装備を一つ買いましたとさ
報酬の話を終え、ひとまず宿屋に戻り、おばちゃんへ未納分の宿泊費にプラスした金額を渡した所で、これからどうするかについて話し合いをする。
宿屋の一階部分、要するに酒場となっている席の一つに腰を掛け、あーでもない、こーでもないとセレナ達と相談していたわけだが……。
セレナを見て、俺を見たやつらは犯罪か? だとか、誰の子だよ。なんて茶化してくるのが正直かなり鬱陶しい。
「ちょっと場所変えようぜ。思考がまとまらねぇ」
そう言って席を立ちセレナの反応を伺うと、何も言葉を発さずに、ただ小さく頷いて俺の傍へと歩いて来た。
そういやセレナって、基本念話で言葉発しねぇな。
あの騒動中は普通に喋ってたはずだが……報酬の話してる時も何も喋らなかったし。
多少の疑問は抱いたが、とりあえず俺の最優先事項は茶化される恐れの無い場所。
具体的に言うと人目につかないような場所を目指して歩いていくのだが、これどう考えても犯罪って言われりゃ反論出来ないよな……。
「旦那、どこまで行くんですかい?」
「ん、ありゃ? ここどこの辺りだ?」
トゥオンに声を掛けられ辺りを見渡すと、あまり見覚えのない裏路地のようで、ただ無心で人目につかない場所を目指した結果、ここに出て来てしまったらしい。
「路地裏。にい様、そんな、趣味、が?」
「そんな趣味? パパー? どんな趣味ー?」
「是非とも聞きたいねぇ。相棒はどんな趣味だってんだ? HAHAHA」
無視だ無視。
さて、どう行けば表通りに戻れるか……。
そう考えて後方を振り返った時である。
「あれはっ!?」
今まで黙ってついて来ていたセレナが風を発生させるような高速で俺の隣をすり抜けていった。
そんなアホみたいに急いで何かあったのか?
見失う前に駆け出した俺に合わせてWWをシズが掛けてくれて、何とか追い付きはしないまでも引き離されずにセレナの後を追えた。
突如としてとある店の前に止まったセレナに追いついて、
「何かあったのか?」
そう聞いた俺に返って来たのは、震えるようなセレナの声。
「母上のじゃ……」
視線の先と指差した先にあるのは純白に煌々と光る耳飾りで。
形から恐らくは牙か爪の加工品と言った所だろう。
裏路地にある特有の胡散臭い物ばかりが置いてある骨董屋。
それが俺たちが立ち止まっている店の簡単な紹介。
欲しいのか? と聞こうかと思ったが、そんなの答えは決まっている。
「店主、居るか?」
店の奥に僅かに感じる人の気配に向けて声を掛け、待つ事しばらく。
「珍しいお客さんやのぅ」
ゆっくりと姿を現したお爺ちゃんは、杖を付きながら俺らのすぐ傍までやって来た。
「何か買うかえ? ヒッヒッヒ」
気味が悪い笑い声を発しながら尋ねて来る店主へと、
「そこに飾ってある耳飾りが欲しい。いくらだ?」
無駄な言葉を一切使わず単刀直入に返すと、しばしの沈黙。
「この耳飾りか……そうじゃのう」
わざと勿体付ける様に、何かを思い出すように腕を組んでしばしウロウロしてから、
「そうじゃのう、ディラ金貨二十枚と言った所かのう」
口にしたその金額はぼったくり以外の何物でも無かった。
ディラ金貨、まぁ金貨なだけあって価値が一番高い硬貨である。
金貨一枚で一般家庭の一週間分に値するとか、そんなくらいの価値ある硬貨。
それを二十枚、ぶっちゃけこの値段を聞いた時点で買う気など彼方へと吹き飛んだのだが、俺の横には片時も耳飾りから目を離さないセレナが居るわけで。
誰にも気づかれないように心の中でため息をついて、財布を取り出して中身を確認する。
「おぉ、買う気かぇ?」
まさか本当に買われると思ってなかったのか両目を見開いて驚く店主の目の前で。
「これだけしかねぇわ」
財布をひっくり返して全財産を晒す。
当然、値段であるディラ金貨二十枚なんて額には及ばないが、それでも中々持っている部類の所持金ではある筈だ。
「だからさ、ちょっとまけてくれよ」
頭を下げ、手を合わせてお願いする。
これで値段を下げてくれれば……。
「まける……か。無理じゃなぁ」
チッ、無理か。
「まかりはせんが、ツケにならしといてやるぞ」
「マジで!?」
「どうせお前さん冒険者じゃろ? なら、一攫千金もあり得そうじゃ」
一人で頷き納得してくれているらしく、ホッと胸を撫で下ろす。
「んじゃ、足りない差額分の……金貨八枚分か、ツケって事でいいんだな?」
「おー、儂も商人じゃ。商売に二言は無い」
散らばった金額を集め、足りない分を計算して店主に念の為確認。
「さて、とりあえずお前さんと、連れの嬢ちゃんの名前を聞いとくかの。逃げられても敵わんし」
「俺はケイス。エシット・ケイス。んでこっちが」
「セレナじゃ」
台帳のようなものに俺らの名前をメモしてから、
「ほら、装備者は嬢ちゃんでいいんかの?」
飾ってあった耳飾りをセレナへと手渡して。
「ツケが効くのは三十日じゃ。少しでもいいから返せばまたそこから三十日でええぞい」
釘を刺すようにツケの確認をして来た店主に、
「分かってるよ。逃げねぇし遅れずに払うさ」
そう返して、俺はセレナを連れて表通りへと戻るのだった。




