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動けなくなりましたとさ

 頭痛が気にならねぇと思ったら――感じたのは手足の痺れ……。

周りの景色がスローモーションに流れていく中、自分も発症してしまった事を理解した俺は。

何の受け身も取れぬまま、床へと倒れ込んだ。


「だ、大丈夫ですかっ!?」


 何の前触れもなく倒れ込んだやつが大丈夫である理由を教えて欲しいもんだ。

といってもこれ以上この子を関わらせる訳にもいかないし、どうしたもんか。


「悪い、ちょっと肩貸して貰えるか?」

「は、はい。どこかにお連れすればよろしいのですか?」

「とりあえず教会の屋上に頼む。後は勝手に回復するからさ」


 そう言っても怪訝な顔で俺の顔を覗き込んでくるが、このままだとあんたはいつ襲われてもおかしく無いんだよ……。


 鎧着こんだおっさんに肩を貸し、足の痺れにより遅くなった歩みに合わせ、屋上に着く頃には、シスターは額に汗を浮かべ、肩で息をしていた。

流石に申し訳ないと思い、


(ツキ、シスターさんに回復魔法頼む)

(はーい)


ツキに回復魔法をかけるように指示。


 間髪入れずにツキが回復魔法を発動してくれて、シスターさんの体が淡い光に包まれる。


「? ……あ、回復魔法? ――ありがとうございます」

「いいって。つーかお礼言うのはこっち。文献読ませてくれてありがとな。ついでにここまで肩貸してくれて」

「いえ。……冒険者様はもう行かれてしまうのですか?」

「まぁ、この霧を何とかしないとダメだからな」


 何度も俺に向かって頭を下げるシスターに、ひらひらと手を振って応え、教会内に消えていくのを見送る。

さてと――。手足の痺れとかいうレベルじゃなく、ほぼほぼ動かないんだけど……もしかしなくても霧の症状だよなこれ。


「状態異常耐性はしっかり付与したはずだぜ? それを貫通して影響与えるってのか?」

「もはや状態異常ではなく病気の(たぐい)でしょうぜ。にしても、霧だけで体に害を与えるなんて、ちょっと魔法とは考えにくいですかねぇ」

「魔法、じゃなくて、呪い。多分、間違い、ない」


 呪い。呪い、ねぇ。俺は呪術師でも何でもないから詳しくは知らんが、呪いってのは街をすっぽり覆いつくせる程の規模に出来るのか?


「呪じゅちゅはねー、すっごくめんどくさいのー」


 ツキが下っ足らずに、しかも言えないのが妙に場を(ほころ)ばせるが、とりあえず呪術に関する事の続きを……。


「んーとね。怪我をさせたりー、ちょっと嫌な事を起こす位なら簡単なんだけど、こんなにおっきく色んな人に効果があるようにしようとするともの凄く大変なのー」

「恐らくはになりますが、数人を犠牲にしているかもしれません。……もちろん、そうではないかもしれませんが」

「歯切れ悪いなシズ。命犠牲にした呪術の可能性があるって言っていいぞ?」


 その程度じゃもう怖気付きやしねぇよ。


「ところで旦那、動けますかい? どうやら辛そうですが……」

「情けない事に手足の痺れが酷くて動かねぇな。……何とかならねぇか?」

「何とかって言ったってな。呪術に対するには術師気絶させるか呪術を行ってる場所ぶっ潰すしかねぇな。HAHAHA」

「笑い事、違う。にい様、頑張れない?」


 立つ事すら困難だな。……怒りで握りしめようとした拳もピクリとすら動かねぇ。


「……。ご主人様、ハウラ様の鱗、お持ちですよね?」

「売る暇なかったの知ってるだろ? 懐に入ってる。が、何をする気だ?」


 目の前で具現化したシズが、ハウラの鱗を俺の懐を(まさぐ)って取り出して。


「強く願えばハウラ様に届くかも、と仰っていました。ハウラ様ならば呪いを弾いてくださるかも……」


 そう言って両手で優しく包み、胸へと押し当てて祈祷を始めた。


 神々しく、鱗から薄っすら漏れる月の光に照らされるシズは息を飲むほどに美しく。

神の使いの巫女と言われても恐らく違和感は感じないだろう。


 そのまま時間にして5分少々。

悲しい顔をしたシズが胸から鱗を離し、ゆっくりと首を横に振った。


 割と期待したんだが、ダメだったか。……どうしたものか。

と俺は本気で頭を抱えたのだが、神はどうやら見捨てていなかったらしい。


*


 天上の、一面雲の海。その中に、羽に風を受けてただただ身を任せていると。

久方振りに、それこそいつぶりか思い出せぬほどに久しぶりに、とある反応を拾った。


 はやる気持ちを押さえ、その懐かしい反応へとまっしぐらに急降下を開始。


 あぁ、()()。まだその身は御健在で有りましたか。体の具合は如何ですか?

何か最近変わった事は? 私に、このセレナに。何か出来る事はございますか?


 焦がれた思いを胸いっぱいに広げ、開けた視界に見えたのは、とある町のとある教会で、気持ち悪い色の霧に包まれた街だった。

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