首を突っ込みましたとさ
冒険者をやっていた癖で結局今日もギルドに足を運んでは見たが――当然相手にされず、どうしたもんか、と今後どうするかを真剣に考える必要があるようだ。
「旦那、宿屋も今日までしか泊まれませんぜ? 流石にそろそろ金を稼がねぇと……」
「分かってる。が、だ。今まで冒険者としてしか生きてきてないからなぁ。ギルドで依頼を受けられないとなるとどうすりゃいいか、皆目見当がつかん」
「この町に仕事が無けりゃ、他の場所に行けばいい。道中で魔物でも狩って素材なり集めりゃ金には困らねぇんじゃねーのか? 相棒」
「同じ考えの冒険者なり立てがどんだけいると思ってる。今更俺が、ましてや冒険者じゃないやつがやってたら非難轟々だろうよ」
そんな事をしたらギルドに報告されて冒険者の邪魔をする者としてお尋ね者にすらなりかねない。
そんなもん、俺はごめんだね。
「ではどうするおつもりです? ご主人様の財布も割と寒いはずですし、なんとか食い扶持くらいは見つけませんと――」
「待て、何でシズが俺の財布の中身把握してんだ?」
「みんな、把握してると、思う」
「何故に!?」
「旦那、あっしらの退屈具合を舐めて貰っちゃあ困りますぜ? 暇つぶしの一環として計算ってのは中々に丁度いいもんでさぁ」
暇潰しに俺の家計簿みたいなのを脳内でやってるって事か……中々に便利なのでは?
「トゥオン、俺の出費で一番かさんでるのは何だ?」
「お酒と、タバコ」
「メルヴィの言う通りだぜぇ? 嗜好品に一番金使ってるたぁストレス凄いのかい? 相棒。HAHAHA」
ほっとけ。いいだろ、別に。
「旦那、下らない事話してないで本当に今後を考えないと」
「むぅ。どうすっかなぁ」
トゥオンに現実に引き戻されて、腕を組んで天井を見上げるがいいアイデアなど一向に浮かんで来ない。
そんな時である。ギルドの依頼受付から喧騒が聞こえてきたのは。
「――一体いつまで待てばいいんですか!? こうしている間にも被害は増えていっているというのに!?」
思わず声のする方を見れば、ギルドの受付嬢に何やら若い女性が怒鳴っている所だった。
「落ち着いてください。冒険者も数は限られていますし、依頼を出したからと言って必ず受けて貰えるわけでは――」
「そう言われ続けてもう3か月も経ってるんですよ!? そろそろ対応していただかなければ私どもの村はやっていけなくなってしまいます!!」
「と、言われましても……」
「何の話だ? あれ」
「恐らく、ギルドへ出した依頼を、誰も受けない、って事だと思う」
「んなら出した依頼が面倒くさいか、報酬が少ないとか条件が悪いんだろ。気にする程でも無いか」
「でも相棒? 他の冒険者がやらねぇって依頼なら相棒が勝手にやっちまっても問題ねぇんじゃねーのか? あの子もいつ受けて貰えるか分からねーより、とりあえずすぐにでも問題解決して貰いたいみたいだしな」
「というか旦那。割となりふり構っている時間は無いとあっしも思いますぜ? なんで、あの依頼を旦那がやるって事に賛成」
「食い扶持は稼げますし。それに、こうして実績を作っておけば今後滞っている依頼なんかを紹介してくれるようになるかもしれませんよ?」
シズに言われて思考する。確かにギルドで全くこなされない依頼が問題になっていると聞いた事がある。
それらを半ば無理矢理に押し付けてはいるようだが……。
ある程度の思考を巡らせ、結局のところ食い扶持を稼ぐためにやらなければならない。と結論付けて俺は歩き出す。――もちろん、受付嬢に怒鳴っていた若い女性の元へ、だ。
「ちょっといいかい?」
「……誰ですかあなたは?」
「パーティをつい先日追放された元冒険者ってところさ。あんたの話が聞こえて来てな」
怪訝な顔を向けられるが、引くわけにもいかないし。
「3か月も依頼を受けて貰えないんじゃあ、依頼の内容か条件が悪い。んで気になって見させて貰おうと思ってな」
「――っ!? 余計なお世話です!!」
「嬢ちゃん、依頼の内容を教えてくれるかい?」
何だったら俺が片付けるから。と小声で受付嬢に言えば、同じく怪訝な顔をしていた受付嬢が依頼の内容を話してくれた。
「村の作物や家畜が消える事が頻発していて、罠を仕掛けた所ゴブリンの仕業である事が分かったそうです。依頼内容はゴブリンの巣の発見、並びに根絶です」
報酬はこれくらい。と指を曲げて示したその金額は良くも悪くも普通と思える報酬量で。
そら誰も受けねぇわな。と俺は内心納得した。
ゴブリンの根絶はまだ分かる。が、巣を探すとなると一気に面倒になる。
この村は山間に存在する緑豊かな村であるのだが、山間というのはゴブリンにとっては恰好の住処である。
山の中腹にカモフラージュを施し、遠くからは発見出来ない様にした洞穴は、見つけるだけでも一苦労。
しかも巣の数も不明で山の中をしらみつぶしに探す以外の方法はない。
んでもって報酬は一般的な量。この依頼内容ならもう2倍くらいは欲しい所である。
ではあるのだが……。
「この依頼、俺が受けてもいいか?」
との俺の言葉に目を丸くする受付嬢。そして驚いた顔から一瞬でホッとした顔になった依頼主は、
「本当ですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!」
と何度もお辞儀をする。
「本当によろしいのですか? その、……あなたに受けていただくには一度ギルドへの依頼を引き下げて貰わねばなりません。そうなった場合、依頼内容をギルドで保障出来なくなりますが――」
「どうせギルドからは斡旋してくれねぇんだろ? ぼっちの元冒険者にはさ。しょうがねぇよ」
若干の自虐含みの毒を吐いて、俺は依頼主の方を向き、
「色々と話を聞きたいし、話をしたい。とりあえずは村まで案内願えるかな?」
見つけた仕事はどうにも面倒にしか成り得そうになかったが、これやるしかねぇっぽいし。
と俺は覚悟を決めて、依頼主の後に続くのであった。