傍観してましたとさ
「うおぉぃっ!? 魔法の威力にも限度ってもんがあるだろうが! 自然災害並みの魔法なんざ撃ってんじゃねぇよ!?」
あの異常状態の霧の街を出歩いてる奴なんざ居ないとは思うが……、誰も巻き込まれていませんようにっ!
「わ、私は普段通りに魔法を撃っただけですよ?」
「東方の上位魔法をぶっ放すのが普段通りとな? お主ら何者じゃ?」
シズを履いたまま首を傾げるセレナの視線は俺に向かっていて。
「普段通りなわけあるか! あんな魔法、初めて見たし、初めて聞いたぞ!?」
顔の前で手を振って、全力で否定する。
「まぁ、別に構わんが。――ん? お主の仲間か?」
何かに気が付いたのか振り返ったセレナは、こちらに向かって高速で移動してくる黒い影を見ながら、同じく首を傾げながら聞いてきた。
俺、あんなのと一緒に見られてるのか?
それともセレナにとっては人間なんて存在はちっぽけ過ぎて違いが分からないとかか?
「あんなのの仲間なんて願い下げだ。俺をさっき襲ってきたやつらだよ。倒して構わんぞ」
まぁ俺がそんな事言う前にセレナは向かって行ってるんだけどな。
シズ履いたまんま。
シズが居ないと俺空中歩けないんですけど?
「妾に喧嘩を売るとは、身の程を弁えよ!」
セレナが黒い刺客とすれ違う寸前に、そんな事を吼えたかと思えば、その言葉の直後に。
「殲風《怒り狂う暴風》!!」
またも聞いた事が無い魔法名を唱えたシズが続く。
セレナを中心に、爆発を思わせる強風が放たれ、空中で大きく体勢を崩した刺客たちに、強風により発生したかまいたちが幾重にも襲い掛かる。
「っ!!?」
空中でバランスを崩し、なおかつ傷まで付けられて、しかし。
声を上げることは無かった刺客たちに、セレナの膝が突き刺さる。
人間の身では叶わない自在に、高速に動き回るセレナの勢いの乗った一撃を受け、地へと叩きつけられた刺客は、そのまま動かなくなる。
「お主、珍しい魔法を知っとるの。今度教えてくれんか?」
「あ、はい。私で良ければ……」
二人はほのぼのそんな事を口にしているが、周りは刺客たちに囲まれていて、結構危ない気がするんだけど。
動かなくなった刺客を除いて、6人に取り囲まれているセレナを見ながら考えてたが、どうやらというか、やっぱりというか。
危険だとは微塵も思っていないご様子で。
「のう、お主ら。このまま消えて大人しく過ごすか、向かってきてぼこぼこにのされるか。どちらが良いか? 今ならお主らの雇い主の事を洗いざらい吐いてくれるだけで見逃してやるぞ?」
どう考えてもふざけているとしか思えないその言葉は、しかも言っているのが見た目が幼女でワンピースに靴のみしか装備していないともなればなおさらだろう。
中身が人間では無く、龍と知ってる俺からすればセレナの発言は実力通りのものなんだが。
当然刺客達はそんな事知らない為、躊躇い無くセレナを襲い始める訳で。
「旦那、止めなくていいんですかい?」
「どっちをだ?」
「あの黒いのに言ったって聞きやしねぇだろ! HAHAHA」
「そりゃそうだし、セレナもどうせ止まらんだろ。言うだけ無駄だろ」
心配そうに聞いて来たトゥオンに返せば、乗っかったシエラが豪快に笑う。
あー……、蚊帳の外ってのはいいもんだな。
戦闘の時に限るけど。
「兄さま、どうやって、合流、する?」
「あいつらに? 適当に暴れたら帰ってくるだろ」
メルヴィに言われるが、適当に答えて目の前で繰り広げられている戦い、もといあしらい続けるだけの演武をするセレナへと視線を移す。
超速で飛び回り、まるで蠅を叩き落とすかの如く刺客を処理するシエラに、
「セレナ! 最後の一人は捕まえて持って来てくれ!」
俺は精一杯の大声で叫んだ。
聞こえてなかったらどうしようかと思ったが、しっかり聞こえてくれていたようで、最後の一人を打ち下ろさずに、真上に蹴り上げ、しばし御戯れになられて。
思わず丁寧語になるくらいには無残に遊ばれた刺客の一人の襟首を掴んで、ゆっくりとこちらへ向かって来る。
「加減が難しいが、これぐらいで平気か?」
「おもっくそやり過ぎてるけど、息があるならいいだろ」
「ご主人様? 息はしていても、虫の息だと思うんですけど……」
ボロ雑巾と呼んでも差し支えない憐れな刺客を、無造作に門の上へと放り捨てて。
その隣へゆっくりと着地したシエラは不思議そうに俺に聞いてくる。
「それで? こいつは何故必要だったのじゃ?」
「決まってるだろ? ――今から拷問するのさ」