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不可抗力ですとさ

 茂みの中で息を整え、今のうちにと携帯食料と水を口にする。

 なるべく音は立てないように多少時間をかけてでもゆっくりとした動きで行い、全てを済ませ。

 茂みの中から見える範囲で周りを見れば、どうやら下流を探し終えたか、刺客達は捜索範囲を森全域へと移した様子。

 人数が増えたわけでも無く、探す範囲を広げたとなれば各々の部隊が確認できる範囲は狭くなり、それを防ぐためには部隊をさらに分けるか部隊間の距離を広げるしか無い。

 そしてどちらにしてもそれは見落とす可能性を大きくする要因にしかならず、結果として先ほどより動きやすくなっていた。

 地面すれすれをSW(スカイウォーク)で動き、刺客達から離れるように移動していた時のこと。

 ふと、呻き声というか、すすり泣く声というか、小さな声が聞こえた――気がした。


(? 何だ?)

(さぁ? ……子供な訳無いっすよねぇ?)


 気にはなるがどうにもうさんくささを感じ、けれどももし迷子であれば放っておくわけにもいかないと、姿を確認するために声のする方へと近寄ると――。


(あー……。なるほど)


 俺が意識を落とした刺客の一人が、何やらへたり込んで泣いていたのだ。

 

(すっげぇ怪しいんだけど……)


 流石に俺を狙っている相手に世話を焼く道理も無く、一度見なかったことにして立ち去ろうかと身を翻すも、ふと思いついて静かに刺客へと近寄って。


「動くな。騒ぐな。暴れるな。理解して従う気があるなら二回頷け」


 背後から口を押さえ、首元にナイフを突きつけてそう声をかける。

 数秒間の抵抗と、また数秒の理解するための静寂と、二度ほど頷いて全身の力を抜く刺客。


「俺からの質問に縦か横に首を振って答えろ。理解出来たか?」


 その問いかけに素直に首を縦に振る刺客。


「狙いは俺か?」

「……(首を横に)」

「俺の連れか?」

「……(首を縦に)」


 狙いはどうやらセレナらしい。が、俺が連れていたと知られている以上、見つかっても見逃されるなんてことには決してならないだろう。

 ――さて、他に手に入れておきたい情報は……。


「お前から手に入れた冊子。これだけで魔法が撃てるのか?」

「ブンブン(首を横に)」


 と言うことはこの冊子だけでは魔装備たり得ないのか。

 ……じゃああと必要な要素は何だ?

 ――まさか!?


「ドリアードの核のレプリカがどこかにあるのか?」


 確信は無かったがそう聞くと、一瞬だけ躊躇った刺客は、自分の左胸を二回ほど叩いた。

 ……胸にポケットでもあって保管してんのか?

 そう思って刺客の左胸へと手を伸ばし、まさぐってみると――。

 ふにゅん。ふよん。と、手に布越しに心地よい柔らかさは伝わっては来るが、少なくとも俺が知っている核の感触では無く……。

 というかそれはいわゆる女性特有である膨らみのソレであり――。


「お前女か!?」

「///(顔を真っ赤にして首を縦に)」


 思わずそれまでより大きな声になってしまった俺を責める男は、きっとどこにもいないであろう。

 そんな俺の焦りを受けてか、赤面しながら肯定の意を示したその刺客は、押さえられた口から僅かに、


「心臓」


 と呟いて。

 そこから目に涙を浮かべ、頬に一筋の水分の通り道を作った。


(あーあ、旦那がセクハラして女の子泣かせたー)

(とうとうそこまで落ちちまったか、呆れたぜ。相棒)

(女性の、敵)

(ご主人様? そのようなセクハラも、拘束も、束縛も、私以外にしてはいけませんよ?)


 脳内で装備達に冷やかされるが、こっちだって必死だったんだ……ノーカウントにしてくれ。

 というか待て、こいつは今なんて口走った?


「心臓――まさか埋め込まれている……のか?」


 まさか、等と言って確認した悪い予感ほど当たるという。

 ゆっくりと首を縦に振った彼女は、それっきり嗚咽以外を漏らさなくなる。

 ちょっとゆっくり話を聞く必要がありそうだが、如何せん今の状況だとそれは出来そうにも無い。

 ひとまず彼女を抱き抱え、俺はどうにか身を隠せるような場所を探すべく、静かにその場から立ち去った。



「わぁ……自然の恵みに感謝ですね」


 泉で休息を終えたラグルフ達は、森から脱出を図る途中、枝もたわわに実る果実の数々に思わずテンションが上がった女性陣。

 そんな女性陣を見ながらリンゴを囓るラグルフは、他のパーティメンバーからは見えないようにローブの中で水晶を取り出してどこかの誰かへと連絡を取っていた。


「言われたとおりにやったぜ? これで報酬が出るんだろうな?」


 しかしラグルフの問いかけには応えなかった相手は、ラグルフが指示通りに動いたことを確認すると一方的に連絡を切ってしまった様子。

 小さく舌打ちをし、これでもかと果実を収穫しては馬車へと入れる女性陣に、明るい笑顔を振りまきながら、ラグルフは輪の中へと入っていった。

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