俺は俺で動きますとさ
肩を上下させての息を繰り返し。
しかし激しい運動……例えば猛ダッシュ後のソレとは違う、極度の緊張から来る荒い呼吸。
「いや……居すぎじゃね?」
息を潜め、巨大な木々の間に滑り込むようにして上空から俺を探しているであろう影は、合計で二十ほど。
それらの影が四人で一塊になり、周囲に離散。
数分後に集合し、恐らく情報交換をして、また離散。
時折あぶり出しのためか、適当にドリアードの魔法を放って様子見――これの繰り返しをしていた。
勝手な想像だったが、それでも十人も居れば多い方だと思ってはいたが、いざ蓋を開けてみれば数は想像の倍。
「それだけ知られたくない情報なんでしょうぜ」
「本当に冒険者とは思えないくらい厄介な知識を得ちまったな、相棒。HAHAHA」
「シエラ、声、音量、落とす。お口チャック」
今のところ見つかっていないとはいえ、どうせそれも時間の問題だろう。
かといって立ち向かっていっても勝てるとは思えないし……。
「そもそも相手側の戦力が分からん。……まぁでも弱くは無い筈だよな?」
強い存在をけしかけて万が一トラブルなどが起こり、その存在を失うことになればハルデ国に取っては痛手となり得る。
戦争をもし万が一考えていた場合、強い存在は切り札たり得るのだから。
そんな存在を失う可能性が無きにしも非ずと考えるなら、この場に強い相手は居ない筈なのだ。
しかし、では周りでケイスを探している連中は弱いかと言えば、それは正確ではない。
少なくとも、先ほどから放たれているドリアードの魔法だけを考えただけでも強い部類に入る。
使い手の腕がどうであれ、一定以上の効果が見込める装備を少なくとも四人に一つずつ。
それが、ケイスが立ち向かっていかない最大の理由だった。
「弱いのでしたら、そもそもここら辺りに派遣なんてされないでしょう」
少し振りに声を発したシズに思わず驚き、「大丈夫か?」等と声をかけようとも考えたが、その言葉は結局発さずに飲み込んだ。
大丈夫であれどうであれ、これからシズに多少無茶をして貰う予定であり、それが決まっている以上今の状態を聞いたところで聞くだけ無駄である。
故にケイスの口から出た言葉は、
「スマン、シズ。無茶させるぞ」
であり、覚悟していたシズもまた、
「分かっています。――何なりと」
と返した。
「とりあえず頭上をこう旋回されてちゃ移動も逃げることも出来ないし、そうなれば見つかるのも時間の問題だ」
装備達各々に役割を伝えるように。
自分に言い聞かせるように。
「かといって数的不利の相手に突っ込むなんざ馬鹿か無謀か蛮勇だし、俺はそのどれでも無い」
一瞬馬鹿と発言した瞬間に視線が刺すほど鋭くなった気がするのは気のせいか。
「そこで……まずはこの相手が飛び回っている区域からの脱出が最優先。次いで奇襲をしかけて頭数を減らしていきたいってのが俺の考えだ。――何か案あるか?」
周りに問いかけてはみたが、行動の決定権は肉体を持っているケイス以外に持つ者はおらず。
問いかける以前から決まっていたその行動をするに当たり、やるべき事が二つ。
「じゃあ、目的を達成するために必要なこと。その一、逃げる方法の確立」
どうすればこの二十人からの視線――実に四十個の目玉の視線から逃げ延びることが出来るか。
「そんで二。相手の装備や武器などの把握」
逃げた後に奇襲をかけられたとして、少しでも周りが異変に気が付けば、ドリアードの魔法がまるで雨の如く降り注ぐのは必至。
相手の戦力を正しく分析し、一撃で少なくとも失神や昏倒まで持って行かなければならない。
その為の情報が必要だった。
「ぶっちゃけ手っ取り早いのはさっさと一人撃墜して身ぐるみ剥いじまう事だ。と言うわけで、限界までここに身を隠して、いずれ出来てくれるであろう隙を狙って行動開始。いいな?」
誰からの返事も無かったが、全員理解していると認識してケイスは息を潜め、気配を限りなく希薄にしていく。
先ほどあった緊張はどうやら収まったらしく。
また、それはケイスの頭上を飛び回る連中も同じだった。
いつもの離散後の定期な集合では無く、一つの影だけが離れて単独行動したのを確認したケイスは、シズから物音を任意の風に乗せて抑制する魔法を発動してもらい、頭上からの監視に注意して離れた一つの影を追う。
何やら木の陰の脇に降り立ったその存在は一瞬だけ辺りを見渡してすぐにその場に屈む。
どうやら俺の狙いが当たったらしい。
そいつに不意の一撃をお見舞いすべく近寄っていく途中、
「旦那? 流石にお花を摘んでいる最中に攻撃ってのは……ちょっといただけませんぜ?」
俺のこれからの行動について察した思いやりのある重い槍は、そんな事を俺に言ってくるが、当然の如く俺は無視した。