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後は任せましたとさ

「何が起こったんだ?」


 茶の光が晴れ、辺りの景色が確認できるようになった頃に俺の口から出てきたのは、信じられない――信じたくないという思い。

 目の前にほんの数秒前まであった研究施設はまるでそのものが無かったかのように、痕跡すら消え失せていて。

 光は晴れたはずなのに俺の視界は茶色一色――すなわち地面しかなく。


「何を……したんだ?」


 おおよそ有り得ない考えに至り、確認のためにユグドラシルへ問えば――。


「? 言ったとおりだが? あの空間だけを……そうだな。二億ほど時を経過させただけだ」


 流石に精霊を統べる、四大精霊といえど、そんなことが可能だとは言われるまで思わなかったよ。

 少なくとも“だけ”っていう次元じゃない。


「地に関する事ならば私は大概を許されるからな。他の四大すらそうだし、何も私だけが特別ではないぞ?」

「本当に人間って、何で精霊を目指したのかねこいつらは……」


 こんなトップが居ると知っていれば、無謀と分かりそうなものだが……。


「それだけ魅力的と言うことじゃな。力というのは視野を狭くするものなのじゃ」

「然り。人間全員が弁えた連中だけで無ければ、欲の無い人間ばかりでも無い。強欲で、失礼で、高望みが過ぎる奴もいるという事だ」

「力を手に入れるとこんなのに狙われる恐れがあるってんなら、俺は真っ平ごめんだわ。命がいくつあっても足りん」


 もうこの場所でやることは無いのか、来た道を戻り始めたユグドラシルについていく俺とセレナ。


「貴様は既に力を手に入れているだろうが。それ以上高望みするつもりか?」

「そも我らが会話している時点で認められとる証拠じゃぞ? 自覚無しか?」

「……あー、言わんとしてることは分かった」


 俺自身に特出した強さがあるわけでも無ければ、俺より上が存在しない訳でも無い。

 下手すりゃそこら辺のモンスターに殺されかけるし、病気になれば下手すりゃ死ぬ。

 そんな俺が持ってる力なんて言えばソレは当然――。


「装備達か」

「外せぬという制約があるだけでその性能は同じ装備のソレを遙かに凌駕しているのは実感しているだろう?」


 装備達自身が魔法を使えるし、何なら思考だってする。

 使ってきて鎧や盾、槍が欠けた事は無いし、ぶっ壊れたことも無い。

 靴はドリアードの魔法を食らった時はボロボロだったが、時間の経過で元通りになってるし。


「まぁ、俺には過ぎた力だな」

「だのにソレを振りかざさずに相応に使っているのは評価されるところだぞ? 人間よ」

「うむ。妾もまだ刹那の時間しか共にしておらんが、ケイスは欲が無く、いいやつだと思っておるぞ」


 四大精霊と二天精霊の眷属から褒められるってのは、流石に悪い気はしねぇな。

 けどそれで調子に乗ったら何言われるか分からん。


「ありがたく受け止めとくよ。……これからはどうするんだ?」


 なんだか久しぶりに外に出た気分になり、俺らを照らす月光に思わず目を細めながらそう聞くと、


「私は残りの核を回収しに。……何やらごちゃごちゃした所にあるようだからな」


 と返って来て。

 念のために聞いておくか……。

 

「ついて行きたいんだが、ぶっちゃけ俺が行って出来ることあるか?」

「「無い」」


 いや、二人でハモらんでも……。分かっては居たけどさ。


「私は精霊として、このようなふざけたことをした連中に灸を据える。貴様は……そうだな。人間的に奴らを追い詰めてみてはどうだ? 聖白龍もそちらについていくだろう?」

「うむ。何かあればすぐに伝えるのじゃ。重い腰を上げさせて悪かったの」

「久しぶりに腰を上げてみれば、愉快で不快な出来事に巻き込まれた。頻繁には遠慮するが、たまには気晴らしになっていいやも知れん」


 じゃあの。と手を振るセレナへ向けてユグドラシルはそれまで被りっぱなしだったフードを取って素顔を晒し……。


「では、またいつか」


 格好良く年を取った老婆。またはシワだけが刻まれた青年。どうとも見受けられる容姿のユグドラシルは、僅かにだけ微笑んで、瞬時にその場所から消えた。


「なんつーか、強烈な奴だったな」

「動き出せば話の分かるやつなのじゃ。問題は動くまでよ」


 そう言うとゲンナリした表情を見せるセレナを、(ねぎら)いの意味でも撫で、今後について考える。


「人間的に追い詰めろってのは、具体的にどうしろって事なんだよ……」

「さぁ? 特定された人物を上げてはおらぬから、かなり広範囲を指すのじゃろうが……」

「にい様。多分、国」

「国? ……ハルデ国を追い詰めろってのか?」


 悩む俺とセレナに差し込んだ光は、メルヴィの言葉。


「非道な、人体実験。その先、は、他国、への、侵略。全部、証明、すれば、大義名分、こっち」

「あの報告書に署名されてた四カ国でハルデ国を叩けるって事か。……なるほど。分かった」


 ユグドラシルが俺にやらせたかったこと。そして、俺にもやれること。

 ハルデ国の人の道から外れた行為を許さない……という名目。

 けど……。


「どうすりゃいいんだ?」


 そう声に出した直後。

 俺の頭に、ある閃きが駆け巡った。

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