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二度と御免ですとさ

 拝啓、母上様。

 冒険者になると言って家を飛び出し、どれくらいの月日が流れたでしょうか。

 思えば、苦労ばかりをかけていた事を忘れ、わがままばかり言っていたと、思い出します。

 龍に乗って空を飛んでみたい。だとか、精霊様に会いたい。だとか。

 見えるもの全てに興味を抱き、自分も体験しなければ気が済まなかった小さい時。

 こんな時だからこそ、つい先日のように思い出します。

 それでは、お体にお気を付けて――。


「着いたのじゃ」


 ようやく終わった恐怖の高速空中移動(生身)は、俺に走馬灯を見せるには十分で。

 セレナが地に降り立つ頃には俺は顔面蒼白で、全身の力が抜けていたとかなんとか。

 一応シズが風の魔法である程度の緩和はしてくれていたらしく、薄い空気でも難なく呼吸は出来ていたようだし、気温の変化で寒さを感じることも無ければ、俺の装備には霜一つ降りていない。

 そんな説明が必要なほどに、高度を高速で移動していたという事実を見れば、失神寸前になることも仕方が無いと言える。


「ちょと……タンマ。呼吸、整えさせてくれ……」

「一応お主の事を思って速度は抑えたんじゃが……もっと落とさねば駄目か?」

「あっしらも死を覚悟しましたぜ? まぁ、装備に死ぬなんて概念があるかは分かんないっすけど」

「戦慄させる側が、戦慄させられたとか笑えねぇなぁおい! HAHAHA」

「私は平気でしたけど、ご主人様は大丈夫じゃ無さそうですね……」

「楽しかった~。もう一回やって~」

「ツキ、冗談。もう、私、やだ。にい様、歩いて、帰ろ?」


 降り立った草原にあった石を背もたれに座りながら休息をセレナに申し入れると、この程度で……、と首を捻られたが、人間ってお前が思ってるほど頑丈じゃねぇからな?

 若いやつならある程度乱暴でもいいが、俺はもう無理。

 装備達ですら、ツキとシズ以外はグロッキー気味なのが声で分かるし、メルヴィに関しては涙声だ。

 ツキだけは楽しい乗り物のような感覚で楽しんだらしく、キャッキャとはしゃいでいるが、悪いが俺は二度と御免だ。


 ほんの僅かの小休止を終え、ゆっくりと立ち上がり、


「んで? さっきのアルセードって精霊がこの辺りにいるのか?」


 聞いた俺にセレナが返したのは、


「は? 何故妾が奴の所に出向かなければならぬのじゃ? 来させるに決まっておるじゃろ」


 という言葉で。

 その言葉を発した直後に幼女の姿から本来の神々しい純白の龍の姿へと戻る。

 太陽以外に増えた光源に、思わず手で目の部分を陰にして、目を細めてこれから起こることを注視する。

 けれどもどれだけ待てど暮らせど、そこからセレナが何かをするような素振りは無く、ただそこに直立で不動のままでいるのみで。

 何をしているのかを尋ねるために声をかけようと口を開きかけた時である。

 俺たちが居る草原全ての草が、()()()

 風が一切無い状況で、草が揺れ、草原全体に何かが潜んでいるような気配を含ませたのだ。

 思わず身構えるが、そんな俺は眼中に無いのか、草原に潜むそいつは真っ直ぐにセレナの前へと集まってきて――。

 ドリアードの時と同じように、集まって人型を形成していく。

 突如として吹いた突風に巻き上げられる形で待った草達は、見る見るうちに少年の姿へと変貌していく。

 そうしてセレナの前へと現れたのは、先の通り一人の少年だった。

 少し薄汚れた大きめのシャツに、これまた汚れた皮のズボン。

 大きなハンチング帽を斜めに被り、片目を隠した――そんな見た目。

 町中に居ても違和感を感じないであろうその姿は、先ほどまで見ていたドリアードのように神秘的な感じは一切無く、どちらかと言えば親近感さえ感じられた。


「お久しぶりです、聖白龍様。僕へ何かご用ですか?」


 片手に持っていたリンゴを口へと運び、(かじ)りながらそう尋ねるアルセードは、およそセレナの事を敬っているようには見えない。

 が、そんなことは気にしていないセレナは、単刀直入にここに来た理由を話す。


「先ほどドリアードの元へと行ってきた。が、酷く衰弱しておってな。理由を聞いてみれば、貴様が豊穣の循環への力の供給を怠った事による負担の増加が理由と言っておったのじゃ」


 その言葉を聞いて、果たしてどのような反応をするか、とアルセードを観察するが、返って来たのは意外な答え。


「冗談でしょう? 僕は恒久的に循環へと力を供給する術式を保存していますよ? その術式は今も健在ですし、供給が切れる筈は有りませんよ」


 術式を用いた循環への供給は今現在も滞りなく発動していて、供給が切れるというのは有り得ない。

 それがアルセードの言い分だった。

 帽子の後ろから出ている緑色の髪を風に揺らし、リンゴを囓り続けるこの精霊は果たして、信用出来るのだろうか。

 正直ドリアードの方が信用出来そうな気がするんだが。


「ふむ、主ら精霊が妾に嘘を付くとも思えんな。――ケイス! この場合にどのような可能性があるか考えるのじゃ!」

「は? 俺が?」

「うむ。主ならば何とかなろう。我が母上を救った機転、期待しておるぞ」

「そういえばこいつの事を聞こうとしてたんだけど、なるほどね。大体察しましたよ」


 セレナに無茶振りをされ、困惑していると、アルセードが寄ってきて。


「おたくも大変だね。聖白龍様に振り回されて……」


 セレナには聞こえないように小さい声で、同情されてしまった。

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