皆受け入れましたとさ
「あんた誰? 盗み聞きなんて悪趣味じゃない?」
「たまたまそこのケイスさんに用事があって探していたら聞こえてしまったんですよ。他意は無いです」
あからさまに不自然な登場に露骨に警戒する刺客。
んでもって男の言葉は十中八九嘘だな。んで当たり前のように俺の名前呼ぶんじゃねぇよ。わざわざ名乗らずに話してたのに……。
「へぇ~。ケイスって言うんだ。このおっさん」
「面と向かっておっさん呼ばわりすんな。結構傷つくんだぞ!?」
「まぁまぁ。私も自己紹介しますから」
俺をなだめるように肩を叩いた男は、そう言って自己紹介を始める。
「私、【ロトリ・フォン・キックスター】と申します。エポーヌ国丞相を務めております。以後お見知りおきを」
丁寧に、紳士的にお辞儀をしたキックスターというその男は、にっこりとした笑顔で顔を上げ、先ほど刺客が聞いた質問に対し、あっさりと解答した。
「先ほどの質問に関してですが、簡潔に言いましょう。今からでも可能です」
「はい!?」
「今から行動を開始しますと……そうですね。エポーヌ国の同盟三カ国に連絡と同時に国王へ報告。そこからハルデ国に出向きここに居る方々の両親確保とやるべき事は多いですが――」
スラスラともし今から動けと言われたときの行動を挙げ、眉間をつまんで考えている。というポーズを取り。
「まぁ、遅くても明日の夕方には全て終えているかと」
相も変わらず貼り付けたような笑顔だが、逆にそれが不気味に思えてくる。
いわば敵国に忍び込んで何人いるか分からない刺客達の身内を確保、救出をして来るのに一日も掛からない。……断言しよう。無理だ。
――普通ならば。
「すっげぇ胡散臭いけど、根拠は?」
「はて? 貴方に与えた情報から理解出来ます通り、情報を掴んでいるのは貴方だけでは――失礼。貴方達だけでは無いのですよ?」
赤の他人に、ましてや流浪の身に等しい冒険者相手に渡した情報だけが、こいつの握っている情報では無いという事で。
「じゃあ、このおっさんに何で頼んだの。……あんたが動いた方が早かったんじゃないの?」
「まぁ、否定はしません。ですが、もし私が動いたとして、それがハルデ国に知られたら? 間違い無く侵略行為の一環と見なされ、それを大義名分に侵攻してきたでしょうね」
「だから俺に最低限の情報与えて動かしたんだろ? あんたの思い描いたとおりに」
与える情報を制限すれば、俺の行動を、思考を読むなんざ容易だろう。
自分で言うのもなんだが、俺結構単純だし。
(旦那は割と予想できない動きしますぜ? ……マイナス方向に)
(つうか引き起こすイベントが基本悪いからな。ゴブリンに捕まったり、泊まってた町が毒に犯されたり。――よく生きてんな、相棒)
(悪運、強い)
(えぇと……ひ、日頃の行いですよ)
シズ……下手なフォローは逆効果だ。
「買いかぶりすぎですよ。予想とは違う動きをされたのでこうして探しに来ているわけですから」
「探す場所がピンポイント過ぎんだろ……」
「それで? 本当に今から動いてくれるのね?」
ご冗談を、と謙遜するキックスターをジト目で見ながら言う俺をスルーし、キックスターへと問いかける刺客。
「ええ。構いませんよ。――ですが、貴方だけの意思では無く、ここに倒れている皆さんの総意として受け取りますが? 黙って聞いてる皆さんも異論はありませんね?」
話している刺客だけで無く、話は聞いているだろうが一切発言も、アクションも起こそうとしない他の刺客達を見回しながら言ったキックスターは……。
「まぁもっとも、拒否した方は今この場で殺すだけです。肉親も気にせず無差別で殺れるので、手間を考えると拒否する方が多い方が都合がいいです。――死体さえあればそこから研究出来ますので」
今までと変わらない笑顔、口調でそう続けた。
冗談とも、からかっている訳でも無く、一つの事実として、淡々と。
「貴方方をそのような身体にしたハルデ国や肉親と共に死ぬか、ハルデ国に一矢報いる形を取り肉親と平穏に暮らすか、今すぐ決めて下さい。……そうですね――死にたくない方はそれなりの意思表示をお願いします」
その言葉の直後に刺客達は、初めて明確なアクションを取った。
手を挙げる。足を上げる。身体の中で動く場所を動かして、生きていたいことをアピールする。
「確認しました。全員が情報と引き換えに生きることを選んで頂けたようなので、これより貴方方の肉親の確保に動きます。……貴方方は一応要人として我がエポーヌ国が受け入れますので、そこで日常生活に支障が出ない位になるまで治療させて頂きますよ?」
満足そうに頷いたキックスターはこれまた刺客達に問いかけて、先ほどと同じく反応する刺客達。
治療……ねぇ。
まぁ、ものは言い様って事だな。