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巻き込まれましたとさ

「端的に言えば、母上を助けた、と言うことらしい。鱗は報酬として貰った、と」

「白竜様が窮地(きゅうち)に陥っていたのですか!? 想像も出来ませんが……」


 掻い摘まんで説明したセレナへと、信じられない、と表情で語るドリアード。

 しかし、


「ですが、このような人間風情に白竜様が討伐されるなど絵空事ですし、不意を突いたりもあの方には出来ないでしょうし……」


 そう独り言を呟きながら考え込み始めたドリアードの事は気にせずに、セレナは進める。


「様々な要因からも、こやつが嘘を付いている、というのは考えにくい。故に、真実なのであろう」

「なるほど……セレナ様がそう仰るのでしたら……」


 考えるのを諦めたとも取れるような速度で意識を切り替え、ドリアードは俺の方へと向き直り、


「先ほどの無礼、謝罪いたします。申し訳ありませんでした」


 ゆっくりと頭を下げ、詫びた。


「いや、精霊様に頭下げられるとか恐れ多すぎるからやめてくれ! 気にしてねぇから!」


 他人が信仰し、祈り、力を借りる存在に頭を下げさせたと知られれば、どんな恨みを買うか分かったもんじゃねぇ。

 全力で謝罪してくるドリアードを止める。


「後はこやつの装備しとる者達じゃな。……愉快な装備達、とでも言っておくかの」

「「雑か!!」」


 ついでのような扱いで一緒くたにされて紹介されたトゥオン達は、揃ってハモってツッコミを入れる。


「何というか……その、個性的な方なんですね」


 相手の事が一切理解出来ないときに出る感想を頂戴したところで、セレナはようやく話題を本題へと戻す。


「それで? お主は一体どうしてそのようにやつれてしまったのじゃ?」

「……実はですね」


 ドリアードの口から説明されたのは、一種の循環の決壊だった。

 豊穣を司ると言っても、ドリアード単体の力ではない。

 水、土、草、三種類の精霊の力を合わせて豊穣とし、負担を分散することで維持しているらしい。

 ところが最近、共に循環を担ってきた草の精霊の力が無くなり、循環を維持するために必要な負担が増えてしまったとの事。

 この森に居たのも草の精霊を探すためだったらしいのだが、このドリアードも力を少し使いすぎてしまい、休息の為だったらしい。


「ふむ、草の精霊――アルセードじゃったか?」

「はい、もともと自由に動き回る精霊ではありましたが、このように連絡も寄越さずに力を絶つというのは考えにくいのです」

「とすれば何者かに捉えられたか――」

「あるいは……倒されたか」


 一応話を聞きながら頷いてたりするけど、さっぱり分からん。

 魔物の上位種やこういった精霊だったりは感覚で話してたりするからな。

 精霊の感覚で自由に動くってどのくらいの範囲なんだ?

 どのように連絡してるんだよ。

 力を絶つとかいうのもその力を認識出来てるからなんだろうけどさ、感知できない身からすりゃあ訳分からん。


「思い当たる節は何ぞあるか?」

「いえ……。あ、そういえばですが、彼を感知しようと探しても、見つかるときと見つからない時がありました。妨害を受けている、とは思えませんので……」

「封印されかけておる可能性有りじゃな」


 へー、精霊って封印出来るのか。

 初めて知ったわ。


「ふむ、なるほど。分かった、妾達に任せるがよい!」


 胸を張り、その胸を叩いて鼻を鳴らすセレナに対して、一瞬だけ手を貸すとか優しいな、何て思ったが……。

 今当たり前のように妾()って言いやがったよな?


「もしかしてセレナ、俺も同伴すんの?」

「は? 何を言っておる。決まっておるじゃろ?」


 やっぱり、俺も強制でそのアルセードって精霊を探さなきゃいけないのな。

 けど探すってったってどこ探すんだよ……。

 その辺の草むらに隠れてるわけでもあるまいし。


「アルセードの魔力は若草色です。探す目印にしてください」

「うむ、すぐ戻る」


 魔力に色とか付いてんのか? 初耳な情報ばっかだな。

 何て聞きながら新たな知識に感心していると、襟首をムンズと捕まれて。


「では、行ってくるのじゃ!」


 元気よく手を上げてドリアードに挨拶をしたセレナに捕まれて、俺は絶叫しながら空の旅を楽しむ嵌めになった。



 勢いよく大地を蹴り、目の前から飛び去った聖白龍の姿が消えたのを確認し、ドリアードは目を細める。

 自身を形成していた(つる)を、根を、枝を解き、静かに地へと還る。

 ゆっくりと、ゆりかごの中へと入るように、茶色に輝く魔力の塊が森の土へと入っていくと――。

 その場所を中心に、一気に森の木々が(しお)れ、葉を落とし、枯れ果ててしまう。

 不毛の大地――そう見紛うほどに凄惨になってしまった森の土地を、一人の影がゆっくりと踏みしめた。

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