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一旦休息になりましたとさ

「何者って――どういうことだ?」


 叫んだセレナへ、全く訳が分からない俺は質問するが、返って来たのは怒鳴るような口調の説明だった。


「人間と同じじゃ! 同一人物がこの世におらぬように、精霊も同一個体は存在せん!」

「? つまりあのドリアードはセレナ様が面識のあったドリアードでは無いって事ですかい?」

「否! 同個体でなければ記憶などは無い筈じゃ。しかし、ここに核がこうして存在し、しかもその核は妾の知っておるドリアードの物じゃ」

「…………精霊化」


 頭を掻きむしりながら部屋をうろうろし始めたセレナを止めたのは、メルヴィの呟き。

 絵空事であると笑われた、愚かな人類が作り出した計画。


「成功……していたと申すか」

「研究は、続いてた。先の報告書にも、施設は破壊したが、データは持ち去られた後、って」

「それが何かの拍子で成功しちまって、さっきのドリアードに人間がなりすましてるってか?」

「その可能性があるって事だろうな。厄介だな」


 セレナが目を見開くほどに、シエラが普段の下品な笑いを忘れるほどに、生じてしまった可能性は信じがたいもので。


「一先ずは早々にアルセードとナイアードと合流して情報の共有をしておきたいのじゃ。……一休みした後、出発でよいか?」

「構わないさ。……とりあえず飯にしよう。腹が減った」

「食べてもよいが、お主――運んでおる最中に嘔吐などするなよ? もしやったらそのまま放り出すからの?」


 ……食事は落ち着いてからにするとしよう。


「やっぱり寝る。……トゥオン、異常を感じたらすぐに起こしてくれ」

「任せてくだせぇ」

「妾も休息させて貰うとするかの。ちと力を使いすぎたのじゃ」

「念のために周囲に結界を巡らせて起きますね。……範囲内を感知する程度の結界ですけど」

「じゃあツキはパパ達を回復させるの~」


 壁に背を預け、あぐらを掻いて休もうとすると、


「? ケイスはベッドは使わぬのか?」


 不思議そうに顔をのぞき込んでくるセレナ。


「セレナが使うといい。俺はこの寝方に慣れてるからな」

「前のパーティの時は基本見張りでしたからねぇ。旦那は慣れっこってやつですぜ」


 流石に精霊の眷属様を地べたに寝させるわけにはいかない。

 そう考えたのと、トゥオンの指摘通り普段から慣れているせいか自然に今の動きになってしまったのが半々だったが、振られたセレナは何やら少しだけ考えて。


「であるならばケイスがベッドを使うとよい。そもそも我らは地で寝るのが常であるし、逆に柔らかいと眠れぬ」


 そう言われてしまい、びっくりするような力でベッドへと引っ張られて。


「うぉあっ!?」


 体が浮いて投げ出されたのは、沈み込むような柔らかさが心地良い、雲のような布団の上で。

 外せない装備さえなければ体を転がして余すこと無く楽しみたい所ではあるが、そうもいかない――筈だった。


「む、装備達を付けたままでは寝にくかろう。お主ら、こちらにくるのじゃ」


 そうセレナが手招きした瞬間に体からそれまで当たり前だった重さが消えた。

 見て確認するまでも無く五つの装備全てが無くなっている事実にただただ感謝して、俺はそのまま(まぶた)を閉じて静かに眠りの世界へと落ちていった。


「い、以外と重いのじゃな……」


 ――意識が薄れる直前に聞いたセレナの呟きは聞こえなかった事にしよう。



「それで? あんたは何でこんな場所に泉が有るなんて知ってたのよ?」


 ラグルフのパーティは、怪しい依頼を終えた後、別の町へと向かうことにして出発。

 その後、誰のせいか森へと入ってしまい、遭難しかける事数日。

 そういえばこの辺に、何て言って走り出したラグルフを追った残りの四人の女性陣は、森の中の泉を発見した。

 得意気に俺が見つけた、と胸を張るラグルフだったが、そもそも森で遭難してしまった理由を作ったのは他ならぬラグルフである。

 賞賛はされず、かといって遭難で死ぬ可能性が減った事は事実であるために、ラグルフが原因で現在こうなっていることを誰も咎めはしなかった。


「念のため泉の成分を調べますね。毒とはいかずとも人体に有害かも知れませんし」


 杖を取り出し、神に祈りを捧げてから泉の成分を解析する魔法を使用する一人を尻目に、ラグルフはふと、泉の向こう側へと視線を向ける。

 そこには、静かに佇む(ほこら)のような物が確認できて。


「――あれか」


 誰にも聞こえぬように呟いたラグルフは、ゆっくりとその祠へ向けて歩みを進めていった。


 森の中に存在する泉、それはナイアードの管理下であり、祠はもちろんナイアードを(まつ)るためのもの。

 祠の中にとある存在を確認し、口元を歪めたラグルフは、パーティメンバーの元へとゆっくりと戻っていくのだった。

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