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当然手強いですとさ

 戦いのフィールドに入ると言っても、明確な線引きがあるわけではない。

 俺ら人間が感じられない、視認できないだけで、精神世界は俺らの世界と常に隣り合って存在する。

 その精神世界から精霊たちに干渉してもらう事で魔法というものを操っているわけで。

 四大含む精霊からしてみれば元々住んでいる世界という事になる。

 ただでさえ自分たちの領域ではない俺らの世界で暴れられる四大の力が、何のリミッターもなく解放できるとなれば。

 それは、ただの人間には抗いようのない純粋な暴力でしかない。

 精神世界と俺らの世界の境界を跨ぎ、構えようとした瞬間である。

 風が……頬を撫でた。


「――グガッ!?」


 そよ風程度だったはずのソレは、しかし俺の体へと強く重い衝撃を伝え。


「ご主人様!!」


 咄嗟に俺の体の操作権を奪って回避行動をシズが取ろうとするが。

 逃げる先逃げる先、まるで俺らがどこへ向かうかが分かっているように追撃が俺の体を捉え続ける。


「そもそもさ、この世界に()()()()()()の」


 アイナの体から離れ、長髪で片目を隠した大人の女性の見た目を象るヴァーユは、淡々と。

 興奮も、落胆も感じさせない淡白な口調で俺らへと言葉を飛ばす。


「風は私が作る()()()()。まぁ、何が言いたいかって言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()ね」


 魔物が狩るわけでも無く、ただ獲物で遊ぶ時のように。

 即死しない、そして、意識すら失わないように加減された回避不可の風による殴打は。

 確実に、急激に俺の体へとダメージを蓄積させていく。


「トゥオン!! 何とか出来るか!?」

「やってみまさぁ!!」


 シズの発生させる風に、暴食の効果を乗せて周囲に散布。

 ヴァーユの放つ風を喰らわせ、ダメージを減らそうと試みるが。


「まぁ、そうするだろうと思ったけど、一つ質問。いくつ重ねておけば満腹になる?」


 精神世界で動きもせず。

 ただ風という暴力を吹かせ続けるヴァーユは、真っ向からトゥオン――フェンリルの胃袋へと挑戦状を叩きつける。


「とりあえず一澗位重ねとけば大丈夫そう?」


 不安げに。聞いたこともないような単位の攻撃を重ねたと主張して。

 その言葉を聞いた瞬間、トゥオンから俺へと逆に注文が発せられる。


「旦那! 何してもいいんで力を使いまくってくだせぇ!!」


 それは、相手の途切れないと思える攻撃全てを喰らう覚悟であるという証。

 喰らったエネルギー全てを、『降魔』のエネルギーに変換するから、『降魔』のエネルギーを使いまくれという指示。

 だったら、思いつくすべての行動をやってやるか。


「シズ! ヴァーユの風を少しでも足止めできないか全力で風を発生させ続けろ!!」

「はい!!」

「ツキ! その風に全力でデバフ乗せてやれ!!」

「はいなの!!」

「んでトゥオン!!」

「あっしもですかい!?」

「言い出しっぺも働け! 目につく範囲に氷塊を出現させ続けろ!! うまく行きゃあヴァーユが捕らえられんだろ!」

「あいあい!!」


 そう言うと即座に。

 聞き分けのいい装備たちは、割られた役割を全うすべく力を振るい。

 

「ついでにメルヴィ!」

「ひぅ!? ……何?」

「お前いま絶対油断してやがっただろ……」

「油断……してない」

「まぁいいや、ヴァーユの攻撃に炎でカウンター出来ねぇの?」

「? やっても、いいけど、あまり、効果、ないと思う」

「構わねぇ。とにかくやってくれ」

「分かった」


 未だに俺に『降魔』を許してくれない鎧へと、頼みごとを一つ。

 この頼みごとに特に意味はない。

 強いて言えば、ヴァーユが風で何かしらしているのだから、その風に炎を乗せたらダメージでも入ってくれないかという薄い願望程度だ。

 しかし、薄くても望みが欠片でもあるならば、試してみないと死んでも死にきれない。

 ……別に死ぬのうとしてるわけじゃなく、死も厭わないってだけだ。

 死にたがりと死に物狂いはまるで意味合いが違う。

 攻撃に、行動に乗せる必死さが段違いだ。

 そして、そんな生に執着する様な態度は、今のところ四大は見せていない。

 というより、無いかもしれない。

 絶対的な力を持ち、そもそも存在が消滅する様な危機に陥る事がないであろう四大精霊に、そんな感情は芽生えないのかもしれない。

 だからこそ。……そんな部分に、付け入るスキが――ある。


「その風は、もう当たらない」


 ツキがデバフを重ねたシズの風。

 それを露骨に嫌がる様に距離を取り、さらにシズの発生させた風を打ち消してくる念の入れよう。

 つまり、それだけ喰らったらヤバイという事だ。

 そんで、意識はこれで釘付けに出来るという事でもある。

 だったら、


「余所見は厳禁ですぜ!!」

「え? ちょっ!?」


 そこを突けばこうしてトゥオンの氷塊をヴァーユへと重ねられる。

 当然、ヴァーユ全体を氷塊に捕らえることは出来ないが、氷塊から脱出するためには何かしらのアクションを起こす必要があるわけで。

 そのアクション中は、そちらに集中しているはずであり。


「今度はこっちだぜ!!」


 トゥオンが風の打撃を喰らってくれているおかげで動けるようになった俺が、直接ヴァーユへと殴りに向かい。

 肉薄した瞬間に、ツキがデバフを大量に飛ばし。

 それを弾くための風をわざと貰い、メルヴィの炎を誘発させる。


「っ!?」


 ――が、その炎はヴァーユを巻く寸前で回避されてしまい、体勢を整えられてしまう。

 やっぱ、一筋縄じゃいかねぇか。

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