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情報が増えましたとさ

 案の定二度目の高速空中飛行を終え、出てきたばかりの町への門をくぐると、視界の端にわざとらしく映る一人の男。

 ――あぁ、そうかい。全部聞いてましたって感じだな……。


「セレナ、付いてこい。情報の目処が立った」

「? 早すぎではないか? まぁ、ケイスが言うのならば黙って付いていくが……」


 セレナに一言入れ、俺の後を付いてくるのを確認して、歩く速度を速める。

 目指すのは、いけ好かない嘘くさい笑みを常に浮かべている男が消えた路地裏で。

 まるで人払いでも行われたかのように喧噪とはほど遠い静寂に満ちた場所。

 自分らだけの足音が響く中、足音も立てずに俺の前に姿を現した男は――。


「お久しぶり……と言うほど時間は経っていませんね」


 特別報酬の席で俺と話したあの男だった。


「個人的にはあまり顔を合わせたいと思えないんだけどな……」

「こちらとしても執拗に接触はしまいとしていたのですが――事情が事情でしょう?」


 全てをどこかで見ていたとでも言いたげに、「事情」という一括りで表すように、今現在の俺たちの状況を把握しているらしいその男は、今のところは敵では無さそうだった。


「どこまで知ってるか、聞かせて貰えるんだよな?」


 わざわざ人気の居ないところまで着いてこさせたのだ。ある程度の俺らに対する入れ知恵があるのだろう。


(または、口封じって可能性もありますがねぇ)

(相手がどんな実力者であってもセレナ様には敵わないと思いますが?)

(倒す、必要、無い。捕まえて、監禁、で、無力)


 脳内で怖い意見が出始めるが、今は無視。

 相手に警戒しながら、男の口が開かれるのを待つ。


「そう身構えないでください。私が来たのは一つの情報をお渡しする為ですから」


 拍子抜けするほどに軽い口調で、こちらに何かを渡してきて。

 どうもそれは記録書のようだった。


「ここ百年前後のこの国の記録書です。もちろん、いつ頃に周りのどの国が、どんな事をしてきたか、というのが書かれています」


 それはまるで、エポーヌ国が今回の騒動では無関係であり無罪である。と主張するもので。

 過去にも同じ事が起こったから、当時原因を作った国が今回の騒動の犯人であるとする証拠であり、それが本当であるならば一気に騒動も解決に向かうであろう。

 ……そう――()()()()()()()ば。


「参考程度に読ませて貰うわ。……んで? この記録書が正確で正しいという証拠はあるか?」


 もし仮に、今回の騒動がエポーヌ国主導のものだったとして、どんなアホなら自分から自分が犯人であるという証拠を他人に渡すだろうか。

 今のところ疑ってるのはエポーヌ国とハルデ国であり、そのどちらをも犯人の可能性有りとして進めている以上、一方的な証拠では残念ながら証拠にはならない。

 その事もこの男は重々承知だろうが……。


「証拠も何も、記録書の最後をご覧頂ければ、この記録書が()()()()()()()()()()()()()()であると言いうことがおわかり頂けるかと」


 言われたとおりに最後のページを見ると、エポーヌ国の国王印の他に、アシファ国、サシマ国、アイナエコ連邦の刻印がそれぞれ押印されており、それらの代表としてアイナエコ連邦の国王のサインが記されていた。


「確認した。……これ、少し借りててもいいのか?」

「構いませんよ。原本は王城に保管されていますし、元よりお渡しするつもりでしたので」


 しっかり複写した本なのね。んでもって複写にも他の三国の許可が必要……ある程度は信用出来るか。


「注意としては紛失するくらいなら焼却して頂いた方がいいのと、他の方にはその記録書は見せないで頂きたい……といった所でしょうか」

「見せるわけ無いだろ……何言われるか分かんねぇよ」


 国から直々に指示をされた冒険者。

 そんな存在はもはや冒険者では無く騎士だ。

 それを示してしまう記録書を他の冒険者に見せるはずが無いし、もし見せてしまったら俺は周りからどんな事を言われるか、されるか分かったもんじゃあ無い。

 嫌がらせ、決闘、はたまた国への口利き。

 思いつくだけでも面倒なことこの上ない物ばかりである。


「ではケイス様。今回の騒動もどうぞよろしくお願いします」


 心にも無いであろうにわざわざ俺に頭を下げて、音も無く(きびす)を返し、ゆっくり暗闇に消えかけた男は――。


「……あ、そうそう。言い忘れておりました。ユグドラシル様にどうぞよろしくお願いします。くれぐれも無礼が無いように」


 わざとらしく、思い出したように振り返って、恐らく今後のことを見越した発言をして今度こそ路地裏へと姿を消した。


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