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現状打破を狙いますとさ

 ――誰だよ全く。人が気持ちよく寝てるのにあからさまな殺気向けて来やがるのは。

 お陰で目が覚めたじゃねぇか。

 一休みをした後の出発に備え、仮眠していた俺を起こしたのは、セレナの声でも、トゥオン達の脳内への呼びかけでも無く、俺らに向けられた殺気だった。

 一応殺気は薄いし、うまく隠してるつもりなんだろうが、生憎(あいにく)そういったのには敏感なんだよ。

 ベッドの脇で寝ているセレナを小突いて起こし、声を出すな。と指を口の前で立ててジェスチャーで伝える。

 小突かれたことに一瞬ムッとした表情をして目を擦るが、俺のジェスチャーを理解したのか声は出さず、軽く頷いて俺からの指示を待ってくれているらしい。

 まだ俺の手を離れセレナに担がれているトゥオンの柄を二回ほど軽く叩き、思考を繋げてくれ、と意思表示をすれば。

 どうやら察してくれたらしくすぐにトゥオンの声が脳内に響いた。


(どうかしたんですかい?)

(思いっきり殺意向けられてる)

(何も感じねぇけどな! HAHAHA)

(にい様の、感覚、私たちより、鋭い)

(けれど、結界内に入り込んだという反応はありませんでしたし……遠くから狙っているのでしょうか?)


 正直相手の考えが全て読めるわけでもないが、今の段階で俺らが殺気に気付いているというのは向こうからしてみれば恐らく想定外の筈。


(セレナ、一瞬だけ、この辺りの地形を変えるような攻撃をする素振りをしてくれるか?)

(? 意図が分からぬ。――が、素振りだけでいいのじゃな?)

(間違っても撃ってくれるなよ?)

(任せよ)


 俺からの指示に笑みを浮かべたセレナは、大きく息を吸い込んで――。

 瞬間、爆発的なまでの気配の膨張と、脳にくっきりと浮かぶ彼方へと吹き飛ばされる自分の姿が想像できた。

 ただ息を吸っただけなのに、味方であるはずなのに。

 側にいる俺が無意識に臨戦態勢を取るほどには、圧倒的な気配。

 二天精霊の眷属の力を一瞬だけ解放したセレナの事は、向こうはどうやら何も知らないのか。

 直後に耳に届いたのは、風のせいではない木々の葉が擦れる音で――明らかに鳥では無いその音の発生源は言わずもがな。


(向こうへの宣戦布告は終了……シズ!)

(結界解除、各移動魔法を展開いたします!)

(セレナ、装備ありがとうな)


 感謝の言葉は暗に装備を返せ、と言ったことと同義だが、そんなことは百も承知と言うが早いかすぐさま装備を外すセレナ。

 と同時に俺のそれぞれ各部位へ、瞬時に戻ってくる呪いの装備達。


(それで? これからどうするのじゃ?)

(決まってら。相手捕まえて尋問して情報を得るのよ)


 こちらを監視しているであろう相手の目を、どうにか出来ないかと一瞬だけ考えて。


(誰か、光を発生させる魔法使えないか?)


 とこの場にいる皆へと問いかけてみる。

 一番の期待だった光の精霊の眷属が黙って首を横に振ったのを見て、思わず次を考え始めたが……。


(にい様、ちょっとなら、出来る)


 おずおずとそういったメルヴィは、


(けど、ランプ、程度の、光)


 申し訳なさそうにそう付け加える――が、


(なれば妾の魔力を媒体にするがよいのじゃ。光の眷属である妾の魔力を使えば、効果を高めることも容易であろう)


 シズの突風を暴風、壊風へと変貌させ、俺では撃てなかったツキの蘇生魔法を撃つことが可能なセレナが、だからどうした? と言わんばかりに入ってきて。

 許可を出す前に俺からメルヴィを剥ぎ取り着込み、どうするか? と目だけで俺に問うてくる。


(窓のすぐ近くに一瞬だけ目を焼くほどの光源を発生させてくれ。――出来るか?)

(これだけ、魔力あれば、大丈夫!)

(だそうじゃ。主は光を目に入れぬように後ろを向いて固く閉ざしておれ)


 俺の希望を言えば、セレナからそんな忠告が飛んでくるが元よりそのつもりだよ。

 振り向いて目を固く閉ざし、ついでに手でも覆っておこう。


「『光源(エーテル)』」


 こっそり、というかもの凄く小さくそう発したメルヴィの声が俺の耳に届く瞬間に、なるだけ影を作り真っ黒だった俺の視界は、一瞬にして純白に染まる。

 来ると分かっていて用意をしたのにも関わらずにそこまで染め上げる光源は、果たしてどれ程の強さだったか。

 重い音が地に落ちるような音が聞こえたことから、最低でも目くらまし、最高で気絶までを誘発させる程度の代物だったらしい。


「出るぞ!」


 音を確認し間髪入れずに窓へと駆け出す俺の腕にセレナがしがみついてきて。


「お前自分で飛べるだろうが!?」


 思わずツッコミを入れると――、


「視界が真っ白なのじゃ~」


 どうやら注意を促した本人が目くらましを食らったらしかった。

 仕方が無いのでそのまま抱きかかえ、俺は窓から日が沈んだばかりの空へと思い切り駆け飛んだ。

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