ワンチャン死んでましたとさ
「可能性っつったって……こうしてアルセードはセレナが言ってたように封印されかけてるようには見えないし。後はドリアード側の不備か大本のシステム? の不備くらいじゃねぇか?」
「僕らの大本が何か分かってて言ってる? 大精霊のユグドラシル様なんだけど?」
「可能性としては無きにしもあらず、と言った所かの」
さらっとアルセードの口から出てきた大精霊ユグドラシルなるその名は、この世界の地に関わる伝承でのみ確認できる存在とされている大精霊という括りにある。
伝承によれば地中へと向かう形で成長し、地表に根を張り巡らせ、それを基板に大地を作り上げたとされる「世界樹」そのもの。
有事の際には種を生み出し、もう一つ新しい大地を生み出すのだとか。
――以上、メルヴィからの知識より。
「僕としてはドリアードが怪しいと思うんですけどね。……聖白龍様に嘘をつくとは到底思えませんが」
「そこなんじゃよ。あやつが妾に嘘をつく理由がまるで思いつかんのじゃ。しかしドリアードが正常であるならばユグドラシルの異常という事に……」
人外が腕を組んで考えているなか、俺は先ほどから引っかかりっぱなしの事を尋ねてみた。
「思うんだけどさ。異常な状態って具体的にどんな感じなんだ?」
「直近というか、僕が覚えている限りだと魔王に利用されかけたりとか?」
「なっ!!?」
「人間に封印されかけたりもあったじゃろ?」
「ありましたね。後は同じ人間にされた事でも力を取り込まれそうになったとか」
懐かしむように、恐らく当時の事を思い出してるんだろうがちょいと待て。
「割と異常ばっかじゃねーか?」
「? 当然じゃろ? 力あるものは常に力なきものに狙われ続けるでの」
「言っとくけど、ほとんどの異常は人間のせいだからね? やれ戦力として、だの。やれ不老不死を求めて、だの」
ジト目でアルセードに見られるが、俺はその異常には関わって無いし、どうにも出来ないんだけどな。
「もう一人の豊穣もここに呼ぶか。ドリアードの異常の可能性もある故に、あやつだけは後で聞く事にしての」
「お呼びしましょうか? ナイアードならすぐ呼べると思いますし」
「うむ。軽い状況説明をして連れてきてくれるかの」
お任せください。と風に残して姿を消したアルセード。それを気にもせずにセレナはその場に座り込んで……。
「なぁケイスよ。やっかいな事になったの」
俺を見上げて人ごとのように言いやがった。
「こちとら精霊すらまともに見た事無かったってのに、下手すりゃユグドラシルの御身まで見る事が出来そうで正直驚いてるよ」
「まぁ、人間は例え願ったとしても声すら聞けぬ存在じゃからな。……ところでケイスよ」
「なんだ?」
「貴様はユグドラシルには謙譲語を使うのに、妾に対して使わぬのはなぜじゃ?」
何故だかものすごい地雷を踏んだ気がする……。
「――セレナって精霊なのか?」
「否。精霊では無いが眷属である。妾の母上もの」
「誰の眷属は聞いてもいいか?」
「二天精霊の右席、光のヘイムダルの眷属じゃが?」
聞いた事が無い単語が出てきたな……。二天精霊ってなんだ?
(精霊の、ランク。唯一精霊、二天精霊、四大精霊、がある。唯一は全属性を、二天は光と闇を、四大は地水火風それぞれを操る)
(なるほどな……てことはセレナって滅茶苦茶偉い?)
(偉いかどうかで精霊は考えないとは思いますが、格はかなり高いかと)
(ぶっちゃけドリアードやアルセードの反応見るに明らかにあいつらよりは格上だろうな。二天の眷属が四大精霊と同格くらいじゃねぇの? そんな奴によく相棒はため口きけたな。HAHAHA)
心の中の問いかけにメルヴィが解答をくれて、その後に続くシエラの言葉に俺は血の気が引いた。
いきなり殺されたりしないよな……。
「てことは……俺敬語使った方がいいのか?」
何とか平静を装って口から絞り出したその言葉を聞いたセレナの反応は――。
「別に今更であるし構わんがの。そもそも母上に認められておるのじゃ。その子である妾が認めぬ道理も無かろう」
ため息をつき、気にするなというジェスチャーを交えてそんな事を言ってくるもので。
セレナが言い終わると同時に俺に体温が戻って来た錯覚に陥る。
割と死を覚悟したぞ。
「妾には良いが、今後出会う精霊にはなるべく口を慎む事じゃな。死にたくは無かろう?」
「あ、やっぱり殺されても文句言えない事だったのね」
「身の程を弁えぬ人間風情に……と考える奴らも一定数おるのでな。っと戻って来たようじゃぞ」
今度から見知らぬ相手には敬語使う努力をしよう……。
(次忘れてるに一票いいっすか?)
(俺も一票。覚えてるはずがねぇ。HAHAHA)
(客観的に、自己分析、しよ? にい様、が、敬語? 想像、無理)
(申し訳ありませんご主人様。私も他の方同様実行しないと思ってしまいました!)
(? パパはパパだよー?)
脳内に届く笑い声と辛辣な言葉を俺は無視をして、セレナの目線の先を同じように見つめるのだった。