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被弾しましたとさ

 空へと飛んだ俺の脇を、何やら茶色い球体がすれ違う。

 どうやら魔法だったらしく背後で轟音が聞こえてきたが振り返る事はしない。

 相手が俺の姿を見失っている内になるだけ離れようと、セレナを抱えたまま駆けてはいるものの、特に宛てなんて無いわけで。

 とりあえず町から離れようと動いていたが、抱えているセレナから何やら腕を叩かれる。


「ん? どうした?」

「右じゃ。ナイアード達の気配がある」


 そう言って指を指した方向は、ハルデ国の方角で。

 小さな点が二つほど、目を凝らせばどうやら人型らしいそれを指さしていることが辛うじて分かる。

 

「了解! ……つかお前見えてるなら自分で飛べや!」

「む、まだ力が完全では無いのじゃ。少しくらい楽をしても罰は当たらん筈じゃ」


 未だ俺の腕の中から出ようとしないセレナは、足をブラブラさせながらそんな事を言ってくる。

 ――と、そんな時である。

 背後に爆発的な気配を感じ、咄嗟(とっさ)に身体を上下反転。

 地面へ向けて加速するために思い切り空中を蹴飛ばして。

 緊急回避を取った俺の眼前を、また茶色い球体が(かす)めていった。


「っぶねぇな!? って、ちょっと待て!?」


 間一髪躱せたと思ったが、脳裏に出てきたのは先ほどすれ違った球体で、その後の轟音を考えれば爆ぜる可能性がある。

 何かに当たってからか、はたまた時限式か定かでは無いが離れるに越したことは無い。

 そう考えて再度空中を蹴ったのと、まさしく球体が炸裂するのが同時だった。

 耳を(つんざ)く音と、茶に覆われる視界。

 思わず抱いていたセレナを強く抱きしめ、少しでもその魔法から守ろうと身を包む。

 強い衝撃が二回襲い、吹き飛ばされた俺はそのまま地面に落下していき――。

 地面にぶつかる直前に、生えたばかりの巨大な蔓のような物に絡められ、地面とのキスは免れた。


「大丈夫かい? ……何事ですか?」


 その蔓を生やした本人らしいアルセードに顔をのぞき込まれ問いかけられて。

 俺の腕の中にセレナを確認し、丁寧な口調で言い直す。


「知らん。が、大方予想は付くじゃろう?」

「ハルデ国の刺客……ですか?」

「しか心当たりがねぇしな」

「とりあえずここを離れましょう。すぐに追っ手が来ますよ?」


 ナイアードに促され、蔓から解放されて精霊達の後を追おうと踏み出した時。


「――ッ!?」


 鋭い痛みが足先から昇って来て、思わず動きを止めてしまう。


「ケイス? 大丈夫なのか?」


 ようやく俺から離れたセレナは俺の足をのぞき込み。


「大事ないだろうが歩くことは難しかろう。どれ」


 軽々と、ヒョイと俺を担ぎ上げてしまった。

 けれども助かった。久しぶりの動けない痛みでパニックになりかけたところだ。


「妾がこいつを担いで移動する故遠慮は不要。人如きでは追いつけぬ速度でゆくぞ!」


 安心した俺の耳に入ってきたのは、思わず覚悟を決めるような言葉であり、止めて欲しい俺の意思などくみ取ろうともせずにアルセードもナイアードも黙ってセレナへ向けて頷いた。

 結果、馬車とは比べられない早さで移動する精霊とその精霊同等以上の力を持つ眷属の手によって、俺の内臓はシェイクされる事となった。



 ようやく止まって俺が下ろされたのは、森の中にひっそりと存在する泉の(ほとり)

 ナイアードの管理地であるその場所は、精霊達の手によって結界が張られ、普通では見つからない場所らしい。


「まずは足の治癒じゃな。……見せてみよ」


 セレナに言われ足を投げ出すと、自分でも息を飲むほどの損傷だった。

 縦に裂かれたような無数の傷と、そこから流れる俺の血。

 シズを装備していたにも関わらず、シズごと俺の足にダメージを与えているところを見るに威力の高い魔法だったのだろう。


「む、先ほど見た時に歩けぬ程度と思っていたが、存外酷いの」

「その程度で済んでいるのが奇跡でしょう。遠巻きにしか見ておりませんが、ドリアードの力を使役した魔法のようでしたし」

「というか旦那、その程度で済んだのはシズのお陰なんですから、彼女にしっかりお礼言わないとダメですぜ?」


 俺からツキを剥ぎ取り、ツキと声を合わせて詠唱しているセレナにありがたみを感じていると、トゥオンからそんな言葉がかけられる。


「シズのお陰……そうだな。こいつが足を守ってくれてなかったら俺の足は今頃無いかもな」


 装備品状態のシズを撫でながらそう言うと、やれやれ。と言わんばかりの声色でシエラが言う。


「相棒、シズは相棒を庇ってさっきの魔法を受けたんだぜ? 気付いてなかったのか?」

「そもそも、器用に、足だけ、怪我しない」

「妾も咄嗟に防御魔法は発動したが、それでも魔法の威力はほとんど殺せなかったからの。シズ様々なのじゃ」


 ……あ、二回身体に衝撃が来たのって、俺を庇ったシズが俺にぶつかった衝撃と、魔法による衝撃があったからなのか。

 ――――それシズって無事なのか?


「シズ!? 無事なのか!?」

「一応、無事です」


 問いかけにシズは応えはしたが、その声は弱々しく、どこか希薄な印象。

 その直後に詠唱を終えたらしいツキとセレナによって俺とシズ、二人に蘇生魔法がかけられた。

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