同行者が増えましたとさ
「何だこれ……何が起こったんだ?」
「? ただそちの体から呪いを取り除いただけじゃろ? 驚く事でもあるまい」
「呪いって、術者どうにかする以外の解決法知らなかったんすけどね」
「無理に解呪すると反動があると聞いた事があります。――大丈夫なのですか?」
俺の疑問に、こんな簡単な事で驚くのか? みたいな表情で説明したセレナに。
トゥオンとシズがそれぞれの思いを口にする。
トゥオンは驚愕、シズは心配を。
「反動? そもそも妾に呪いの類は効かぬ。聖白龍の名は飾りでは無い」
サラッと二つ名を言ってんだけどこいつ。……二つ名持ちのモンスターは等しく神様だよ馬鹿野郎。
ハウラも白龍って名乗ってたがあれは種族名。に対してセレナの名乗った二つ名というのは種族名に何か一つ文字を足したものであることがほとんど。
怨毒蛇や深海獣なんかは姿を見たら全力で逃げろ。と図鑑に説明されてるくらいは危険な化け物で。
何だったら町を壊滅させた。だとか、国を滅ぼした。なんて伝承があってもおかしくない。
もちろん俺は二つ名持ちのモンスターなんて初見だし、ぶっちゃけ空想上の生物と脳内で片付けてさえいたんだがな……。
「聖白龍って……ハウラより上じゃ――」
「黙れ」
ハウラよりも上と口に出した途端である。
あのハウラよりも強い、大きい威圧感を背景に出現させ、俺を睨みつけてくるセレナは。
「貴様如きに何が分かる。妾には母上に勝る部分など一つも無い。母上の、私の何が貴様に分かるッ!?」
爆風に似た、魔力の解放。魔法とも呼べず、ただただ魔力を押さえつけていた門を開けただけの、不器用な行動。
それなのに、俺は吹っ飛ばされる寸前で。立っている事すら敵わず、膝立ちで魔力の波が納まるのを待つ。
ようやく納まった魔力の放出に顔を上げると、そこには虫けらを見るような目で俺を見下すセレナが居た。
「言葉を選べ。でなければ殺す。母上とはどの様な関係だ?」
「人間とすれ違いを起こしてたから、その仲を取り持った関係だ」
「詳しく話せ」
「ハウラ様は身重でして、ゴブリンに食べ物の調達をさせていたんですけど、そのゴブリンが人間の町を襲ってまして……」
「相棒がそのゴブリンの掃討を依頼されて無事に掃討。ゴブリンがやってた食い物の調達は人間がすることになったってわけさ」
「母上が……身重?」
それまでの威圧はどこへやら。目を丸くして驚いたセレナは。
「そうか、母上が……。妾も姉になるのか……」
なんか感涙してるんですけど……。威圧したり凄んだり、泣いたり大変だな。
「母上の鱗を持っておったのは報酬として貰ったのかの?」
「その通り。割と枚数貰ったな」
トゥオン達も含めたら十数枚貰ってるしな。店で売ったら一財産築けるくらいの。
「ふむ……。そちら、この霧をどうにかしようとしておるのか?」
「そりゃあ。けど意外と手詰まりでなぁ」
とりあえず動けるようにはなったし、情報集めを再開しなくちゃな。
「そちらの持っておる母様の鱗。それをくれると言うのなら手を貸さん事も無いぞ?」
「そりゃあ手伝いは嬉しいが……具体的には何を?」
「ふむ。そちの体内に入り込んでいた呪い。その波長は記憶したゆえ、呪いの発信源程度なら分かるぞ?」
「「マジでっ!!?」」
呪いの発信源探知とか見た事も無ければ聞いた事も無い。それを程度とか言われたら俺たち人間はどんな反応をすればいいんだ……。
「驚く事でも無かろう。隠蔽すらせず垂れ流しぞ? どれだけ離れようと分かるぞ?」
「まぁいいや……。鱗、一枚でいいか?」
「出来れば数枚欲しいが……前報酬という事で今は一枚で我慢するとしよう」
懐から取り出した鱗をひったくる様に神速で奪われて、俺は手が痛いんだが?
「さて、呪いの元凶を断つとするぞ。なぁに、数名見張りが居るようだが、物の数では無いの」
「あ、おい。待て、待ってくれ」
人型であっても空を飛べるらしいセレナは。トンッ、と軽く蹴っただけで空へと身を投げ出して、その呪いの発信源の場所へ急行しようとしていたが――。
俺、その場所聞いてねぇからな。せめて場所は教えてくれねぇと。
「何じゃ? 何故に妾を呼び止めたのじゃ?」
「いや、場所。どこに向かう気だ?」
「ん? 言っておらなんだか? あそこじゃ」
そう言ってセレナが指をさした場所は。
「門?」
「そうじゃ。あの場所から禍々しい呪いの力が溢れ出ておるぞ」
「了解。あそこに向かうのな。……シズ。WWとSWを」
「かしこまりました」
俺もセレナに続いて空を駆ける準備は完了。
「では、今度こそ向かうぞ?」
「おうよ!」
はてさて、門には何が待ち構えているのやら。