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依頼開始ですとさ

「着きましたよ。――あのー……大丈夫です?」


 依頼主の後について馬車に乗り、揺られる事数時間。

ようやく村に到着した頃には俺は――がっつり乗り物酔いしていた。


「うぇっぷ……。ま、何とか」

「顔面蒼白でげっそりした顔で言っても説得力皆無ですぜ。旦那」

「パパー、大丈夫ー? 治癒魔法するー?」

「ツキ、あまり甘やかさなくて、いい。乗り物酔いなんて、鍛錬が足りない、証拠」

「内臓をどう鍛錬するか教えて欲しいもんだぜ。もうさ、おっさん年なの。どうしようもないの」

「年のせいばかりにするってのもどうかと思うがね。相棒。HAHAHA」


 フラフラとした足取りでようやく大地を踏みしめる事が出来た俺に、投げかけられる装備達の言葉。

なんで装備者の心配をしてくれているのがツキだけなのかね……。おっさん泣くぞ?


「わ、私、お水持ってきますね」


 依頼主はそう言って馬車を離れて駆け出して。

とりあえず伸びをしたり体を動かしたり、何とか乗り物酔いを紛らわす努力をしながら待つ。


 移動中の馬車の中で自己紹介と装備に関する事は伝えてあるし、大雑把な依頼の話はつけてある。

村の人達にも依頼主が上手く説明してくれるはずだ。


「いやー、しかし空気が美味い村っすね旦那」

「分かるのか?」

「全く? けど当たる風の質は明らかに町とは違いますぜ?」

「それ分かってるだろ。……風の質が違う?」

「ご主人様。それに関しては私が」


 シズが会話に入って来て、トゥオンの言う”質の違う風”の事について説明を始めた。


「この村に吹く風は自然な風、なんですよ。そして町に吹いていたのは言わば人工的な風。とでも言いましょうか。町を快適にするために魔法使いがわざと風を起こしていたみたいですね」

「魔法使いが? わざわざ?」

「複数の魔法使いが交代で起こし続けているのか。はたまた一人で断続的に起こしているのか。それともそんなマジックアイテムでもあるのか定かではありませんが、風は確実に起こされたもの。でしたね」

「町の領主様の意思か? ……なんだろ、そこまでしなくちゃいけないもんなんかね」


 思えばいつも町には風が吹いていた気がするし、それによって涼しくなる日があったのは事実である。

が、そこまでする必要あるんかね……。

なんて考えていたら向こうの方からトコトコと依頼主さんがこちらへ駆けて来た。


「あ、あの。お、お水です!」


 皮革の水筒をこちらに差しだしてくれたのでそれを受け取り、ありがたく飲ませて貰う。

程よく冷え、喉を潤してくれるその液体を飲み干す頃には、もうすっかり乗り物酔いは綺麗さっぱり治っていた。


「ふぅ。ご馳走様。どうもありがとうな。――と、名前聞いてなかった。教えて貰える?」

「あ、は、はい! 私、カナと申します。ケイスさん、どうぞこちらへ。村の者達にも紹介いたします」


 カナに招かれるまま村へ向かい、俺は村の皆にカナによって紹介されるのだった。



 時刻は深夜。俺は村の門の前に座り、風が木々を揺らす音に耳を傾け、おぼろげにしか見えない暗闇の中の森をぼんやりと眺めていた。


 カナから皆に紹介して貰った後、村の人達に話を聞けば。

3か月前から家畜や畑の野菜が夜の間に盗まれるようになったそうだ。

残った足跡を調べて見た所、確実にゴブリンの足跡らしく自分らの手には負えないと判断してギルドに依頼を出したとの事。


 この話を聞いた時に3か月も前からなら家畜なんかはもう残って無いのでは? と尋ねると面白い返答が。

なんでも時々朝方になると村の門の前に数頭戻ってくるそうで。

生活出来るギリギリを維持できているらしい。


「どう思うよ。メルヴィ」

「村の人、達の話の事? 仮説1。犯人は、ゴブリンではない。仮説、2。犯人は、ゴブリン。だけど誰かが家畜だけは、村に戻して、いる。仮説、3。村の人達の、自作、自演」

「あんだけ慌ててギルドに催促に行くのに自作自演は考えられないな。他の二つは両方とも無きにしも有らず。だが、なんで家畜だけ戻す? んで誰が? ってなるから恐らく仮説2の線も薄い。」

「じゃあ旦那の考えはゴブリンの仕業じゃない。ってことですかい?」

「家畜たちを盗んでいってるのはまぁゴブリンだろうよ。足跡も確認したし、周りには怪しい足跡も他に無かったしな」


 たった一人の意見交換会。(はた)から見るとおっさんが独り言をブツブツ言っているように見えるのだろうか。


「けど、まぁ。姿は確認しときたいし」

「だからこうして待ち伏せって事かい?相棒」

「待ってりゃその内来るだろ。巣探しなんざぶっちゃけめんどい。適当に傷つけて逃げかえらせて、血の跡でも辿る方がよっぽど早いってもんさ」


 なんて言っていた時である。

それまで木々を揺らしていた風が止み、虫達の鳴き声が止まり、一瞬で静寂が訪れて――。


 轟音が、地を、空気を揺らした。

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