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機転を利かせましたとさ

 音を立てずに近づき、羽交い締めにして腕を首へ回す。

 へし折らないように注意しつつ、かといって血が通らないよう加減をして首を絞めていく。

 声を出せぬように口を手で覆い、待つことしばし。

 腕の中で力の抜けたそいつは、一切の抵抗がなくなった。


「うまくいきましたかい?」

「見ての通り。……ん? こいつがドリアードの魔法を使えるようにする装備か?」


 気を失った刺客の持ち物を漁り、装備や所持品を確認していけば、簡易な食料と水。

 そして一冊の冊子のようなものしか持っておらず、装備もそれ以外に目立ったところは無い。


「にい様、すぐ、離れる」


 メルヴィに言われ、その冊子を懐にしまい込んで再び森の中へと姿を消そうとして……。

 目の前に黒い影が三つほど落ちてきた。

 先ほど俺が落とした刺客の仲間であることは明白で、倒れている仲間を確認すればこちらに声をかけることも無くいきなり臨戦態勢。

 と言っても向こうの行動は腕を前に突き出した程度であるが。


「シズっ!」


 上空に飛んでは残りの奴らに見つかって事態は悪化するであろうし、見つかったまま森に入っても逃げ切れるとは限らない。

 結果出来ることはといえば、相手から視線を外さずに低空飛行で飛来してくる魔法を躱す程度。

 機械的にでは無く、偏差や予測を組み込んだ魔法の攻撃は、俺が一切近づけない程で、俺はそれを凌ぐために徐々に後退しながら回避に専念していた。

 端から見れば宙を飛びながら踊っているとでも言われそうだが、生憎当の本人である俺にそんな余裕は無い。

 爆ぜる魔法であるという情報持っているためただ躱すだけでは不適当である。

 そのため前後への大きな移動を求められ、もちろん相手もその行動を加味して魔法を撃ってくるわけで。


(うおっ――あっぶねぇ)


 時間が経つ毎に何度も魔法に当たりそうになるが、すんでの所でシズの防護魔法や独断での風魔法による軌道の変更により何とか直撃だけは避けていた。

 けれどもどうやらこの踊りはそろそろ終わりらしい。

 これだけ魔法を撃っていれば嫌でも上空に居た連中も気付くというもので。

 いきなり頭上から絨毯爆撃よろしく魔法が降り注ぎ――咄嗟に大きく後ろに跳ぶと……。

 そこには――足場が無かった。

 どうやら滝になっているらしいその場所に身を投げた俺は、落下していると気付くやいなや、即座に元の高さに戻ろうとして……。

 考えを変え、重力に身を任す。

 時間にしてものの数秒、自由落下をしながらシズへ、自分を覆うように風のバリアを張るように指示し、空中を蹴り、滝壺へと突入する。

 いくつか飛来してきた魔法も、滝の勢いに殺され飲み込まれ、幸いなことに滝壺の中の俺までは到達しないでくれた。


(旦那!? これからどうするんですかい!?)


 慌てた様子でトゥオンが尋ねてくるが――残念ながら知らん。

 あいつらの魔法からは逃れたんだ、とりあえずは思い通りだ。


(ご主人様! いくら風でバリアを張っているとはいえ呼吸は有限です! 一刻も早くこの場から離れませんと……)


 現在俺は相手の魔法を警戒して滝壺の底へと移動し、シズの言ったとおり風のバリアの空気を頼りに息を潜めている。

 離れるって言ってもアテが無いし……。

 ほんのしばしの思考。

 

(なぁ、シズ。このバリアって後どれくらい持つ?)

(このままですとバリアに使っている空気が残り三分程度で尽きますけど……)

(その時間でこの滝、上れると思うか?)


 返事が来ないのは絶句しているからだろうか、時間に余裕は無いのだが……。


(大丈夫だと思います……)

(そうか!)


 聞くが早いか水底を蹴り、滝の流れを(さかのぼ)らんと勢いを付けて……。

 外に出てしまわぬように、岸壁ギリギリまで身体を寄せて滝を(のぼ)っていく。

 登りはじめは順調に思えたが、際限なく下ってくる水の勢いというものは想像以上に激しいもので。

 勢いは全速力からジョギング程度の速度へ。

 ジョギングから歩くような速さへ。

 最終的には亀のような遅さで滝の中を進んでいく。

 息苦しさを感じ、無駄と分かっていてもバリアの中で手足を動かし少しでも登ってくれと藻掻(もが)足掻(あが)いて、一粒の水滴が額に当たるのと、――視界から水が消え去り、細い細い月が視界に現れるのが同時だった。


(寿命が縮みましたぜ旦那。……あっしらに寿命があるかは疑問ですがね)

(ギリギリセーフだったな相棒! HAHAHA)

(今のは、少しだけ、ヒヤっと、した)

(綺麗なお月様だ~)

(とりあえず、逃げ切れたと言うことで?)


 全く関係ない事を言っているツキ以外は、どうやら俺と同じようにハラハラしていたらしい。

 水に飲まれる前に空中を蹴ってすぐ近くの森の茂みへと身を隠す。

 そこから覗いてみると、どうやら滝から川を下ったと判断したらしい刺客は、必至に下流の方を捜索している様子。

 時折魔法を放ち、出てくるはずの無い俺を探すように停滞して、再度動く。

 ひとまず撒けた事に胸をなで下ろしつつ、俺は上がった息を整えるために、再び茂みへと身を隠すのだった。

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