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別行動になりましたとさ

「回復魔法じゃなくて蘇生魔法なのな」

「お主は知らぬのじゃな。ドリアードの魔法は対象を朽ちさせる事が出来る。今は大丈夫でも後々まともな足で無くなるぞ?」


 何ソレ怖いんだが。

 ていうかそんな魔法を撃ってるって事は……。


「ドリアードはやはり人間に取り込まれていたようですね」

「うむ。その様子じゃとそっちも情報を掴んだようじゃの」


 人間に取り込まれている……ねぇ。

 正直まだ俺はにわかに信じられないんだけどな。


「分かりやすくハルデ国王城の資料室に有りましたし、別段暗号化もされていないようでした」

「そもそも対人間を考えての警備程度でしたので、私たち精霊は何の苦労もございませんでした」


 セレナにそう説明した二体の精霊は、こっちはどんな情報を掴んだか、と目で聞いてくる。


「過去にハルデ国がどんなことしてたかって記録と、……ドリアードの精霊核だな」


 その核を取り出して二体に見せながら言えば、やっぱり。というような表情が返ってくる。

 

「しかし、取り込まれておると言っても、人間のその身に宿しておるわけでは無い。武器や防具に閉じ込められておる」

「それは――解放することが可能なのでしょうか……」


 表情に陰りを見せ、そう呟いたナイアードに対し、セレナは客観的な視点から言う。


「難しいじゃろうな。そもやつらの研究内容が魔装備の開発で、それらを量産しようと考えるはずじゃ。そして、ドリアードの核がこの場に有るのにドリアードの魔装備が出来上がっていると仮定するならば……」

「偽の核――レプリカとでも呼びますか。そのレプリカの核を大量に作っている……と」


 類似品かも知れない装備を五つ装備している身としては、その装備ですら防御出来ない魔法が撃てる装備が量産されるなんざ勘弁願いたいものだ。


「現状出来ることはその研究をしている場所の破壊と研究成果の強奪または消失」

「そして、現在までに作られているドリアードレプリカの装備の破壊……難儀そうじゃの」


 情報を出し終えたところで、見えてきたやるべき事を改めて確認すると、面倒な事この上ない。

 と、ここで俺は一つの事を思い出す。


「そういやさ、俺らに情報をくれたやつが、「ユグドラシル様によろしく」って言ってたんだが、今の流れ的に会わないよな? ユグドラシルとは」


 そう口にした時、俺を除く三体の動きがピタっと止まった。

 時間にして僅かな沈黙と静寂。

 最初に口を開いたのはセレナだった。


「ユグドラシルに頼んだ方が……早いかもしれんの」

「……ですね」


 何やら重い口調になった気がするが、一体何を思っているのやら。

 そんな俺の考えを見越したように、


「ユグドラシル様は常にこの世界を支え続けている世界樹そのものだからね。……頼み事なんかをそうやたらとお願いできない存在なんだよ」


 アルセードが答えてくれた。


「と言ってもドリアードだったりをどうにかするのが上の存在の務めじゃないのか? まぁ精霊達の価値観がどうなのかは知らんが」

「例えば君は、依頼を受け、こなしている時に「子守をして欲しい」と全く依頼に関係ないお願いをされたらどう思う?」

「それと同じって事か。理解したわ」


 言い方的にも精霊とはいえほぼ他人同然なのか……記憶しておこう。


「じゃが事態はどこまで広がりゆくか皆目見当が付かん。まぁ妾も共にいく故、何とかユグドラシルの重い腰を上げさせるとしよう」


 ツキを俺へと返し、座り込んでいたセレナは立ち上がって服を払う。


「流石にユグドラシルのおる場所にケイスを連れて行くわけにもいかなんだ。しばし留守番を頼むぞ?」

「了解。俺は待つ間何をしていればいい?」


 セレナから連れて行けない、と申し訳なさそうに言われたが、俺は素直に聞き入れて何かやるべき事はあるかを尋ねる。

 世界を支え続ける存在なんざ、おいそれと会えないなんて考えなくても分かることだ。


「死なぬ事。そして、妾達が簡単に探せるように町に入らぬ事。……以外は自由じゃの」

「現在は私の管理地と言うことで、この場所を摂理から切り離していますが、私が離れればその効力は失われます」

「気が付いているかは知らないけど、外では恐らく僕らを探すために血眼(ちまなこ)になって探しているよ?」


 死なない事、という漠然としたことを要求されたことに首をかしげそうになるが、ナイアードとアルセードの説明で納得した。

 つまり、逃げ続けろって事だな。

 …………あの魔法を撃ってくる連中から?

 どれだけの時間がかかるかも分からないのに?


「ではケイスよ――達者での」

「もし動かなくなっておりましたら、骨くらいは供養いたします」

「原型が残っていればね。……そうそう、僕らユグドラシル様配下の精霊達は皆土属性。風属性の防御魔法ならある程度の軽減は出来ると思うよ」


 何やら今生の別れのような哀しい表情をしたセレナはサッと宙へと消えて。

 意地悪な笑みを浮かべたナイアードは自らの管理する泉へと溶けて。

 唯一俺の身を案じてかアドバイスをくれたアルセードは、静かに茂みへと潜る。

 直後、それまで聞こえなかった風の音と虫の声が耳に届き――。


「さて、逃げてみせるとしましょうか!」


 自分一人にしか聞こえぬような小さい声で、俺はそう口にして夜の森――暗闇へと歩みを進めた。

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