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とんでもない存在が出てきましたとさ

セレナを従えて……なんて言ったら怒られそうだが、場所を知らないとなれば黙ってついてきて貰うしか無い。

 村へと続く道は、馬車が通れる道程度には整備されてるため、歩いて行くのもそれほど苦にはならない。

 少なくとも、獣道よりかは断然いい。


「ん。ケイスよ」

「なんだ?」


 町を出て歩き出して少ししたところで、ふと何かに気がついたようにセレナが呟く。


「一つ質問じゃが、この道を真っ直ぐ行くのじゃな?」

「真っ直ぐかはさておいて、まぁ道なりに進むぞ」


 やや遠くを見ながら言ったセレナに、普通に返答すると……。


「少し寄り道をしてもよいかの? 馴染みの顔の存在が確認出来てな」

「まぁ、いいんじゃね? ちょっと遅れても構いやしないだろうし、夜営をする場所探す時間さえあれば今日はいいし」

「感謝するのじゃ! では、ついてくるのじゃ!」


 セレナにしては珍しく、俺に確認を取って来て、構わない旨を伝えると、嬉しそうに笑顔を見せて走り出した。


「ちょ、どこ行く気だ!?」

「秘密なのじゃ~♪」


 突き進む先は街道から外れ、一目散に森の中。

 町からすぐのところにある森なだけに、それほど深くは無いが、深くは無くても魔物や虫なんかはわんさといる。

 依頼を受けていたり、よっぽどの理由が無ければ入らない場所なだけに、若干の躊躇(ためら)いはあるものの、セレナの姿を見失うわけにはいかず、耳に届く羽音を無視しながらなんとかセレナを追っていく。

 てかあいつ滅茶苦茶速ぇ……。

 と思ったら浮いてやがるし――。


「シズ! 魔法頼む!」

「ご主人様! ここでは地属性の魔力が充満していて風魔法がうまく機能しませんよ!?」


 俺も空に浮こうとシズに振ったが、シズから帰ってきたのは悲しい返事。

 ほとんどの魔法には属性が付いていて、その属性の相関が複雑にある。

 今シズから言われたとおり、地属性が充満している場所では風魔法は打ち消し傾向になるし、逆に火属性が充満している場所だと風魔法を使った瞬間に引火、なんて事もある。

 ぶっちゃけ俺自身は魔法を使えないのであまり気にしたことは無いのだが、魔法使い達にとっては常に頭を悩ませる要因となっている。


「んじゃあ諦めて追う!」


 俺自身に言い聞かせるようにそう口にして、そこから無言でセレナを追うこと数分。

 ようやく止まったセレナは、大きな木の根元に腰掛ける。

 セレナの近くで足を止め、息をしっかり整えて、


「ここにセレナの顔馴染みが居るのか?」


 そう聞いた。


「うむ。微かにだが気配があったし、今呼びかけたからそろそろ出てくると思うのじゃが……」


 木を見上げ、木漏れ日に眼を細めながら言うセレナの言うとおり、急に足下から乾いたパキパキという音が聞こえてきて――。

 俺の目の前に地面から木の根っこが伸びてきて、それらが絡み合っていく。

 絡み合った木の根は段々と姿を形成し始め、あっという間にそれは女性の姿を模していた。


「久しいの、ドリアード。息災か?」


 口を開いたセレナから飛び出た名前は、およそ信じたくないもので。


「お久しゅうございます、聖白龍様。おかげ様で見ての通り、健在でございます」


 ドリアードと呼ばれた女性はセレナを二つ名で呼び、ゆっくりとお辞儀する。

 ドリアード、冒険者……というかほとんどの人間がその存在を知っているであろう地の精霊。

 曰く、森の管理者で統治者。

 地の加護をコントロールし、この世界の豊穣を司ると言われる、地の精霊の統括をする、そんな存在。

 当然のように地属性の魔法も、このドリアードに呼びかけ力を貸して貰うことで放つものが大半を占める。

 そんな存在が俺の目の前で、セレナへとお辞儀をしている。

 その事実に一瞬目眩がするが、そんなことを当の本人達は気になどしない。


「そうは思えんかったがの? 気配が妙に不安定で、先ほどまで希薄じゃったぞ?」

「……隠し事は、無用ですね」

「妾を誰と思っておる。汝の後援者じゃぞ? 何があった?」


 俺そっちのけで話を始めようとするが、ドリアードは俺のことが気になるようで、チラチラとこちらを見てはセレナへと視線を移し、この者は? と暗に聞いていた。


「ああ、こやつか。…………まぁ、悪いやつでは無い」

「雑か!?」


 思わず突っ込んでしまったが、確かにセレナとの成り行きなんて何て説明したらいいか悩むな……。


「えっとな、俺が困ってるときに助けてくれたんだよ。と言っても目的は俺を助けることじゃなくて、こいつの母さんのハウラの鱗だった訳だけど」

「白龍様の鱗っ!!?」


 驚愕の声を発したと思えば、俺の足下から木の根が伸び、背後からは(つる)が巻き付いてきて、一瞬で身動きが出来ないほどに拘束された。


「答えなさい! どのようにしてその鱗を!?」


 激高した表情で俺を怒鳴るドリアードだが、閉めすぎて一言すら発せられない事に気付いてくれ。

 ……トゥオン、頼む。


「まずは落ち着いてくだせぇ。そんなに締められたら、旦那は喋れませんぜ?」

「!? 誰の声!?」


 いきなりトゥオンが話した事に驚き、辺りを見渡すドリアード。

 その様子を見たセレナは、


「ドリアードよ、落ち着け。悪いやつでは無い。まずは話を聞くのじゃ」

「聖白龍様がそう仰るなら……」


 無造作にドサリと地に解放され、一瞬息が詰まって咳き込む俺を見下しながら、


「では、ご説明をお願いします」


 視線と同じ冷たい声色で、そう問いかけてきた。

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