話を聞きましたとさ
人が足を踏み入れるために整備した森の入り口。
そこから少しだけ離れ、まるで入り口を監視するかのように建てられている小屋。
冒険者や軍が拠点にすることもあるそれは、割と大きめの小屋である。
その小屋の裏手に回り、少しだけ落ち着いたらしい刺客を降ろし、俺は先ほど聞いた事をさらに詳しく聞こうと質問した。
「んで? 心臓にレプリカ埋め込まれてるっていう話なんだけどさ」
「水持ってない? 喉渇いちゃって」
話を聞こうとするとそんな要求をしてきて、渋々革の水筒を渡してやると、喉を鳴らして一気飲みし。
「はぁ~……生き返るぅ」
口を離してプハッっと声を出して、口元を手で拭って笑顔。
大変元気がよろしい。
「おじさんありがとね。うちのとこ水も食料も寄越さなくてさー」
「おい」
もの凄く馴れ馴れしい言葉で話し出すが、こいつとは初対面のはずだ。
その事を指摘したつもりでの「おい」だったのだが、どうやら勘違いをしている様子。
「あ、ごめん。えっと……なんだっけ。――あ、埋め込まれたレプリカのことか」
自らの左胸を指さして、そこに埋め込まれていることを示しつつ、
「何かねー。貧困層の家族に国が金を渡す、みたいな事を言われてさー。うちの家族もホイホイ着いていったのね。お金欲しいし。そしたらさー、子供の身体に何かを埋め込ませろって言われたの」
小屋に背中を預け、ローブのポケットに両手を突っ込んで不機嫌そうに語る刺客。
「そうすりゃ軍の特殊部隊に登用してやるって言われてさー。給料とは別に特別手当みたいなのが前金で貰えたのよ」
ポケットの中では拳を握りしめているのか。
僅かにシワが寄っている事がその答えを示している。
「その日暮らしで明日どうなるか分からないような生活してたうちら家族にはさ、救いの手のような提案だったの。……だから、みんなの意思で受け入れた――筈だったんだけどねぇ」
最初は良かったと言わんばかりの口調は、俺が感じたその通りの事を彼女も思っていたようだ。
「このドリアードの核? そのレプリカを入れてから身体が変になっちゃってさー。常に気持ち悪いし、訓練とかマジできついし、何より給料が日に日に減らされるのよね」
ようやく手に入れた人並みの生活は、手に入れるための代償では割に合わぬほどの微々たるもので。
その微々たるものからさらに減らされるとなれば、たまったもんでは無いだろう。
「んで、ボーナスが出るって言われてやらされた任務が、おじさんと連れてる幼女の捕獲。けど幼女見当たらないし、おっさん見つからないし、見つけても攻撃全然食らわないじゃん?」
仲間が俺に向かって魔法を撃っていたところを見ていた彼女は、こんなことは初めてだ、と続ける。
「いつも数人が魔法撃って、跡形も無く消し飛んで任務完了。トドメ刺したやつだけがボーナス貰ってうちらは雀の涙って感じだったし、何よりこうして目の前におじさん居るって事は逃げ切れたって事だろうし」
とりあえず言いたいことはいくつかあるが、まずは……。
「大変だったんだな……色々と」
「あ、分かってくれるー? だったらうちにトドメ刺されて欲しいんだけど?」
「違う違う。ここまで生きてくるのが、って事さ」
「?」
疑問符を浮かべて首を傾げるが、なるほど。……自覚してないのな。
「生まれた環境を覆す事をするってのは簡単じゃない。けど、お前はそれをやってる」
「好きでやった訳じゃ無いんだけど……。そもそも決めたのはうちの親だし」
「けど、受け入れて今まで行動したのはお前だ。他の誰でも無い、な」
口を尖らせ、何やら考えているみたいだが、心情は変化しているのは手に取るように分かる。
「俺は今、戦争をしようとしているハルデ国を止めるために動いてる。お前らのもう一人の標的である幼女と一緒にな。その戦争をする過程で、お前のようにレプリカを埋め込まれ、国からしたら道具としか扱われないような奴らをこれ以上増やさない為に」
少しだけ刺客の雰囲気が変わった気がした。
「だから、協力してくれ。これ以上、お前と同じ境遇の子を増やさない為に」
そこまで聞いた刺客は、目深に被っていたローブのフードを捲り、俺に素顔を晒した。
ボサボサの髪。先端には枝毛が散見される黄みがかった赤毛。
お世辞にも肌は綺麗とは言えず、肌荒れやニキビが確認できる。
しかし、それらとは対照的に澄んだ綺麗な瞳の緑色は、まるで宝石のようだった。
「おじさんって、いい人なんだね」
刺客が素顔を晒す時は相場が決まっている。
相手を殺す時か――自分が死ぬ時である。
「ありがとう。……そして、ゴメンね?」
直後、四方八方から殺気が伝わってきて、辺りを見渡すと、他の刺客達が小屋を取り囲み、その小屋へ向けて魔法を放つ直後だった。
「この場所、他の奴らに教えちゃった」




