ようやく終わりが見えてきましたとさ
「すまん……何を言っているんだ?」
「? そこな靴の者が魔法を使うのであろう? ならお主のではなく妾の魔力を使えばいい。と言ったのだ」
「シズ、通訳頼む」
「えぇと……他人の魔力を使うというのは流石に……」
本気でセレナの言っている事が分からずただただ困惑する俺等一同。
そもそも魔法ってのは自分の体に宿ってる魔力を消費して撃つもので、セレナが言ったように他人の魔力を使って魔法を撃つ、なんて話は聞いた事が無い。
「なんじゃ、無自覚か? 装備品に魔力など宿っておる筈が無かろう。であればお主の装備品たちはどこから魔力を調達していると思う?」
そう尋ねられても装備に魔力が宿らないとなると……。
「俺か?」
「その通りじゃ。気配からして槍は魔槍じゃの。その魔槍もお主の魔力を使わんと、魔槍足りえることは出来んぞ?」
口にした疑問に肯定したセレナは、ついでに魔槍の仕組みについても解説してくれた。
「では、今まで無意識にご主人様の魔力を使って魔法を発動していたと?」
「だからそうだと言っておる」
シズが口にした疑問にも同じく肯定したセレナに、俺は再度疑問をぶつける。
「んで? どうやって自分以外の魔力を使って魔法を撃つんだ? シズは今言った通り無自覚で俺の魔力を使ってた。どうすりゃいいかなんて分からねぇと思うぞ?」
「簡単じゃ、その靴を妾に渡せ。装備している者の魔力を使って魔法を撃っとるみたいだし、それでよいはずじゃ」
なるほど――シズを脱いでセレナに渡せばいいのか。
なるほどな~。あはは~。
「出来たら苦労しねぇ!! こいつら呪いの装備なんだよ!? 散々やって装備外せなかったんだぞ!? どうしろって言うんだよ!!」
「怒鳴るな、聞こえておる。……ふむ、呪いの装備か」
耳を塞ぎながら、何やら思案しているセレナは。
「呪いの装備、のう。」
いやに呪いを強調した喋り方……待てよ? 呪い……か。
「つまりセレナの加護で装備達の呪いをかき消せるのか?」
「やったことは無いが、まぁ問題ないと思うぞ? 物は試し、まずはやってみるか」
そう言ったセレナはつかつかと俺の元に歩いて来て。
シズへと手を添えて、いつもの。
「払い給へ清め給へ~、とな」
そう呟いて、シズを押さえるセレナの考えを理解して。
俺はゆっくりとシズを脱ごうと試みる。
すると、これまで一切脱げなかったシズがゆっくりと足から離れていく感覚が……。
「うぉっ!? マジかっ!?」
「どうじゃ! 妾の凄さが分かったかの!?」
いつ振りか分からずに脱げたシズを改めて確認した俺の目には熱いものが込み上げて来て。
「なんじゃお主! 泣いておるのか!」
指を差されてセレナに笑われるが、お前に俺の気持ちが分かってたまるか!
しかし久々の裸足だ。ちょっとこの感覚を忘れないようにそこら辺走ってくるわ!
と駆け出そうと体を動かした時に、スチャっと少しだけ嫌な音がして。
何なら足の裏にヒヤリとする門の温度も、固い感覚も届かなくなって。
ゆっくりゆっくり俺の脚を確認すると、そこには先程と変わらないシズに包まれた俺の脚が見えて。
「戻ってるじゃねーか!? なんだ!? セレナの能力ってそんなもんなのか!?」
「そんなもんとは失礼じゃの! あれじゃ! 思ったより呪いの力が強かっただけじゃ! 手さえ離さんでおけば大丈夫じゃ!」
そういや指差しながら腹抱えて笑ってやがりましたね。
それで両手を離したからシズが俺の元に戻って来た……と。
「にしても存外強い呪いじゃの。妾の力をもってしても浄化出来なんだのは初めてじゃ」
「そうなのか」
再度シズを押さえてもらい、シズを脱いでる途中にセレナが見せたのは、驚嘆の表情だった。
「下手すると黒呪霊クラスの呪いが掛けられておるのかも知れぬ」
「分かりやすく呪いの浄化は無理って言ってくれていいぞ?」
あっさり口にする二つ名はただの災厄です本当にありがとうございました。
「無理ではない。現にこうして呪いは無効化出来ておろうが!」
「触れてる間だけな! でもこれでシズ履けるんだろ?」
「そうじゃな、ではシズとやら。妾の魔力を存分に振るい、この霧をかき消す風魔法とやらを頼むぞ」
いそいそとシズを履いたセレナは、何故だか上体を仰け反らせ、盛大に胸を張った。
そんなセレナの呼び掛けにシズはしっかりと反応して。
「お任せください! ……ちょっ!? 何ですかこの魔力っ!?」
どうやら魔法を撃とうとして、セレナの魔力にどうやら驚愕したらしいシズは。
「《神風『神の産まれ出る吐息』》!!」
まるで聞いた事も無い魔法名を発音して――瞬間。
暴風、いや……、それこそ街全体を壊す壊風と表現しても差し支えない程の強い風が、セレナから発せられて。
その風により、街全体を覆っていた禍々しい色の霧は――綺麗さっぱりに吹き払われた。