新たな疑問が生じましたとさ
「も、燃やすとな!? 何故じゃ!?」
「え? だってもうこいつが内容覚えてるし、持ち歩く意味無くなったし?」
俺の突然の発言に驚愕し詰め寄ってきたセレナに対して、俺はメルヴィの頭を撫でながら返す。
「それに、あの男が言ってただろ? 『紛失するぐらいなら燃やせ』ってさ。面倒な手順を踏まなきゃ持ち出せないこんな報告書を、わざわざ俺に渡した意味ってのはそこさ」
正直な話、重要書類は内容を把握したら燃やすなんて事は冒険者からしたら常識もいいとこである。
冒険者という立場上、国やギルドを介さない――いや、介す事が出来ない様なよろずダーティーな仕事というのが大きい声では言えないがもちろんある。
そんな依頼に関わる書類を持っていて、万が一不都合な相手に見つかってしまった場合、最悪極刑も免れない。
そんな局面を想定して、燃やす事が出来る書類で依頼内容や目的を指示し、俺ら冒険者はソレを受け取り理解、納得をしたら証拠を消すために燃やす。
国として容認は出来ないが、じゃあ自分らが冒険者にそのような仕事を頼まないかと言われれば、今の俺の状況を見て分かるとおりに答えは否。
だからそんな常識は知っているはずで、それでもなおあんな風に釘を刺されたとなれば――。
「燃やすことで何かしらの情報が出てくるように細工がしてある……筈だ」
俺は報告書を持ち上げ、明かりとして部屋に置かれている燭台へと翳す。
セレナが何が起きるのかと見守る中、燭台の火が報告書へと燃え移ると、火は炎となり、瞬く間に報告書を丸呑みにした。
すると――「カラン」と音を立て、灰になる報告書から何かが出現し、床へと落ちて乾いた音を立てた。
ソレの形状はクルミのような楕円形で、茶と緑のいびつな模様。
大きさにして爪の先程度の――おそらくは植物の種。
「なんだ……こりゃ?」
拾い上げて耳元で振ったり、つぶさに観察するが特に何かあるわけでも無く。
「メルヴィ、さっき覚えた資料の中に、これに関する記載あったか?」
未だ具現化を解いていないメルヴィの目の前にこの謎の種を持って行くと。
「多分、世界樹の種? 資料にあった、内容、なら」
「世界樹とな!? み、見せてみるのじゃ!!」
メルヴィがそう口にした途端、それまで特に反応が無かったセレナがものすごい勢いで突っ込んできた。
「これが……世界樹の種? ――何じゃ、驚いて損をしたわ」
「その反応って事は違うのか」
「断言できる、世界樹の種などでは無い。そもあれの管理はドリアードの……」
途中で何やら考え出し始め、最後まで言葉を紡がなかったセレナは――時間が経つにつれて徐々に表情が険しくなっていく。
「いや、待つのじゃ。――しかし……」
出来ればその思考を俺にも伝えて貰えるとありがたいんだけどな。
まぁ精霊達目線で話されても理解出来ない可能性はあるんだが。
「ケイスよ。……まずいことになっておるのかも知れん」
「いきなりどうした?」
「メルヴィよ、先の資料の中に精霊の核に関する記載はあったか?」
「魔力を失った核に関する実験記録と、その核を媒体にした装備の作成に関する記載なら、あった」
記憶した資料の内容を、これまでの口調とは違いスラスラと答えていくメルヴィ。
「核を媒体に装備? そのまま再度精霊が核に魔力を集めたとすれば?」
「魔装備の完成……って事になるのか?」
話の先が分からず、とりあえずの発想で口に出してはみたものの、魔装備って身近過ぎて……。
「そううまくいくかは知らんが、少なくとも他の装備とは一線を画す程度にはなるじゃろうな」
「それが資料に載ってたってんなら、人間を精霊に近づけるのでは無く、精霊の力を宿した装備を作ることにしたって事か?」
「一応言っておくけど、これ、ハルデ国が行ってた記録。その記録、の、入手経路も、載ってたけど……聞く?」
その身近な魔装備の内の一つが元凶の目星が正しいかったことを裏付け、どんな手段でその情報を手に入れたかも必要か? と尋ねてくるが。
「どうせ怖くなって逃げた研究員だかを捕まえて吐かせたんだろ。想像できるからいい」
と言うとふくれっ面になり不満を露わにしてきた。
あ、言いたかったのね。すまん、意思を組め汲めなかった。
「精霊の力を宿した装備。そんな物をこしらえて何をするか……等、愚問じゃな」
「十中八九戦争でしょうね。先日の霧の件と繋がっちまいましたね」
「混乱に乗じて攻め込もうとでもしてたんだろうな。ところでセレナ」
「なんじゃ?」
さっきからモヤついている一つの事柄。
なにやらセレナは一人で納得してしまったっぽいがどうしても確認しておく必要があると思うんだ。
「この核って、どの精霊のなんだ?」
そう、いったいどの精霊が現在休眠中なのか、という疑問。
「あぁ、その核はじゃな。ドリアードの――」
間違いない、と断言するような口調は段々と尻すぼみになり……。
「では、妾が会ったドリアードは何者なのじゃ!?」
突然、そう叫んだ。