特別報酬ですとさ
「まず、一応の確認になりますが、今回の報酬で欲しいもの、という希望はございますか?」
報酬の話をする、と言って開口一番が俺の希望を聞く旨の質問とは、それでいいのか? という疑問が浮かぶが……。
どうせどう答えたって向こうがくれるモノなんてほぼほぼ決まってると思うけどな。
「まぁ、金だわな。冒険者パーティ複数が断念した依頼だったんだ。相応の色を付けてもらいたい」
「それはもちろんですよ。私が聞いたのは金銭以外の事でございます」
どんな反応をするかと試しに口に出した要求を、当たり前だと返されて。
それに付随して報酬を――という事らしく、その言葉を聞いて、俺は思わず考え込む。
というのも、金以外に他に欲しいものなど思い浮かばなかったからだ。
「金以外……わりぃな、ちょっと思い浮かばねぇや」
「では、こちらからいくつかの提案をさせていただきまして、その選択肢から選んでいただくというのは?」
思い浮かばなかった事を素直に打ち明け、相手の出方を伺うと、思った通りにいくつかの選択肢を提示してきてくれた。
(トゥオン、思考を繋げてくれ。選択肢に関してみんなと相談したい)
(了解っす、旦那。――セレナ様とはどうしますかい?)
(あー……可能なら繋げてくれ。あいつの意見も聞いてやらねぇと、後が怖そうだ)
選択肢を提示される前に、脳内会議の準備を整え、今後で最も有意義に使えそうな選択肢を決めるための体制で挑む事にする。
「えぇと、まずは一つ目。望む魔物の素材。大雑把にこう言っていますけど、魔物の種類や部位によっては無理なものもありますが、ある程度の希望に添える筈です」
(却下だよな)
(不要ですねぇ)
(一体どこに魔物の素材を使うってんだこいつは?)
(シエラ、この人、私達、の事、知らない。無理も、無い)
(? こいつらは何を言っておるのじゃ?)
満場一致で不要とした俺らに、唯一置いてけぼりを食らっているセレナへ。
(んとな、魔物の素材ってのは武器や防具に状態異常の属性や、魔法の属性を付与する為にもっぱら使うんだがな)
(ふむふむ)
(呪いの装備であるこいつらには一切合切付与出来ねぇのよ。もうすでに限界まで呪いって形で付与されてるせいでな)
(なるほどの。つまり素材何ぞ貰っても、使い道が無い。というわけじゃな?)
(まるっきり無駄って訳じゃねぇが、ま、用途なんて他の冒険者との交換くらいだわな)
簡単に説明すると聡い子だったようで、すぐに納得してくれた。
「次に二つ目。我がエポーヌ国の王城警備への斡旋。普段ですと腕を鳴らし、風の噂になる程の冒険者にしか案内を出さないのですが、今回は特別という事で」
(パス)
(ご主人様? どうしてですか? 誰もが憧れる王城警備隊ですよ!?)
(あー、シズ。落ち着いて聞くんすよ? こんな形の斡旋なんて、基本下っ端配属っすぜ? こんな旦那みたいなおっさんが下っ端に配属されて、しごかれて、続くと思いますかい?)
(パパだったら絶対逃げ出すー♪)
(ツキ、自覚してるしありありと想像出来るだろうが、それは本人が言わなきゃ悪口だからな!? あとトゥオン! おっさんて言うんじゃねぇ!)
(カカカ、愉快じゃのう)
何で脳内会議でディスられにゃならんのだ。
全く。
「最後に、これが一番魅力的かもしれませんね。報告によればソロで活動をなされているようで。ですので、ソロでも冒険者と認める特例の証の発行はいかがですか?」
「それで」
おっとうっかり、脳内会議を通さずに二つ返事で決めてしまった。
(けど、異論ねぇよな?)
(他がまともじゃねぇし、いいんじゃねぇの? HAHAHA)
(旦那が良けりゃあ別に。けど良かったっすねぇ、これでボッチでも冒険者ですぜ)
(パパー、おめでとー)
(ぼっち、冒険者。……ふふふ、ぼっち、ふふふ)
(メルヴィ、笑ってはご主人様に失礼ですよ?)
(ほんに愉快じゃの、お主ら)
あー、脳内のノイズがすげぇな。
何も聞こえねぇわ。
「そう言って頂けると思いまして、こちらにすでにご用意させていただいております」
そう言って袖の下から出して俺へと差し出したそれは……。
「冒険者カード? いや、違うな。色が違った筈だ」
懐を探り、未だに未練がましく持っている自分の冒険者カードと比べると。
従来の冒険者カードは赤茶色で、今回渡されたカードは綺麗な青緑色。
大きさも今回のカードの方が一回り程小さく、表面には俺の名前が刻印されていた。
裏返すとこの国の国旗にも記された三本足の烏、いわゆる八咫烏をあしらった判が押印されており、今までの冒険者カードよりも特別感を掻き立てていた。
「そちらで本当によろしければ、これからそのカードに関して少し説明させていただきますが?」
「おう、変更は無い。説明してくれ」
俺がカードから目を離すまで待ってそう尋ねて来た男に、即答で説明をしてもらうように促すと。
この“特別な冒険者カード”で出来る事についての説明が始まった。