらの方へ棲んでいただくという形になります」
「んー。……でもなぁ、俺下手すると長期間家に戻らないんだけど?」
「現状空いている住居の状態を保つために、掃除などを行う従者のような方を国が雇っております。その者をおつけしますので、もし遠出する際でもご安心を」
つまり、誰も住んでない家を従者付きで紹介するからそこに住め、と。
願っても無い申し出だが、そんな事を言い出すって事は……。
「ですので、今後また何か依頼があれば話だけでも聞いていただけるとありがたいです」
やっぱり、国として表立って動けない今回のような厄介事を俺に回す気かよ。
けどこの申し出断ると国に目を付けられるわな……。
(受けるしか無いっすねぇ。旦那、まんまと一杯食わされちまいましたね)
(これだから国で政治やってる人間嫌いなんだよな。打算的っつーか)
(相棒が本能で動きすぎなだけだろ。HAHAHA)
(パパはー、ちょとつもうしんって奴なのー)
(にい様、もう少し、考えた、行動を)
(だ、旦那様はしっかりしてると思いますよ?)
シズ……下手なフォローは逆効果だって言ったばかりだろう。