出発しましたとさ
大通りに戻っては来たが……わざわざ出て来たギルドへ戻りたくは無いし、はてさてどうしたもんか、と腕を組む。
……そういや、セレナに何がしたいか聞いてなかったな。
聞いてみるか。
「セレナ、やりたい事とか、行きたい場所とか、あるか?」
「? ……母上」
耳飾りを撫でているセレナに聞いてみると、一瞬何を言っているか分からなかったようで疑問の表情を向けて来て、理解したのちに端的に行きたい場所を指定してきた。
……まぁ、そうだよなぁ。
「旦那、行ってやればいいじゃないですかい」
「特にやる事無いし、そうすっかー」
「ほ、本当か!!?」
トゥオンに言われ、口に出した通りにやる事も思いつかなかった為にセレナの希望を叶えようと言って見れば、隣でセレナが嬉しそうに飛び跳ねた。
「今行くのじゃすぐ行くのじゃグズグズするななのじゃさっさとするのじゃどこなのじゃ早く行くのじゃ」
ひとしきり飛び跳ねた後、俺の背中をグイグイ押しながら早口で捲し立てるセレナに一旦落ち着けと言葉を投げて、買い出しが必要であることを伝える。
「買い出し? どうしても必要なのか? というか先ほど財布をひっくり返しておったが金はあるのかや?」
ひとまず落ち着いたセレナは伝えられた言葉を聞き返し、とにかく早くハウラの元へと行きたいらしく、お金の事を持ち出して買い出しを避けようとする。
「俺、財布四つあるから。さっきひっくり返したのはその内の一つ。残りの三つにはパンパンに入ってるぞ?」
が、金が無ければそもそも買い出しなんて言い出さない。
俺、本来ツケ嫌いだし。
「それだけあればこの耳飾りは耳を揃えて払えたんではないか? 何故あのような事をしたのじゃ?」
「本来俺等冒険者が信じるのは二つ。パーティの仲間と、金。そういうこった」
「まるで説明になって無いんで補足しますぜ? 冒険者狙ったボッタクリって結構あるんでさぁ」
「決まって、文句は、有り金、全部、置いてけ」
行きつけの店へと足を運びながら財布四つ持ちという面倒な事をしている理由をセレナへとレクチャーしていく。
「だったら最初から有り金と思われる財布晒して、目の前でひっくり返すのさ。そうすりゃ、全額置いていったって勘違いされるからな。HAHAHA」
「四つというのは流石に用心ですけれど、それぞれどの財布から何を買う為に支払うか。を決めているので使い過ぎも滅多にありません」
「ほーん、考えておるんじゃな」
「ぜーんぶツキ達の案でー、パパはツキ達に言われてる事やってるだけだけどねー」
説明を受けて人間も考えるのー、と舌を巻いていたセレナは、ツキの言葉を聞いてジト目に変わる。
「流石に妾でも、装備の尻に敷かれておる人間は聞いた事が無いのじゃ」
あー、うん。
スルーしてくれ。
「お、ケイスじゃないか。久しぶりだな。……子連れか?」
「余計なお世話だよガルフ。薬草五束と回復薬のセット。後携帯食料を結構くれ」
辿り着いた行きつけの店で、早速顔馴染みの店主にセレナの事を弄られるが、軽くあしらって欲しいアイテムを注文。
「いつものだな。携帯食料はどれくらいだよ」
「まー……一週間分くらい入れといてくれ」
それ以降特にセレナの事は聞いて来ないのだから有難い。
注文した物を全て一まとめにし、背負えるように紐付きの袋に入れて貰い、きっちり代金を支払って店を後にする。
最近少しだけ値上がりしたんだよなぁ、ここ。
まぁ、顔馴染みって事で利用してるし、そのおかげで変なアイテムはありがたい事に掴むことは無い。
信頼というなにより難しいものをお互いに持っている為だからこそ、というのもあるだろう。
「他に買うものはあるのじゃ?」
「あぁ、いや。これで全部だ」
「じゃあ!!」
行くから。
ハウラの所に向かうから、そんな眩しい笑顔を振りまくな。
馬車利用してもいいが、あまり金は使いたくないし……、歩くか。
「そういえばふと思ったのじゃが」
「? 何だ?」
「財布が利用目的ごとに分けられてると言っておったの」
「そうだが?」
「この耳飾りはどの利用目的の財布から出されたのじゃ?」
気が付かなくていい所に気が付くな。
気にしてくれなきゃ良かったのに。
「それはっすね、旦那の嗜好品目的の財布からっすよ」
声色だけでニヤニヤしている表情が思い浮かぶ言い方でトゥオンがそう言うと、ハッと俺の方を振り返るセレナ。
「お主、意外といい奴なのじゃな」
「出会ってそんなに経ってもねぇのに、俺の印象どうなってんだよ」
思わずジト目で返し、セレナを追い抜いて、向かうはハウラの庇護を受けているあの村。
馬車をケチった事と、出立したのが夕方に近いという事もあり、夜営もしなくてはならないが、それも含めてとりあえず、冒険という事で。